【第八話】 落ちる影
「妾の心の如き静寂より現れよ……! ヴォルテックス・ド・ミズカガミ!」
レミーが光耀帝を水の渦に閉じ込めた。
「風と共に駆けよ。迅林結界……斬葉颪!」
篁は魔法で作り上げた腰の剣に手を掛け、周りに葉っぱがそよぐ空間を作り出した後、レミーが作り上げた水の渦に抜刀と共に切れ味の鋭い葉っぱを送り込んだ。
「玄兎くん、篁のあの空間の中で戦うぞ!」
「は、はい!」
なるべく光耀帝に近付きたくなく、遠くからちまちま攻撃を撃っていた玄兎であったが、アレックスの指示により、篁が作り出した空間内に移動した。
「体が……軽い?」
玄兎がその空間に入るや否や、玄兎の周りを心地よい風と葉っぱが包み込んだ。
「それだけじゃないぞ。サンダー・バラージ!」
アレックスが雷弾を放つと、葉がまるで蔦のように巻き付き、雷弾は鋭い音を立てて空を切った。そして葉と雷が絡み合う連弾もまた渦へと巻き込まれた。
「アーセン・ボルト! 玄兎くん! レミーちゃんの魔法に向かってどんどん魔法を撃っちゃって!」
「分かりました! グレロン・ド・グラス!」
オリヴィアが鋭い土の塊を発射しながら玄兎に言った。玄兎もそれに追従するように魔法を放ち、他の魔法使いも次々と水の渦に向かい魔法を放った。水の渦は色々な魔法を巻き込み、やがて大きな竜巻となっていた。
「よーし、レミーちゃん! やっちゃって!」
「ござる!」
レミーの返事と共に、竜巻は先が細く、長くなり、自身の根元、光耀帝のバリアへ、一直線に向かった。
「ハーモニック・サージ!」
ロークはレミーの魔法の軌道上に何重もの音の膜を張った。それを通るたび、レミーの魔法の威力は見るからに膨れ上がっていた。
「ショック・スピアヘッド!」
「アッシェン・ジャッジメント!」
アレックスとチャールズは息の合った動きでレミーの魔法が光耀帝に当たるのに合わせて大きな一撃を当てた。強い衝撃により発生した風圧で目を完全に開けるのは難しかった玄兎だが、光耀帝のバリアに何の変化も無いことだけは確認できた。
「なんだ……? 光が……強くなっている?」
光耀帝をよくよく確認すると、アレックスの言葉通り、攻撃を受ける前よりも確かに発光度合いが増していた。突如、光耀帝は自身を中心とした大きな青い炎の帯をいくつも作り出した。
「ぐっ――!」
「チャールズ!」
光耀帝の近くにいたチャールズの他、周りにいた軍人たちも次々と攻撃をくらい落下していった。
「レゾナンス・シェル!」
「――っ! テラ・バスティオン!」
ロークと周りの軍人、そしてやや遅れてオリヴィアが即座に防御魔法を展開したが、それらはいとも容易く破られ、一瞬にして更に被害は増えた。
「やるしか――ない!」
玄兎は周りを巻き込むことを避けるためにやめていたが、大規模出現の際に光耀帝からコピーした魔法を放つ準備をした。
「皆! 彼に合わせろ!」
アレックスが周りに指示を出した。玄兎はなるべく周りを巻き込まないように狙いを澄ました。
「えっ?」
だが玄兎が魔法を放つ前に突如として光耀帝の形は崩れ、光は空気の中に溶けていった。あまりにも唐突なことに、玄兎は固まってしまった。
「――チャールズ!」
「皆、大丈夫であるか!?」
だが、玄兎以外はすぐに地上へと向かい救護活動を始めた。それに続くように玄兎も急いで地上へと降り立った。
「チャールズ! 大丈夫か!?」
「なに、ちょっと掠っただけだ。心配するな」
チャールズの様子を見ると、確かに部分的な外傷ではあるものの、酷い出血量だった。アレックスはチャールズの傷の様子を確認するとすぐに落ち着いた。
「ふむ、今度こそ死んだかと思ったが、まだ大丈夫そうだな」
玄兎には大丈夫そうには見えなかったが、アレックスのその言葉に少し安堵した。
「貴様より早く死ぬつもりはないさ」
「チャールズさん、大丈夫ですか!? テラ・パッチ!」
オリヴィアはチャールズの元へ来て、土の魔法で応急処置的に止血をした。そしてすぐに他の負傷者の元へと駆けていった。玄兎も他の負傷者への元へと駆けていき、オリヴィアの魔法を真似て救護活動を始めた。
「あの子は……あいつに似てきたな、アレックス」
「あぁ、自慢の娘だ」
それが玄兎に聞こえた二人の会話の最後だったが、その後も二人は長いこと喋っていた。
「では、松雪殿、またどこかでお会いいたしましょう」
「はい、今日はありがとうございました」
「こちらこそ。頼もしい戦いぶりでした」
イーサンはそう言って重症の軍人を乗せたボートに乗り込んだ。他の重症の軍人たちも他のボートや空飛ぶ魔法により、次々と運ばれていった。玄兎はまだ意識を失っている雅人を背負いアレックスの元へ向かうことにした。
「お疲れ様、玄兎くん。どう特殊作戦隊に入りたくなったでしょ!?」
「なってません」
オリヴィアが玄兎の元へやってきて話しかけた。
「大儀であったな、松雪殿」
「妾も頑張ったぞ! ……頑張ったでござる!」
「あぁ、タヴァネル殿もよくやった」
篁、そしてレミーも集まってきた。
「全く……大規模出現の時といい、今回といい、なーんで光耀帝はふらっと現れてはふっと消えるのかしらね。変なところで消える位なら最初っから現れなければ良いのにっ! そう思わない!? 玄兎くん!」
「え、そうですね」
急に話を振られた玄兎はとりあえず肯定した。
「今回死者を出さずに済んだのは奇跡でござったな」
「うー……俺の……お陰だぁ……」
いつの間にか雅人は起きており、疲れ切った声で喋った。
「なんだお主、起きておったのか」
「雅人くんもお疲れ」
「主の魔法、助かったぞ」
「えへへ……」
雅人は嬉しそうに笑うと再び意識を失ったかのように眠りについた。
「こやつ、自由だな」
「えぇ、本当に」
レミーの発言に玄兎は強く同意した。
アレックスの元へ着くと、アレックスとチャールズは二人とも神妙な顔をしていた。
「あぁ、お前たち、よく頑張ったな。待っていたぞ」
「皆さん、申し訳なかったです。まだ若いのに、こんな危ない戦いに巻き込んでしまって」
「大規模出現に比べれば何でもないですよ!」
オリヴィアは申し訳なさそうにするチャールズにフォローを入れた。アレックスは玄兎の方を見て少し考え込んで口を開いた。
「……玄兎くん、すまないがちょっと席を外してもらっても良いか?」
「え、はい。分かりました」
突如席を外すよう言われた玄兎だったが、理由を聞くのも野暮な気がしたため、アレックスに言われた通り、その場を離れようとした。
「いや、待ってください。君も聞いたほうが良いでしょう」
「だがチャールズ、徒に混乱させるのもどうなんだ?」
「寧ろここで仲間外れにされる方がよっぽど混乱するんじゃないか?」
「ふむ……」
玄兎はそのやり取りにこそ混乱していた。
「それに、彼は精神が図太そうだ。問題ないだろう」
「それもそうだな」
玄兎は全く褒められてる気がしなかった。
「じゃあチャールズ、俺から話すで良いな?」
「あぁ、俺は重症の身だからな。皆からの質問には俺が答えよう」
アレックスは大きく息を吐き、自らを落ち着かせるようにして言った。
「再来月に行われる支配地域奪還作戦についてだが、覚悟をしておいてくれ」
アレックスは重苦しく、だが簡潔にそう言った。そして次の言葉は玄兎にとって予想外であり、最悪な言葉だった。
「お前たち学園生も――前線へ出ることになるかもしれない」
これにて少し短いですが、第三章終わりです。
恐らく次の章が結構ボリューミーになると思います。
ということで次回の更新は未定です。次の章が書き終わり次第出します。
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