【第十話】 要塞攻防戦一日目 毒雨の中の三人
――少し前のこと。
「貴様は後だ。邪魔が入らないように見ておけ」
「はぁ……。好き勝手言ってくれますね」
赤熊はその場を離れ、遠くでこちらを見ていたクララとリュカの元へと向かった。
「あ、あ、あの! 大丈夫ですか!?」
「見ての通りです」
「熊のおねーちゃん、カッコよかった! ぼくもあのまほー使いたい!」
赤熊は内心嬉しかったものの、平然を装い、デバイスを取り出した。
「……南東方面で仲間がやられた可能性があります。急いで向かいましょう。道中、やられた人に出会えれば良いのですが」
マップを確認すると、南東方面のマップの更新が途中で止まっていた。南から駆けつけたと思われる軌跡も残っており、何かが起こったのは間違いなかった。
「なんとーってどっち?」
「あっちです」
赤熊はクララとリュカを連れ、急いで南東方面へと向かった。
「あ、待て!」
「何ですか?」
いざ、南東方面の森へ入ろうとすると、赤熊達は二人組の男に話しかけられた。
「そっちは行かないほうがいい。どこかに敵が潜んでやがる」
「なるほど。なら尚更倒さなければいけませんね」
「あんたたち3人じゃ無理だ! もっと連れて行ったほうが……あれ?」
赤熊は二人に幻覚魔法をかけ、そそくさと森の中へと入り込んだ。
「あ、あのぅ……私たちだけで大丈夫なんでしょうか……?」
「隠れるのが得意なのはあちらだけではありません。それにいざ戦いとなっても私は負けるつもりはありませんから」
赤熊は周りを警戒しながら、クララの心配に答えた。
「……静かに」
赤熊は微かに話し声が聞こえたため、二人に茂みで静かに隠れるように指示をした。
「……えぇ。既に5人ほど。はい、分かりました」
その声の主は誰かと電話をしているバスティアンであった。
「はぁ、委員長も素直に言ってくれればいいものを……」
「な、なぜ副会長がいるんですかぁ……!? ラッシュさんに副会長……もう終わりですぅぅ……!」
「泣き虫おねーちゃんうるさい……!」
要塞攻防戦に生徒会及び特殊作戦隊は参加しないはずなのだ。そのため、バスティアンがいることにクララはとてつもなく驚いた。一方でジョナサンからそれらしきこと聞いていた赤熊は至って冷静であった。
――ピロリンッ
突如、三人のデバイスが鳴り響いた。
「ほう」
「なんて間の悪い……!」
バスティアンは三人目掛けて容赦なく魔法を放った。赤熊は即座に二人の首元を掴み、バスティアンから離れた。
「ふむ」
バスティアンは辺り一帯に緑色の雲を作り出し、一斉に毒の雨を降らせた。
「ぞ、ぞぞゾーン、あ、ああ、アンテルディット!」
クララは自身周辺に薄いバリアを張った。そこに触れた毒の雨はすぐさま消え去り、傘のような役割を果たした。
「リュカ、撹乱……えっと、相手の邪魔をする魔法を」
赤熊はバスティアンに幻覚魔法をかけると同時にリュカに指示を出した。
「わかった! エサン・ディリュジオン!」
リュカは赤熊の指示に従い、バスティアンに向かってたくさんの虫を放った。虫はバスティアンの周りをただひたすら飛ぶだけであったが、赤熊の幻覚も相まって、バスティアンは完全にこちらの動きが見えなくなっていた。
「このままラッシュさんにあの人をぶつけます。クララさん、防御は任せました」
「は、はいぃ~!」
赤熊は幻覚魔法を駆使し、バスティアンの誘導を開始した。その間もバスティアンは幻覚にかかっていることを認識してか広範囲に魔法を発動していた。
「うぅ……キツいですぅぅ……」
「泣き虫おねーちゃん、あとちょっとだよ! がんばって!」
クララの魔法は体力の消耗が激しいのか、クララの歩くスペースは徐々に鈍化し始めていた。
「……すみません、また後で」
「ふぇ?」
「リュカ、しっかり掴まってて下さい」
「うん」
赤熊はリュカを背負った。歩くのが遅いクララに一瞥することもなく、クララを置いて魔法の傘から抜け出した。毒の雨が降り注ぎ、毒の霧が立ち込める中、赤熊は素早い身のこなしで毒の中を突っ切り、バスティアンから距離を取った。そして赤熊はバスティアンの幻覚魔法を解除し、わざとバスティアンの視界に映り込んだ。
「ちょこまかと……プリュイ・ド・フレッシュ・ヴネヌーズ!」
バスティアンは赤熊目掛けてクロスボウから大量の毒矢を発射した。赤熊はリュカを背負いながらも、素早い身のこなしで全ての矢を躱しきると、幻覚魔法により今度は自分たちの姿のみを消した。
「彼女、やるな。げっ……!」
「……くくっ……今回参加したのは間違いじゃなかったようだな……! バスティアンッ!」
赤熊はラッシュがバスティアンに気付いたことを確認すると、玄兎がどこにいるか探し始めた。
「負けたようですね。リュカ、ここで待っていてください。松雪さんを助けてきます」
「……――とこうしてあなたを助け出したわけです」
リュカと合流し、三人はラッシュ、バスティアンから離れた森の中で腰を下ろしていた。そこでは二人の戦いこそ見れないものの、時折聞こえてくる音がその戦いの凄惨さを示していた。その音を背に、玄兎は赤熊の回復魔法を受けつつ、これまでの流れを赤熊から聞いた。生徒会と特殊作戦隊が不参加であるにも関わらず、参加している理由も気になったものの、それ以上に気になっていることがあった。
「う~んと、クララさんは大丈夫なんですか?」
「あっ」
赤熊は完全に忘れていた様子で感嘆の声を漏らし、一瞬固まった。
「すぐそこなので迎えに行ってきます。少々お待ちを」
「おねーちゃん、いってらっしゃーい!」
赤熊は慌てて立ち上がると森の奥へと進んでいった。残った玄兎とリュカで話をしていると、2分も経たないうちに、クララを背負った赤熊が戻ってきた。
「松雪さぁん……お疲れ様ですぅぅ……」
クララは今にも死にそうな声であった。赤熊はクララをゆっくりと地面へと降ろすとそのまま寝かしつけた。
「私の魔法では回復しきれません。いっそ死んで復活しますか」
赤熊はクララに向かって魔法を撃つ準備をした。
「ま、待って下さいぃぃ! 痛いのは嫌ですぅぅぅ!」
「なんだ、元気じゃないですか」
先程まで蚊の鳴くような声だったクララが、一転して裏返るほどの大声を上げ、慌てて起き上がった。
「くまのおねーちゃん……怖いよ……」
「う、すみません」
「あうぅ……」
だが、その元気も束の間、クララは再び倒れてしまった。
「本当はこのまま相手の要塞を探したかったのですが、しょうがないですね。この人を回復できる人に預けましょう」
「わ、私置いてかれるんですかぁ……? 熊さん、一人にしないでぇ……。松雪さぁん……」
クララはうつ伏せになりながらも目だけは懸命に動かし、訴えかけてきた。
「赤熊です。すぐに回復出来ないようであれば置いていきます」
「うぅ……」
赤熊は再びクララを背負い、ラッシュとバスティアンを避け、四人は再び要塞へと戻った。
次回の更新は9/4(木)の予定です。
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