【第三話】 変化の予兆
それから数分経っても、玄兎はいのりの変化をひとつも当てられずにいた。
「あんた一個も当てられないってまじ?」
「え、一個じゃないの!?」
勝手に小さな変化が一個だろうと断定していた玄兎は大きな衝撃を受けた。そんな小さな変化ならやんなくても一緒なのでは、と思っていた玄兎であったが、そんなことは口に出すことも憚られた。
「いのりちゃん、ヒントをあげた方が良いんじゃないかしら〜?」
「ずっとヒントは与えてるんですよ!」
いのりはこっちを見ながら言い放った。口で言ってくれればと思う玄兎だったが、今の状況では玄兎に味方はおらず、バッシングされる可能性があるため、黙っていることにした。
「そんな盛り上がってどうしたんだ?」
「あ、姉御!」
そんなところにパピヨンが通りかかった。
「玄兎、それからミアさん、部長のこと感謝する」
「いいのよ、ちょうど暇だったし」
「おや?」
パピヨンは玄兎を見つめるいのりをじっと見つめた。
「へ〜……いのりさん、そのリボン――」
「あーーーーー!!! パピヨンさん、言っちゃだめぇ!」
パピヨンの予想外のネタバレにいのりは大声を上げた。玄兎はパピヨンの言ういのりの胸元のリボンを見た。
「……色変えた?」
「あんた嘘でしょ?」
「もういい! 玄兎くんなんか、大っ嫌い!」
勘で言った玄兎だったが見事に外してしまった。いのりはぷいと顔を反らした。そして玄兎はそれによりようやく一つ今までのいのりとの違いと思われるものを発見した。
「あ、髪飾りをつけてる!」
玄兎は自信満々に答えた。だが何故かいのりはもっと機嫌が悪くなっていた。
「いつも着けてるよ!!」
「……」
「あらあら〜」
玄兎は思わず黙ってしまった。変化が分からないどころか元を覚えていなかったのだ。
「なるほどな。玄兎、それは反省した方がいいぞ?」
「松雪、あんたも想像以上に最低ね」
玄兎の味方はまた一人減ってしまった。
「う~ん……」
「くーちゃんは髪飾りがついてる事くらいは知ってるよ!」
クレールがいてくれれば……と願ったその顔に、どうやら思いが出てしまっていたらしく、いのりの怒りはさらに加速した。
「いや、あの、本当にごめん……。なんか奢るからさ……」
「……本当に!? やったー!」
いのりは突然明るくなった。
「じゃあ早速いこいこ!」
「あたしもなんか奢ってもらおっかな〜」
「私も同席させてもらおう」
「じゃ、私も行こうかしら〜、うふふふ」
何故かいのりだけでなく、他三人も嬉々として奢られようとしていた。玄兎の焦る表情を見て、パピヨンとカトリーヌはよりニコニコしていた。
「ふふ、なに、冗談だ。部長を捜してくれた礼もある。今度私が何か奢ろう」
「私も冗談よ〜。若い子たちで楽しんでらっしゃい」
玄兎は一安心した。そしてちらっとミアを見るとミアは表情を変えることなく言い放った。
「あたしは冗談じゃないわよ?」
「えぇ……」
玄兎は一体何を買わされるのかハラハラしていた。そんな玄兎の手を取り、いのりがマジクランタへ向けて引っ張り出した。
「じゃあ、出発しんこー!」
「ふふ。行ってらっしゃい」
「行ってきまーす!」
いのりを先頭に玄兎、ミア、パピヨンはマジクランタへと向かった。
「玄兎、部長はどこで見た?」
パピヨンはマジクランタに入るとすぐに、玄兎に馬木を見た場所を聞いた。
「えっとあそこの曲がり角に入っていったのまでは見たんですが……」
玄兎は馬木を見た場所を指差した。
「それで十分だ。ありがとう。では、私は部長を捜してくる。改めて感謝する」
パピヨンはそう言って去っていった。
「さ、じゃあ玄兎くん! 私たちも目的地へ向かうよ!」
「……どうか、高いところじゃありませんように」
楽しそうに歩くいのりの後ろを、玄兎は重い足取りで付いていった。
「あれ? クレールじゃない?」
「くーちゃ〜ん!」
いのりは手を振りながら大きな声でクレールを呼んだ。いのりの声に気付くと、クレールの真剣な表情は緩み、こちらに近付いてきた。。
「楽しそうだな、いのり」
「玄兎くんが何か奢ってくれるんだって!」
いのりは嬉しそうに話していたが、玄兎には悪魔の声にしか聞こえなかった。
「あんたも来れば?」
「え!?」
ミアがクレールを誘ったのを聞き、玄兎は思わず大きな声を出してしまった。そんな玄兎の焦る顔を見てかクレールは笑いながら答えた。
「それも良いな。だがまだ仕事が残っているのでな、遠慮させてもらおう」
「じゃ、いつか奢るってことで」
「なんで勝手に決めるのぉ……」
ミアが勝手に約束をし、玄兎は完全に意気消沈していた。そんな玄兎に助け舟を出すように玄兎のデバイスが鳴り響いた。玄兎は相手を見ることなく電話に出た。
「はい、もしも――」
『おい、玄兎! 全然兄貴が見つかんないぞ!』
相手は雅人だった。まだ馬木を捜している様子であった。あまりに大きな声に玄兎は体がビクッとしてしまった。
「あ、ちょっと貸しなさい」
玄兎はニヤニヤしているミアにデバイスを渡した。
「あんた、残念だったわね! 馬木ならもう見つかったわよ! パピヨンさんの連絡先は諦めることね!」
ミアは一方的に捲し立て、そのまま電話を切った。
「ふふん。ざまぁみろっての!」
ミアは何故か得意げな顔になっていた。そしてそのまま何故か玄兎のデバイスで雅人にメッセージを送り始めた。いのりとクレールはなにやら不思議そうな顔でミアを見ていた。
「……ちょっとクレール、これ大丈夫なの?」
「うん?」
ミアは突如真面目な顔になり、クレールに玄兎のデバイスを渡した。
「やはりそうなったか」
クレールは何かを覚悟していたようで、あまり表情を変えることは無かった。
「何々? どうしたの?」
いのりはクレールの持つ玄兎のデバイスを覗き込んだ。
「え!? 私たちフォーブロン行けないの!?」
玄兎がデバイスを確認するとそこにはこう書かれていた。
『フォーブロン政府、魔法使いの入国を一時停止へ』
次回の更新は8/28(木)の予定です。
感想やアドバイス、疑問点をくれると凄く嬉しいです。
考察とかも大歓迎です。
頭を空っぽにして読むのも大歓迎です。




