【第八話】 要塞攻防戦一日目 巨星、現る
「いたっ! もー、だちこー! しっかり周りみててよ!」
「うぅ、ごめん……」
核へと進む2人は仲間が設置した侵入者を阻む魔法や物理的な罠に引っかかりまくっていた。核に近付くにつれ、見かける仲間の数が減る代わりにそういったトラップの数が極端に多くなり、少し前に進むだけでも時間がかかってしまっていた。
「じゃ、だちこー、またよろしく!」
そうして踏み抜いた魔法のトラップは玄兎が魔法をコピーして直したり、近くにいたトラップを仕掛けた本人に直してもらったりしていた。物理的な罠に関しては直せるものは直し、分からないものはそれっぽく直しておいた。
「あとちょっとだよ!」
「気を付けていこっか……」
二人は要塞の更に奥へと歩みを進めた。するとやがて、いくつもの通路と繋がる広い部屋へと出た。
「なんか……凄いことになってるね」
核の周囲は、炎、雷、風、氷――様々な属性の魔法がカーテンのように核を覆い、もはや核そのものは見えなくなっていた。
「ぼくもなんかやろーっと!」
そういってリュカは核の周りの地面に蜘蛛の巣のようなものを張り巡らせた。
「これでよし! ……あれ、なんでここに来たんだっけ?」
「あ、クララさん」
玄兎はここまで来るのが大変すぎて本目的を忘れていた。しかし周りを見渡してもクララはおろか、二人以外誰も部屋にはいなかった。
「おーい! クララさーん!」
「あぁ、松雪さん! お願いしますぅぅ! 助けて下さぃぃ!」
玄兎が大声で呼びかけると、玄兎が来た道とは別の通路からクララの声が聞こえてきた。あまりの切迫した声に玄兎は慌てて声がする方へ行くと、クララは檻の中へと閉じ込められていた。
「うぅ……まさかこんな罠があったなんて……」
「ちょっと待ってください。今助けます。……え!?」
玄兎が檻に近付いたその瞬間、更に大きな檻が上から降ってきて、玄兎とリュカ諸共閉じ込めてしまった。
「ど、どどど、どうしましょう!?」
「ぼ、ぼく……このままここに閉じ込められるの……?」
「ちょっと待っててね」
玄兎は檻を手で持ち上げようとしたが、異様な重さでびくともせず、いくつか使える魔法を放ったものの、びくともしなかった。
「うぅ……ごめんなさいぃ! 私のせいですぅぅぅ! 核を集合場所にした上、檻なんかに捕まる私が悪いんですぅ! ドジな私を殺して下さいぃぃぃぃ!」
「わわ! おねーちゃん、泣きすぎだよ! 泣き虫!」
「泣き虫でごめんなさいぃぃぃ! 私はドジでクズで泣き虫のしょうもない人間なんですぅぅぅ!」
先程まで泣きそうなリュカであったが、クララの勢いと涙の量に押され、涙が引っ込んでいた。
「あ、そうか。僕が二人を倒せば――」
「ひょえぇぇぇ! 本当に殺すんですかぁぁぁ!? 私痛いのは嫌ですぅぅぅ!」
「だちこー! それはさいしゅー手段だよ!」
玄兎は名案を思い付いたと思ったが即座に二人に否定されてしまった。
「……じゃあ……どうしましょう?」
「あぁ……私が無能なばかりに……まさか核の周りがこんなことになってるなんて初めて知ったんです……ごめんなさいぃ……」
「泣き虫のおねーちゃん、おもしろいね!」
「え! ……こ、光栄です……えへへ」
全く光栄なことでは無いにも関わらず、クララは何故か笑顔になっていた。
「泣き虫おねーちゃんは名前なんていうの?」
「わ、私はクララ・フィンチです」
驚くことにクララは、リュカに面白いと言われたのが嬉しかったのか、素直に自己紹介をした。
「クララさんは頭良いからなんでも知ってるよ」
「え! そうなの!?」
「そんなことはないですぅぅぅ! 私なんて世間知らずのゴミなんですぅぅぅ!」
クララはリュカの期待するようなキラキラする目に耐えかねて泣きながら目を逸らした。
「じゃあさじゃあさ! モルフォちょうってしってる!? あねごの飛んでる姿と似ててきれいでさ――」
「もちろんです!!!!」
「えっ……」
リュカがワクワクした声で話し始めると、クララは今までに聞いたことのないような声量で話を遮った。驚きのあまり、リュカは黙ってしまった。
「モルフォ蝶は構造色で有名で、実は青く見えるのは羽の構造によるものなんですよ! そもそもですね、青の色素を持つ生物っていうのは少なくて、この理由はですね――……」
そんなリュカを気にも留めずクララはひとりでに難しい話を始めた。
「な、なにをいってるのかわからない……」
「僕も分からないから大丈夫だよ」
リュカは玄兎を泣きそうな目で見つめてきたため、玄兎は安心させるように言った。クララの難しい話が続く中、玄兎の後ろ、核の方面から人の気配がした。
「……全く……何をやってるんですか?」
「あ、赤熊さん! 助けてください!」
現れたのは赤熊だった。赤熊が現れたことに気付いていないのか、クララは未だに話を続けていた。
「う、うう……ちょうちょについて聞きたかっただけなのに……。おねえちゃん……たすけて……」
リュカは泣きそうな目で赤熊を見た。赤熊は呆れた目はしながらため息をついた。
「……とりあえず檻から出します」
赤熊は慣れた手つきで檻を元の場所へと戻した。そしてようやく今の状況に気付いたのかクララははっと我に返った。
「あ、ああぁぁ、どなたか存じませんが私のようなゴミを助けてくれてありがとうございますぅぅぅぅ!」
「まずはここを離れますよ。私の後ろに付いてきてください」
「もちろんですうぅぅぅぅ! 一生付いていきますぅぅぅ!」
赤熊はクララを無視し、歩き出した。
「うぎゃあ!」
赤熊の後ろを付いて歩いていたクララが物理的な罠に引っかかった。
「今助けます」
赤熊が手早い動きで助けるのに合わせて玄兎は罠をそれっぽく直した。
「松雪さん、テキトーに直すのやめてください。あなたがテキトーに直した罠を直していたせいで、あなたの元へ来るのが遅くなったんですから」
「くまのおねーちゃん、顔がこわいよ?」
「す、すみません」
赤熊はリュカに弱いのか怖いと言われ、少し悲しそうな顔を見せた。だがすぐに表情を元に戻し玄兎がテキトーに直した罠を完璧に元に戻した。玄兎は赤熊の「あなたの元へ来るのが遅くなった」という発言が気になったものの、聞きそびれてしまった。
「さ、行きましょ――」
「うぎゃあ! また引っかかっちゃいましたぁぁ! 助けてくださいぃぃぃ! ごめんなさいごめんなさい!」
クララは直した罠を即座に踏み抜いた。
「もう! 泣き虫おねーちゃん、しっかりしてよ!」
「面目ないですぅぅぅ! もう私のことは置いていって下さいぃぃぃ!」
「……はぁ」
赤熊は呆れた表情でクララを助けた。その後も、クララを中心に何度か罠に引っかかったものの、赤熊の助けもあり、なんとか要塞の外へと出てきた。
「あの〜……もしかしてですけど、赤熊さんって僕たちのあとを付いてきてたんですか?」
一息つけたところで玄兎は気になっていたことを赤熊に聞いた。
「はい。委員長からの命令なので――……っ!」
赤熊は突如警戒するように態勢を構えた。その直後空を一つの影が素早く通り抜け、玄兎たちの前へと降り立った。
「……ほう。反応が早いな。貴様、何者だ?」
現れたのはラッシュだった。
「あぁ。終わった……」
絶望する玄兎は小さくそう呟いた。対照的に目の前に立つラッシュは勝負を渇望するが如く楽しそうに不敵な笑みを浮かべていた。
9月になりましたね。やったね。
次回の更新は9/2(火)の予定です。
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