【第六話】 学園七不思議
学園祭の一日目の朝、玄兎はいのりと共にいた。いのりが学園祭専用のTシャツを自前で作っていたようで、デバイスで着替えられるようにしていたため、玄兎もその服に早速着替えていた。
「えへへ~。玄兎くんが何でもお助け助っ人部に入ってくれて良かったよ~」
現在、玄兎が入ったことにより何でもお助け助っ人部は部員二人になった。玄兎が入るまではこの部活はいのり一人だったのだ。この事実は入るまで玄兎は知らなかった。
「じゃあ、今日は学園祭開始前に招待制健康部? だっけ? と、みーちゃんのとこの学園不思議研究部のところの手伝いに行くよ。それで学園祭が始まったら、しばらく自由行動だよ。後でデバイスに予定を送っておくね」
「相対性綿棒部じゃなかったけ?」
「そうだっけ?」
二人の間に沈黙が流れた。玄兎も自信が無ければ、いのりも自信が無いようで、答えは考えても分からないので玄兎は考えるのをやめた。
「まぁいっか。じゃあ行こう!」
「しゅっぱつしんこーう!」
交替制転向反応部の前まで来ると早速盛り上がっていた。部長の馬木は派手な服を来ており、他の部員は各々好きな言葉が書かれたTシャツを着ていた。
「おう! 来たか! いのりに玄兎!」
「うん、来たよ! 私たち二人になんでも任せて!」
「兄貴! 何をしましょう!」
前回輪に入れなかった玄兎は今回こそは、と盛り上がっていた。すると、この前パピヨンと呼ばれていた女性が入ってきた。
「あんた、もう馴染んだの?」
「はい、姉御! もうばっちりです!」
「はぁ、まぁいっか。じゃああんたはこっち手伝ってもらえる? それからいのりさんは部長の手伝いをしてあげて」
そう指示をだし玄兎といのりは早速手伝いを始めた。玄兎とパピヨンは廊下で準備をしており、そこで玄兎は気になっていることをパピヨンに聞いた。
「姉御、あの超耐性転校半能? だかってあのダンゴムシのやつですよね。その割にはあんまりそれらしい準備をしてませんよね」
「交替制転向反応。うちの部に交替制転向反応が何かなんて知ってるやつは皆無だよ。皆なんだかカッコいいって言って入ってるだけだからね」
玄兎はようやく腑に落ちた。部室内にあったのはコマやゲーム機、ボードゲームなど遊び道具ばっかりであり、今回のブースもそれを並べていただけであったからだ。
「ま、それでもうちの部はこの学園で一番楽しい自信はあるよ。ここにいれば悩みなんて吹っ飛ぶからね」
そういってパピヨンは微笑んだ。その後雑談しながら作業をこなしていると、いのりの方は作業を終えたようで、部長達と共にやってきた。
「だっはっは! 俺様の方は準備が終わったぜ! パピヨン、俺様が手伝ってやろう!」
「姉御! 俺も手伝います!」
「私も手伝う!」
そういってパピヨンの元に他の部員も集まってきた。パピヨンは廊下から中の様子を除くと呆れたような顔で叱責し始めた。
「あんたらねぇ、私言わなかったっけ? 動線の確保ができてないじゃん」
「だっはっは! パピヨンは面白いことを言うな! 導線はなるべく見えないように工夫したんだぜ。ちゃんと導線はあるから安心してくれ」
「さすが部長ですね!」
「あっ! やけにケーブルの位置に拘っているなぁと思っていたらそういうことだったんだぁ……」
いのりは馬木の行動が腑に落ちたようで何やらうなずいていた。その一方でその他の交替制転向反応部の面々は馬木を褒めたたえていた。パピヨンは頭を抱えてうなだれた。
「はぁ……。動線の意味が正しく伝わってなかったか」
いのりと玄兎はパピヨンに同情の意を向けた。
「あんたら二人はもう大丈夫だよ。手伝いありがとね。あとはあたしたちでやれるから」
「お前らも後で来てくれよ! 俺様が直々に相手してやろう!」
「うん! ありがとう! 後で絶対に来るよ!」
「兄貴! よろしくお願いします!」
そう言って玄兎たちは交替制転向反応部を離れ学園不思議研究部に向かった。その道中いのりは学園不思議研究部について教えてくれた。
「玄兎くんはこの学園の七不思議について知ってる?」
「聞いたことないかも」
「みーちゃんたちはこの七不思議について調査してるんだよね」
玄兎はそういったミステリーめいた話が好きではあった。しかし、玄兎はこういった話を基本的に信じていなかった。それを見透かしたのかいのりは不機嫌そうな顔をした。
「あ~、その顔は信じてないねぇ? 私だって七不思議の1つは確認したんだから!」
「どんなの?」
そう聞くといのりはやや真剣な表情になって語り始めた。
「図書館にある時計が他の時計よりもなぜか遅く進むの。新しい時計に変えてもね。そこで暫く過ごした人の腕時計もずれちゃったって話だよ」
「ん~……なんかの魔法じゃない?」
そういうといのりは顔がパッと明るくなって興奮したように話し始めた。
「やっぱり!? 玄兎くんもそう思う? みーちゃんも私もそう思ってるんだよね。どうにかして確認できないかなぁ?」
「あまり変なことを考えるなよ、いのり」
そう言って後ろからクレールが現れた。
「また会ったな、松雪。話は聞いている。いのりが暴走しないように頼むぞ」
「えぇ、任せてください」
そう言うといのりが再び不機嫌そうな顔をして顔を膨らませていた。
「む~、そんなことしないもん!」
「調査のために、なんて言ってお前は私たちを巻き込んだじゃないか。風紀委員でありながらまさか学園裁判にかけられるとは思わなかったぞ」
「それは~……えへへ……。さ、さあ! 玄兎くん! 早くみーちゃんのとこに行こう!」
そう言っていのりは玄兎の背中を押してそそくさと退散し始めた。その際いのりはクレールに振り向き声を掛けた。
「それじゃ、くーちゃん。見回りのお仕事頑張ってね~!」
玄兎がクレールの方をチラッと見ると、クレールは呆れながらも笑っていた。そしてそのまま学園不思議研究部の前に着くと探偵のコスプレをしたミアが不思議そうな顔をして待っていた。
「あんたらもうそんな仲良くなったの? あと、もう準備終わったから手伝うことないわよ?」
「あ、じゃあ学園祭が始まる前に玄兎くんに学園七不思議について教えてあげて」
「あれ、知らないんだ。……あ、じゃああたしが直々に紹介してあげるわ! その代わりあとであたしの願いを聞いてもらうから!」
そう言って有無を言わさず、部室内に入れさせられた。部室内はなんだか怪しげな雰囲気を作り出しており、その場にいるだけですくみ上ってしまうほどだった。
「こ、こんな怖くする必要ある……?」
「こういうので大事なのは雰囲気よ、雰囲気」
そう言いながらミアは学園七不思議が書かれたボードを掲げた。
【 学園七不思議
1.増える地下迷宮の仕掛け
2.消える学園生
3.無言の電話に繋がる
4.ずれる時計の針
5.夜にマジクランタの電気が勝手につく
6.悲し気な声が聞こえる食堂
7.学園七不思議を解くと不幸が起こる 】
「さ、どれから聞きたい?」
「おすすめはある?」
「7以外ね。個人的に7は嫌いなのよねぇ。なんかありきたりというか」
「じゃあ7番からで。あとは1番から順番にお願い」
玄兎が学園七不思議を聞き終わる頃には、学園祭が始まりお客さんが入り始めていた。そしてミアはデバイスを取り出し、探偵のコスプレを解き、学園不思議研究部の学園祭Tシャツと思われるものに変えた。
「というわけで早速行くわよ!」
「え? どこに?」
「地下迷宮よ! 学園祭のときしか入れないんだから今が調査チャンスなわけ! そして証拠を見つけて、生徒会長に……」
ミアは何やらぶつぶつ言い始めた。そうしていのり、ミア、玄兎は複合施設マジクランタの地下にある地下迷宮へと向かった。
――空は陰り、太陽は雲に遮られ始めた。
次回の更新は5/13(月)の予定です。
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