【第一話】 大宮龍之介来訪
「白夜の〜焔! ……うーん、もうちょっとこう……」
あれから数日後、雅人は相変わらず訓練場に籠もり、玄兎はそれに巻き込まれていた。
「おい、玄兎! お前も一緒に考えろ!」
今、雅人は魔法のカッコいい言い方を研究している。というのも、クエストの帰りに雅人の魔法の名前を考える流れとなり、篁の案が採用され、雅人の魔法の名前が無事決定したのだ。
「なんでもいいよ……お腹空いた……」
玄兎は昼以降ずっと付き合わされ、こと空腹に関しては堪え性が無いため、今まで以上に投げやりになっていた。玄兎は座っているベンチから動くことは無かった。
「はい、じゃあこれ上げる」
「ありがとう!」
玄兎は隣から出てきたお菓子を受け取るとすぐに開封し、頬張った。
「うーん、美味しい! ……あ、ミアさん! ……あっ」
玄兎がようやく隣を見ると、そこにはミアの姿があった。ミアとは電話で会う約束をしていた。玄兎が驚いたのはミアが隣にいたからではなく、ミアが持つお菓子を見てとあることを忘れていたことに気付いたためだ。
「あぁ、良かった。その顔はさすがに気付いたみたいね」
そう、お土産の要望を送るのをすっかり忘れていたのだ。
「ごめん、完全に忘れてた」
「まぁ、それは良いわ。その代わりちょっと愚痴を聞いて頂戴」
ミアはそう言って、玄兎の隣に座った。
「びゃ! く! や! の! ほ! む! ら! ……う~ん、違う」
雅人は完全に迷走していた。そしてそれを見たミアは呆れた顔をしていた。
「……あいつ何してんの?」
「カッコいい魔法の言い方を探してみたいだよ」
「はぁ」
ミアは心底呆れたようで、呆れ顔はいつの間にかゴミを見るような顔になっていた。
「それでなんかあったの?」
「あんたたちもクエストでストナリア来てたんでしょ?」
玄兎はストナリアに行ったことはおろか、クエストに行ったことすら言ってなかった。そのため、ミアがそのことを知っているのは不思議でならなかった。
「え、なんで知ってるの?」
玄兎がそう言う前にミアはデバイスを弄り始め、玄兎に画面を見せた。
「この動画よ」
そう言ってミアはデバイス上の動画を再生すると、そこには電車に乗るアレックスや玄兎たちの姿があった。
「え、いたの!?」
「あたしじゃないわよ。ネットに転がってたの」
「えぇ、気付かなかった」
動画を見ていると、どうやら篁は気付いていたようでカメラに目線を向けるタイミングがあった。
「ま、別に動画そのものはどうでもいいの。あんたストナリアにいた間、通りすがりに誰かに悪口言われたりしなかった?」
「いやそれは無かったよ。ただ……」
思い出してみても、誰かに悪口を言われた記憶は無かった。ただ妙に感じていたタイミングはあった。
「電車に乗って、僕達を見るや否や隣の車両に移った人達がいたね。あとは逆に話しかけてくる人達とか……。なんかあったの?」
玄兎がミアに聞き返すと、ミアはため息をついて話し出した。
「はぁ……。いやね、あんたも感じたと思うけど、今魔法使いに対しての空気感がなんか変でしょ? うちの家族ともなんか距離感感じるし……しばらく帰らない方が良いかなぁ……ってね」
「う~ん……確かに……」
玄兎はミアに掛ける言葉が思い付かず困ってしまった。
「あんたは帰らないの?」
それを察してかミアが玄兎にこの質問を投げかけた。ただ、玄兎にはもう家族は居らず、帰る場所など無いのだ。玄兎は正直に伝えることにした。
「僕にはもう家族はいないからね」
「あ、ごめん……」
気を遣わせるつもりは無かったのだが、今度は逆にミアを困らせてしまった。
「なーんか、二人とも暗くない? 元気出してこうぜ!」
「あんたは明るすぎるのよ!」
一息ついたのか、雅人が話しかけてきた。玄兎は雅人のこの明るさに今回ばかりは救われたように感じていた。
「はいこれ、お土産よ」
「え、良いの!? みーたんありがとう! どこ行ってきたの?」
この雅人の発言を聞くと、ミアは呆れたように笑いながらこちらを向いた。
「松雪、あんたそれすらも伝えてなかったの?」
「う、ごめん。その色々タイミングが……」
玄兎が言い訳を始めようとすると、ちょうどよく玄兎のデバイスが鳴り響いた。相手はパピヨンだった。出るや否や雅人はすぐに玄兎のデバイスに耳を近付けた。
「もしもし。姉御、どうしたんです?」
『玄兎、唐突にすまないな。うちの部長を見なかったか?』
「いや、見てないですけど、なんかあったんです?」
玄兎のこの言葉を聞いてミアも何があったのか気になったのか、雅人の横で玄兎のデバイスに耳を近付けた。
『部長が出て行ってからしばらく戻ってこないんだ。用事とは言っていたが、今思うと様子が変だったな、と』
「捜しますよ」
『そこまではして貰わなくていい。見かけたら連絡をくれ。じゃあな』
パピヨンとの電話が切れた。個人的には雅人の付き添いも飽きたため、ちょうどいい都合が欲しかった玄兎は馬木を捜したかったのだ。
「ふ~ん、馬木ならいつもふらっとどこかに行ってそうなもんだけど」
そんなことを言っているとミアの電話も鳴った。
「あ、パピヨンさん? 馬木の話なら今松雪から聞いたわよ。……えぇ。……見かけたら連絡するわ。……それじゃ」
ミアは電話を切った。雅人は次は自分の番だと思っているのか、デバイスを取り出し、手に持ち出した。
「うーん、あたしにまで電話をかけてくるなんてちょっと心配ね。やっぱり捜した方が良いんじゃないかしら?」
「僕もそう思う」
玄兎がちらっと雅人を見ると、雅人はデバイスを凝視して固まっていた。
「雅人、どうしたの?」
「……なんで俺には電話がこねーんだ?」
「そもそもあんたパピヨンさんと知り合いなわけ?」
雅人はしばらく考え込んだあと、はっとしたような顔をした。
「そういや俺連絡先交換してねーや! 今から交換してくる! 玄兎! 案内頼む!」
「……いや、連絡先教えるよ」
「勝手に連絡先を貰うのは失礼だろ! 直接貰う!」
雅人の意見は最もだったが、玄兎にはどうにも腑に落ちなかった。
「あ、じゃあ今から連絡して了承を――」
「直接貰う!」
雅人は頑なだった。
「あぁ、渡していいって。今連絡きたわ」
ミアが先にパピヨンに連絡していたようで、デバイスを見ながら淡々と伝えた。
「み〜た〜ん……」
雅人は泣きそうな顔になっていた。
「まぁまぁ、馬木くんを見つければパピヨンさんと会えると思――」
「しゃあ! 捜すぜぇ!」
雅人は連絡先を聞くことなく、走り去ってしまった。玄兎としては雅人の付き添いが終わったためラッキーだった。
「じゃ、あたし達も捜しに行きますか」
「うん、僕はマジクランタの方を捜してくるよ」
「君たち、ちょっと良いかい?」
ミアと玄兎が出発しようとすると、どこかで見たような顔の大人に話しかけられた。
「どうされました?」
「マジクランタの場所はあっちであってるかい? マップを見てもどうにも分からなくてね」
どうせ玄兎はマジクランタに向かうつもりだったため、案内をすることにした。
「あぁ、それなら僕も今から行くので案内しますよ」
「本当かい? 助かるよ」
「じゃ、松雪。頼んだわよ」
玄兎はミアと別れ、マジクランタへと出発した。
「星影市長、大宮龍之介さん。少しお時間、よろしいでしょうか?」
玄兎が男と話しながら、しばし歩くと、ジョナサンがその男に話しかけた。それにより玄兎はようやくどこで見た顔なのかを思い出した。
「……ええ、大丈夫ですよ。どうされました?」
ジョナサンの放つ雰囲気のせいなのか、理由は分からないが、玄兎にも分かるほど、その場の空気は突如として張り詰め始めた。
「俺はこの学園の報道委員長を務めていましてね、是非お話を聞きたいんですよ。――なぜ急にこの学園に来たのか? とかね」
お待たせしました。第四章開始です。
とは言え、まだ第四章は書き終わるビジョンがまだ見えていません。とりあえずキリの良いところまで毎日投稿します。
次回の更新は8/26(火)の予定です。
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