【第七話】 要塞攻防戦一日目 初動
デバイスの指示に従い、案内されたカプセルへ身を収め、一連の操作を終えた次の瞬間、玄兎の視界はまばゆい閃光に包まれ、景色が一気に塗り替わった。空気の匂い、肌を撫でる風、足元の感触までもが鮮明に迫り、現実との境界が溶けるように、玄兎はバーチャル空間の中へと入り込んだ。
「え、凄い……何この技術!?」
あまりの技術力に玄兎は思わず声を出してしまった。
「それはですね! 魔法と技術を駆使した最先端のものなんですよ!」
そしてその声に反応したのはクララであった。振り返ってクララの顔を見ると、その顔は解説したいと言わんばかりに期待に満ちた顔をしていた。
「あ、えっと……」
クララの名前が思い出せなかった玄兎は一瞬言い淀んでしまった。そしてそれがあってか先程までテンションが高かったクララのテンションは露骨に下がってしまった。
「そうですよね……私のことなんて覚えてないですよね……」
「いや、覚えてますよ! ただ名前が――」
「あぁあぁぁあ……気を使わせてごめんなさいぃぃぃぃ! 良いんです! 私なんて! 電子よりもちっぽけな存在なんですから……。あぁ! 電子に失礼でした……。電子は世の中に無くてはならない存在ですからね……。それに比べて私はいてもいなくてもどっちでもいい。いやむしろいない方がいいですよね。邪魔ですもんね! 私なんかに電子が使われてるのが勿体ないですもんね! 私はこの世界の中で最もいらない――……」
クララの怒涛のマイナス発言は止まらなかった。玄兎が宥めてもその勢いは止まることを知らず、まだまだ続いた。それを止めたのは二人のデバイスだった。
「全員確認。10秒後、拠点周辺ランダム地点への転送を開始します。――皆様、ご武運を」
二人のデバイスから、感情のない機械音声が淡々と流れた。そしてそれを聞いたクララは急に慌て始めた。
「あ、あああ、あの! 松雪さん! すぐにコアのところに来て下さいぃぃ! 私を一人にしないで下さいぃぃ! お願いしますぅぅぅ!」
「分かりました! また後で――」
早口で捲し立てるクララに釣られるように玄兎もまた早口で返答をした。そしてその直後、再び玄兎の見る景色は大きく塗り替わった。目の前には無数の木々がそびえ立ち、深い緑の森がどこまでも続いていた。後ろを振り返ればそこには大きな城塞が建っていた。更に、目に映る味方の学園生は淡く青い光に包まれていた。
「え……核をここから探すの……?」
クララとの集合場所に行こうとした玄兎であったがとてつもない広さの城塞から探さなければいけないことに軽く絶望を感じていた。
「うわっ! なに!?」
とりあえず城塞へと一歩歩みを進めたそのとき、突如周辺で空へといくつも魔法が打ち上がった。中にはハートマークを象った魔法も打ち上がっていた。気を取り直し、再度進もうとすると今度はデバイスが鳴り、玄兎の歩みを止めた。
『個人ミッション
チームミッション
チェックポイント設定
マップ(更新!)』
デバイスを覗くと、要塞攻防戦専用画面となっており、玄兎は一先ずマップを開いた。すると、自身の城塞内のマップと核の位置、そして味方が視認したと思われる地形情報が随時更新されていた。
「もう要塞から離れている人がいる……」
マップを見ると、どんどんとマップの要塞周りの黒塗りに線が入り込んでいき、既に何名かが要塞を出発しているのが分かった。玄兎はミッションが届いていないことを確認すると、マップを開いたまま要塞内の核へと歩みを進めた。
「そこのダチこー! ちょっととまりな!」
道中、どこかからそんな子どもの声が聞こえたが、玄兎は自分が呼びかけられたわけではないと思い、スルーをした。
「えっと……まつゆきさん! とまって下さい!」
再び、あの声が響いた。しかも今度は、さらに近くから。今度こそ玄兎は立ち止まり辺りを見渡したが、それらしき人物は見当たらなかった。
「ここだ、松雪」
「え、パピヨンさん? いやどこに……」
今度はパピヨンの声が聞こえたが、近くにパピヨンは見当たらなかった。
「へへ、ぼくの魔法ばっちりだね!」
「あぁ。これなら十分戦えるだろう」
どこかからパピヨンと子供の話し声が聞こえたものの、玄兎はどこにいるのか全く見当がつかなかった。
「あの〜、そろそろ……」
「松雪、左の壁を見てみろ」
「え、壁?」
玄兎はパピヨンに言われるがまま左の壁をじっと見つめると、腕を組んでるであろうパピヨンと腰に手を当て、胸を張ってるであろう子供の姿がぼんやりと浮かび上がってきた。そして一度認識した瞬間、徐々にハッキリした姿が浮かび上がってきた。
「あ、えっと君は……」
「リュカ・デュポン! だよ! 久しぶりだな、だちこー!」
リュカは元気よく挨拶をした。妹のことが気になった玄兎はリュカに聞くことにした。
「うん、久しぶり。妹さんは元気?」
「げんきだよ! 今回はレアとは敵だからね! おにいちゃんとしてがんばらなきゃね!」
リュカは力強い笑顔で言い張った。
「ちょうどいい。松雪にお願いがある」
パピヨンは真剣な顔で玄兎に話しかけた。
「どうされました?」
「今回、リュカと一緒に行動してくれないか?」
「「え?」」
玄兎とリュカは二人して拍子抜けた声を出してしまった。
「あねご! ぼく、あねごと一緒がいい!」
「本人もこう言ってるし……」
玄兎は本人が嫌がってる上、小さい子どもとどう接して良いのか分からないため、断ろうとした。パピヨンは少し嬉しそうな顔を見せたものの、すぐに真面目な顔になり、リュカに言い聞かせた。
「リュカ、お前レアに良いところを見せたいんだろ? なら一人立ちしたところを見せなきゃな」
「うん、そうする! だちこー、よろしく!」
「……うん、よろしくね」
リュカはすぐに納得したように満面の笑みを浮かべていた。玄兎は結局自分と行動している時点で一人立ち出来ていないじゃないかと思ったが、リュカの目の前でそんなことを言うのも気が引けたため、渋々承諾することにした。
「じゃああねご! ぼくがんばってくるよ! じゃあな!」
「あぁ、頑張れよ。……よろしく頼むぞ、松雪」
「はい」
楽しそうなリュカと裏腹に、パピヨンは一瞬寂しそうな表情を見せ飛び立っていった。
「だちこー、それでどこに行くの?」
「クララさんと合流しなきゃいけないから核のところへ向かおうか」
「えっと……」
リュカはデバイスを取り出し、人差し指で一生懸命操作をし始めた。
「わかった! 案内はぼくにまかせて!」
リュカは玄兎を見ることなく、デバイスを見つめたまま、ずんずんと核へと進んでいった。玄兎は案内されるがまま歩みを進めた。
次回の更新は9/1(月)の予定です。
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