【第六話】 松雪玄兎という人間
「確かに魔物に囲まれてましたけど……」
ジョナサンは玄兎の言葉を意に介さず、新しい映像を映した。
「これを見てくれ」
その映像は、玄兎が転校初日に翔真と共に魔物を討伐しに行ったときのものであり、木の上から撮影されたものであった。
『いくぞ! エクラ・ソレール!』
その映像は魔物を討伐する際の僅か数十秒のみ映されていた。
「松雪くん、何か気付かないか?」
「えっと……何も」
それを聞くや否や、ジョナサンは再び再生し、魔物が翔真の魔法に気付き、振り返った瞬間で映像を止めた。
「何か違和感に気付かないかい?」
玄兎が考える素振りを見せるとジョナサンはすぐに違和感の正体を答えた。
「魔物は魔法に気付いた直後、会長くんではなく君を見ているよね? これは少し違和感が無いかい?」
「そんなの偶然じゃ……」
あまりにもこじつけ感が強い詰めに玄兎は反抗したが、ジョナサンは更に続けた。
「あぁ、これだけならそう思えただろうね。だが、この数日後魔物は学園に押し寄せ、君の下へと集まってきた。その上君は魔力が無いのに、他人の魔法は使える。……君は一体何者だ?」
玄兎が黙っていると、ジョナサンは落ち着いた口調で言い放った。
「それが知らない演技で無いことを祈っているよ」
そう言うと一転、次は少し和らいだ口調になり映っていた映像を消しながらジョナサンは玄兎に言った。
「責めた口調になってすまなかったね。だが、これだけは覚えておいてくれ。これから君を疑ったり、君を利用したりする者が現れるだろう。俺のようにね。だから君は自分自身の信念をしっかり持って行動するんだ。それが君自身を守ることに繋がるんだ、良いね?」
「……分かりました。ありがとうございます」
玄兎はいのりがジョナサンに対して警戒していた理由が分かったのと同時にジョナサンの優しさのようなものも感じていた。
「さて、お詫びと言っては何だが対価を渡そう。前回の取材の分もあるしね。何をご所望だい?」
玄兎は少し考えた。現物を要求するのは気が引けたうえ、学園会議で何を話していたかが気になったためそれを教えてもらうことにした。
「じゃあ……学園会議の続きを見せてもらったり出来ますか?」
「情報の対価を情報で、か。中々良い取引だね。だが、これから君に向かって欲しい場所がある上に俺もこれから用事があるんだ。だから俺がまとめて君に教えるというのでも大丈夫かい?」
「はい、それで良いのでお願いします」
ジョナサンは頷き、デバイスを取り出した。そして玄兎は学園会議で話した内容を教えてもらった。順番に、「今後学園へとやってくると想定されるテロリストへの対策」、「次回の大規模出現への対策」、「共鳴石が無いのに卒業生らが魔法を使えたのは何故か」、「マギフォビアンの勢力拡大の影響」を簡潔に教えて貰ったところで、ジョナサンはデバイスをまじまじと確認した後ポケットにしまった。
「これで学園会議の内容は以上だ。……そして最後に、今入ってきた情報だ。魔物の支配地域の奪還作戦を行うことが表明された。学園生も参加しての、ね」
玄兎は至って冷静であった。命を落としかねない戦闘に赴くことになる恐怖感はもちろんあったものの、それ以上に魔物から支配地域を奪還したいという気持ちが不思議と湧き上がっていたためだ。その玄兎の表情を見て、ジョナサンは驚いたような表情を見せた。
「へぇ、その冷静さは凄いね。俺でも多少驚いたのに」
玄兎にはジョナサンがあまり驚いていた様には見えなかった。寧ろ、予め知っていたかのようにすら見えた。
「さて、松雪くん長く拘束して悪かったね。さっきも言ったが君にはこれから総合研究棟に向かって欲しい。女の子が入口で待っているはずだ」
「分かりました。ありがとうございました」
「こちらこそ」
玄兎が部屋を出ると、外では雅人が立っていた。
「え? なんで雅人ここにいるの?」
「いや、報道委員長に呼び出されたんだけど……」
玄兎の後ろからジョナサンがやってきた。
「もしかして君たち知り合いだったのかい? だったら二人まとめて呼べば良かったね」
ジョナサンは笑いながらそう言った。その発言に対して雅人が茶化すように応えた。
「ホントですよ~。お陰でちょ~暇だったんですから!」
「はは。それはすまない。今から暇することは無いから早速中に入ってくれ」
「はいっす。じゃあ玄兎、また後でな。失礼しま~す」
軽い調子で雅人は報道委員会室へと入っていった。玄兎は学園マップを見ながら、管理棟から南の総合棟への渡り廊下を渡っていた。
「奪還作戦、か……」
道中玄兎は過去のことを思い出していた。
玄兎とその両親は床に座り、使い古された机に乗った豪勢とは言えないケーキを皆で囲んでいた。
『玄兎、誕生日おめでとう!』
『ありがとう!』
両親の祝いの言葉に対し、玄兎は感謝の言葉を述べた。蠟燭も立っていない、フルーツも乗っていない、形も綺麗ではない手作り感溢れるケーキに玄兎は、いの一番に食らいついていた。
『来年もこうして誕生日を迎えられると良いな』
『ええ、そうね』
二人はどこか物憂げな表情をしていたが、その意味が玄兎には分からなかった。
玄兎は今となってその意味が分かった。この二人はもうすぐ起こると言われた大規模出現を心配していたのだ。結局、大規模出現とは関係なく両親は亡くなったのだが。そんなことをぼんやり考えながら、別の記憶も同時に思い出していた。
『みなさん、これからおせわになります。○×$%△\です。よろしく、おねがいします!』
小さな女の子が自己紹介をした。それを玄兎は他何名かと一緒に聞き、拍手をした。
『△\%ちゃんか、いい名前だね。□#☆さん、この子も俺達と同じなの?』
玄兎よりも年齢が高めの男の子が一人だけいた大人の男性に質問をした。
『あぁ、お前たちと同じだよ。これから仲良くしてやってくれ』
ここに出てくる人達の名前も顔もあやふやであり、玄兎はどうにか思い出そうと別の思い出も探ろうとしたが、何も出てくることは無かった。
そうこうしていると、玄兎は総合棟の南出口までいつの間にか来ていた。そして学園マップの案内に従い、玄兎は総合棟の南出口を通るバスに乗り、更に南の総合研究棟へと向かった。
総合研究棟の前で降りると総合研究棟の入口に白シャツを来た女性が立っており、こちらに気付くと走って駆け寄ってきた。
「あの! 松雪玄兎さんですよね!? 早速これを着けてください!」
言われるがまま渡された機材を手に取り付けると、女性はその場で何やらよく分からないのようなものを取り出し、操作を始めた。しばらくすると、取り付けた機材から音が鳴った。
「うん、変わらず魔力は全部ゼロ、ですね。良かったぁ……」
嬉々としている女性に対して玄兎はその言葉に落ち込んでいた。
次回の更新は12/8(日)の予定です。
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