【第五話】 特殊作戦隊
「魔法訓練場はここだよ。そして隣が魔法闘技場」
マップを見れば分かることであったが魔法訓練場と魔法闘技場は学生寮のすぐ近くであり、玄兎が先程までいた複合施設マジクランタのすぐ近くでもあった。
「このでかい建物がそうだったんだ」
魔法訓練場の広さはざっとサッカーグラウンド二個分であり、何個かの大きな部屋で区切られていた。そして魔法闘技場はその訓練場の約三倍もの広さを持ち部分的に屋根がかかった建物であった。
「因みに何をするの? 魔法を練習するなら私もやろっかなぁ?」
「それはいい。いのりも参加するか?」
後ろから翔真がやってきて言った。そしてその横には中年の男性が、そして二人の後ろには二名の男女がいた。そしていのりが小声で玄兎に喋りかけてきた。
「え、玄兎くんってひょっとして凄い魔法使い? 会長に特殊作戦隊の隊長って……」
「と、特殊作戦隊!? そんなの聞いてないよ!」
玄兎は嫌な予感を感じ始めた。そしていのりは生徒会長に向かって言った。
「い、いえ! 私は厳しい練習についていける気がしないので遠慮させてもらいます! では!」
そう言っていのりは走って去っていった。玄兎には聞き捨てならない言葉が聞こえたため、生徒会長に言った。
「え!? そんな厳しいんですか!? で、では、僕も撤収させてもらいます!」
走りだそうとした瞬間、足が地面とくっついたかのように動かなくなり玄兎は転んでしまった。
「いてっ!」
そして翔真が中年の男性に困ったように言った。
「アレックスさん、校内での魔法はほどほどに……」
「ははっ。すまないな。愉快な子でついからかいたくなってしまってね」
そう言ってアレックスと呼ばれる男性は玄兎の元へやってきて手を差し出した。
「すまないな、怪我はないか。私の名はアレクサンダー・ドレイクだ。アレックスと呼んでくれ」
「……はい、大丈夫です。僕の名前は松雪玄兎です。ありがとうござい――まっ!」
今度は掴んだ手から電気を流された。翔真は困り果てたような顔をしており、後ろの男性は無表情で、女性の方はため息をついていた。
「はっはっは! 本当に愉快な子だ! 今日の訓練が楽しみだよ」
玄兎は青ざめた。その反応を見てますます面白くなったのかさらにアレックスは大笑いしていた。すると後ろの女性が呆れたように口を開いた。
「ちょっとパパ、その辺にしときな。ごめんね、うちのパパが。私はオリヴィア・ドレイク。で、そこにいる彼が蓬莱剛太」
剛太は玄兎に向かってペコリと頭を下げた。
「厳しい訓練なんてしないから気にしなくていいよ。……ま、私らのとこに入れば話は別だけどね」
そう言ってオリヴィアはニヤリと笑った。玄兎は、オリヴィアが父親とは違って真面目なんだと一瞬でも思ってしまったことを後悔した。
「はっは。そういうことだ。今日は翔真殿が言うお前の魔法を確認しようと思ってな」
玄兎は安心して大きなため息をついた。そしてそれをからかうようにアレックスがわざとらしく真顔になり、オリヴィアに命じた。
「やはりたるんでるな! オリヴィア隊員! 後の用事が終わり次第彼を隊へ合流させることを命じる!」
「なんでですか! やめてくださいよ! 生徒会長も何か言ってくださいよ!」
翔真は玄兎の訴えに対して玄兎から目を逸らしてつぶやいた。
「玄兎……。すまないな」
「はっはっは! 本当に面白い子だ。ただこれ以上は時間が惜しいな。早速向かうか」
「大半の時間の浪費はパパのせいだけどね~」
「はっはっは。それもそうだな!」
そうして魔法訓練場の中に入ると、早速この前の生徒会長の魔法を打ってみろと命じられた。玄兎は、この前魔法を出した通りに片手を掲げた。しかし、頭の中にあの魔法のイメージが湧かず魔法も不発に終わった。
「で、でません……」
「ふむ……」
玄兎は気まずさに耐えられなくなり今にも逃げ出したくなった。すると翔真が口を開いた。
「アレックスさん、俺に考えがあります」
「なんだ」
「もう一度俺が魔法を使ってみます」
そういうと翔真は玄兎の近くに歩み寄り、再び【エクラ・ソレール】を繰り出した。すると玄兎の頭に再び魔法のイメージが浮かび上がってきた。
「今なら出来ます!」
そう言って玄兎は再び片手を掲げ火の球を作り出した。
「うおーりゃあ!」
そして、その球を標的に向かって飛ばした。玄兎は褒められると期待したが、アレックス達は至って冷静であった。
「一度コピーしたからといってずっと使えるわけではないのか」
「うっ」
「魔法の強さがコピー元の能力に左右されるのも難点ね」
「うぐっ」
「一人では戦えないかもしれません」
「うぅ……」
ドレイク父娘と剛太にちくちく言われ玄兎は落ち込んでいた。オリヴィアはそれを察したのかフォローを入れた。
「まぁまぁ、そう落ち込まないで。ここまでは私たちもある程度想定内だから」
「寧ろ本目的はここからだ。蓬莱、特殊魔法を使ってくれ」
「はい」
そういうと剛太はアレックスの目の前に黒で満ちた謎の空間を作り出した。そしてその空間によってアレックスが見えなくなり、空間が消えたころにはアレックスは目の前から消えていた。
「え!? 消えた!?」
「ここだ」
「いたあっ!」
玄兎は後ろからアレックスに肩を叩かれた、と同時に再び電気を流され倒れてしまった。アレックスはにやにや笑っていた。翔真は呆れたようにアレックスを見ていたが、オリヴィアはニコニコ笑いながら玄兎に近付いてきて耳打ちをした。
「どうだ? 今の魔法は真似できそうか?」
アレックスの問いに玄兎は直ぐに立ち上がり元気な声で答えた。
「はい! できそうです!」
玄兎は先程の魔法をまねた。実際に作り出した空間に入ってみると、今いる部屋の中の一定の範囲内なら誰にもばれずに自由に移動できるようで、玄兎はアレックスの背中側に回った。
「やり返しです!」
玄兎は先程のアレックスの電気の魔法をコピーし、アレックスの肩を叩こうとした。
「甘い!」
「ぎゃあ!」
アレックスはそれを華麗に躱し、玄兎の背中にもう一発電気を流し込んだ。
「さすがだね~パパ、私の作戦に引っかからないなんて」
「オリヴィア、こんな見え透いたことをやりおって。この後みっちり話し合おう」
「えぇ! 嫌だ!」
アレックスとオリヴィアが言い合っている中、翔真は玄兎を見て何やら考え込んでいた。
その後もいくつかアレックスの指示で玄兎は魔法をコピーをしては放っていた。そして開始から数時間後、玄兎が疲れてきたところで終わりとなった。
「さて、玄兎くん、君の能力は大体把握した。だが私の勘だが君の魔法はまだまだ本領を発揮していないように思える。何かあったら手伝おう」
そう言って、アレックスは玄兎のデバイスに連絡先を送り、握手を求めた。玄兎はまた電気を流されることを見越して握手をしなかった。
「もう騙されませんよ!」
「む。ばれたか。やるなぁ。はっはっは!」
「じゃあ、私と剛太君の連絡先も送っとくね。今日はお疲れ~!」
「ありがとうございました」
その後、アレックスはオリヴィアと剛太を先に帰らせた後、玄兎に真剣な面持ちで話しかけた。
「玄兎くん。蓬莱と仲良くしてやってくれ。彼は10年近く前に家族も、故郷も、ほとんどを魔物に奪われているんだ。すまないね、こんなことを頼んで」
そう言ってアレックスも去っていった。
「玄兎、ちょっと良いか?」
残っていた翔真に玄兎は呼び止められた。
次回の更新は5/12(日)の予定です。
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