【第六話】 要塞攻防戦、開幕
定例会議から二日後、玄兎は雅人と共に魔法闘技場へと向かっていた。
「いやあ! 遂に今日からだな! ワクワクするぜ! 絶対に精鋭部隊に入るぞー! おー!」
遂に要塞攻防戦の開幕日を迎えた。会場が魔法闘技場であり、そこで開幕式が行われるということで、二人のみならず、多くの学園生が魔法闘技場へと向かっていた。
「僕はラッシュさんにいつ狙われるのかヒヤヒヤしてるよ……」
玄兎はミアに言われたことを思い出し、楽しみな気持ち半分、憂鬱な気持ちが半分となっていた。
「俺はお前とラッシュさんと戦いたいから、出来れば二人とも敵がいいな」
「僕もラッシュさんが味方であることを祈るばかりだよ……」
「味方なのに襲ってきたりしてな! ははっ!」
あり得ないことでも無さそうだと思った玄兎は黙ってしまった。そしてその感情が表情に出ていたのか雅人がフォローになってないフォローを入れた。
「いや、まぁ、流石に無いだろ。多分な。知らんけど」
雅人の言葉はとてつもなく軽かった。
「……味方でも全力で逃げ回るよ」
玄兎は諦め半分にため息をついた。そして覚悟を決め、魔法闘技場へと足を進めた。魔法闘技場へと進むにつれ、魔法闘技場内で流れている音楽が徐々に大きくなっていった。
魔法闘技場の中へと入ると、既に多くの人で賑わっていた。そしてその中でも一際人が集まっている場所があった。
「エリスちゃーん! 握手! 握手して下さい!」
「エリス様ぁぁぁ! こっち向いて――きゃあぁぁぁ! 美しいいぃぃぃい!」
中にはエリスがいるようであった。
「ねぇ、雅人――」
玄兎が雅人にそのことについて話そうとするといつの間にか隣に雅人はおらず、よく見ると、エリスを囲む輪の中に既に雅人が入っていた。
「エリスちゃん可愛いよぉぉぉぉ!」
雅人の声は群衆の中でも一際大きく、玄兎の場所にいてもうるさく感じた。玄兎がぼけーっとその輪を眺めていると足下にいつの間にか『部員、求む!』とデカデカと書かれたチラシが貼られていた。周りをよく見ると、壁や床のあちこちにも貼られていた。
「だーはっはっは! お前ら、よく聞け!」
後ろから聞き覚えのある声が聞こえてきた。振り返ると、自前の物と思われる台に乗り、メガホンに口を当てていた馬木がいた。
「俺様の名は馬木鹿之丞! 公大聖天光万能部はいつでも門戸を開いている! 興味のある奴は俺様の元へ来い!」
その場の視線を一身に受ける馬木だったがほとんどの人が馬木の元へ行こうとしなかった。しかしそんな中、一人が馬木の元へとすごい勢いで駆けていった。
「うぉお! さすが兄貴っす! もんこ? だかなんだか難しそうな言葉よく知ってるすね!」
「おい、バカ! 演技をしろ演技を!」
「はっ!」
全く丸聞こえであったが、そんなことは気にせず、交替性転向反応部の部員は白々しい演技を始めた。
「いやー、自分興味あるっすー! こんな面白そーな部活そうそうないっすー!」
「だーはっはっは! そうかそうか! これが俺様の連絡先だ!」
二人はチラチラとこちらを見ながら演技を続けていた。当然誰も乗るものはおらず、二人はこちらに背中を向け何やら話し始めた。すると今度は玄兎の背後、エリスを囲っていた群衆達がうるさくなり始めた。
「ちょっと! エリス様はどこ!? あの男のせいで見逃したわ!」
「もっと見ていたかったのに!」
玄兎は群衆の中にいるはずの雅人を目を凝らして捜したが、全く見つからなかった。
「松雪くん、付いてきて」
「え? は、はい」
代わりにいつの間にかメラニーが玄兎の隣に立っており、玄兎は言われるがまま付いていくことにした。
付いていくと、魔法闘技場内の個室、窓からは魔法闘技場を見下ろせるVIP席のような場所へと着いた。
「おお、玄兎、来たか! 見てみろよ! すげぇなぁ、この景色」
「ふふ、気に入ってくれたようで良かったよ」
部屋の中には既にエリスと雅人がいた。
「玄兎くん、いらっしゃい。開幕式はここでゆっくり見ていいよ!」
玄兎は全く落ち着かなかったが、大人しく魔法闘技場を見下ろせる席へと座った。
「本当に良いの……?」
「大丈夫大丈夫! ここ私の部屋だから!」
「そうそう、だから松雪くんも安心して」
「そうだぞ、玄兎! 好意はありがたく受け取らなきゃな!」
玄兎はツッコむことは諦め、大人しく開幕式を待つことにした。
少し経つと、音楽が消え、魔法闘技場の真ん中、用意された壇上に一人の男性が上がった。先程まで騒がしかった場内はすぐに静寂へと包まれた。
「さあっ! お待たせしましたーー!! ここからは夢と魔法と闘志が交錯する――エトワール学園、要塞攻防戦開幕式の始まりだあああ!!」
場内は大きな拍手に包まれた。
「まずはーー! この学園の柱にして、我らが誇り! エトワール学園長のお言葉だ! 皆さん、大きな拍手でお迎えください!!」
その瞬間壇上に煙が立ち込め、音楽が流れ始めた。音楽が収まるのと同時に煙が収まると中から学園長が現れた。
「え、いつの間にあんな事出来るようになったの!?」
「どうやってるのかしら?」
エリスは前のめりになるほど驚いており、メラニーも不思議そうに眺めていた。だがそんなド派手な登場とは裏腹に学園長はゆっくり落ち着いて話を始めた。
「えー……、私からのお話は一つだけ。皆さん、全力でやりましょう。以上、終わり」
会場が一瞬、ぽかんとした沈黙に包まれた。
「……ありがとうございましたー! さあそして! この熱き戦いの開幕を宣言するのはこのお方! 我らが生徒会長! 鷹巣翔真ーー!!」
今度は音楽が流れるとともに多種多様な魔法が魔法闘技場内を駆け巡り、そのうちの一つが中央の壇上へと落下した。そして音楽が消えると同時に学園長が消え、代わりに翔真が現れた。
「生徒会長、鷹巣翔真だ。要塞攻防戦は年齢は関係ない。学園長も言っていたが、思う存分やってくれ。……そして、詳しくは言えないが今回の要塞攻防戦は特別だぞ。楽しみにするが良い! ここに要塞攻防戦の開幕を宣言する!」
会場内は大きな拍手に包まれた。
「今年は特別って何かあるのかしらね?」
メラニーが頬に指をつき、不思議そうに言った。
「楽しくなってきたぁ!」
「僕たちは初めてだし、何か変わってても分かんな――」
「うおおぉぉぉぉ!! 楽しみだぁぁぁぁ!」
雅人のテンションは玄兎の言葉が耳に入らないほど、最高潮に達していた。。
「では、ルール説明を会長、そのままお願いします!」
「あぁ」
翔真は懐から紙を取り出し、それを見ながら話し始めた。
「今年もチーム分けは例年通りだ。各委員会、部長の委員長と副委員長、部長と副部長は分かれてもらう。それ以外の生徒は基本ランダムだ。相手の要塞内にある核を壊したチームが勝ちだ」
その後もいくつかのルールが発表された。まとめると、
1.チームはランダム
2.要塞内の核が壊れた段階で終了
3.仮想体力が尽きると要塞近くで復活、一定時間攻撃魔法と行動範囲が制限
4.各自チェックポイントを一定時間毎設定可能、相手のものを破壊することも可能
5.小休憩は各自、12時〜13時と17時〜9時は強制的に中断、再開はチェックポイント又は要塞近くから
6.ランダムに個人ミッション、チームミッションを通知。達成するごとに要塞内の核が強化
の計6つが発表された。
「長くなったがこれでルール説明を終わる。皆の健闘を祈る!」
翔真はそう言うと壇上に発生した煙の中へと消え、煙が収まった頃には姿を消していた。
「それでは皆さん! 長らくお待たせしました――! いよいよこの瞬間です! 皆さんの運命を分ける! チーム発表に参りましょう! デバイスをしっかりお手元にお願いします!」
司会者がそう言うと、明らかに会場がざわめき始めた。そしてそれは玄兎たちも同じであった。
「玄兎と敵でありますように!」
「えぇ〜! 皆同じチームが良いよ〜!」
「私も皆と同じチームが良いわ」
玄兎以外は他三人とのチーム分けを気にしている中、玄兎は別のことを気にしていた。
「ラッシュさんは敵の方がマシなのかな……。どっちの方がマシなんだろ……」
玄兎がぶつくさ言っていると、デバイスの画面が突如切り替わった。
「それでは、皆さん、デバイスにご注目下さい! あなたのチームは~……こちらです!」
玄兎のデバイスには映像が流れ始めた。宇宙の中を駆ける映像の先に、まばゆい青白い光が集まり、やがて犬の姿を形作った。星座が吠えるように瞬いた瞬間、『チーム:シリウス』の文字が輝いた。それと同時に会場は先ほど以上の盛り上がりを見せていた。
「皆、せーので出そ!」
エリスはデバイスの画面を隠すように持っていた。玄兎、雅人、メラニーもそれに合わせるようにデバイスを隠すように持った。
「いくよ、せーのっ!」
四人はエリスの掛け声に合わせ、一斉にデバイスを見せ合った。
「っしゃあ!」
「玄兎くん、手加減よろしくね!」
「松雪くん、私にもよろしく」
玄兎以外のデバイスには『チーム:リゲル』の文字が並んでいた。三人の楽しそうな顔を見て玄兎は疎外感を感じ、三人とは対照的に落ち込んでいた。
「それでは皆さん! 戦いの舞台へ移動をお願いします! まずはCブロックから順次地下へ! 勝利を目指して、行ってらっしゃい!」
会場の興奮冷めやらぬ中、司会の男性はバーチャル空間へ入るための機会があるという地下へと案内を開始した。
次回の更新は8/31(日)の予定です。
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