【第三話】 もう一つの顔
唐突なことに雅人と玄兎は何の反応も出来なかった。畳み掛けるように彼女は言った。
「今じゃなくていい。私が次にお願いしたときに、よろしくね」
彼女は淡白にそう言い放った。そして二人から追及される前に自ら理由を切り出した。
「これは、私が『永遠の歌姫』になるために必要なことなの。そして、私はあなたがいい。あなたに殺されたいの」
彼女はあまりにも淡々と喋っていた。二人が黙っているのに気付いたのか、彼女ははっとしたような顔になり謝った。
「あ、ごめん! 喋りすぎちゃった! ここまでで質問ある?」
玄兎が雅人を見ると緊張しているのか何なのか、先に行けと目配せをするので玄兎から切り出すことにした。聞きたいことは色々あったが、立入禁止の場所にいることに少し罪悪感を覚えていた玄兎は、まずなぜここに連れてきたのかの質問をすることにした。
「あの、なぜわざわざ立入禁止の屋上に来たんですか?」
その質問に対して彼女はおかしく笑った。
「ぷっ……ふふ……最初にする質問がそれ? 松雪くん、君、面白いね」
そして一瞬考えた素振りを見せると納得したような表情の後、苦笑いしたような表情へと変化した。
「……君たち、もしかして私が誰か知らない?」
玄兎と雅人は相槌を打った。
「自意識過剰だった……。エリス・カンティーヌって言うんだけど……」
エリスと名乗る女性はちらっと二人を見た。玄兎と雅人は真っ直ぐエリスを見つめていた。
「一応、学園の歌姫って言われてるんだけど……本当に知らない?」
再び二人は相槌を打った。それがよっぽどショックだったようで、エリスは分かりやすくテンションが下がった。
「そっか……。まぁ、異性と喋ってると勘違いする人がね~。回りくどいことしてごめんね?」
手を合わせて謝るエリスであったが、何かに気付いたように再び明るい笑顔になった。
「あ! 寧ろ私のことを知らないならもっと都合いいかも! ねぇ、私と友達になろうよ! 敬語じゃなくていいよ!」
「うん、喜んで!」
雅人はすぐに返事をした。殺人を依頼されたことを忘れてるんじゃないかとすら思うほどであった。
「ふふっ。君もやっぱり面白い。……あ、皆の前ではフランクに話しかけないでね? 皆の前で話すときはファンみたいな感じでよろしくね」
「うん、もちろん! なあ、玄兎!」
「あ、うん」
玄兎は雅人の勢いにそのまま押されて返事をしてしまった。
「それで雅人くんは質問は――」
エリスが雅人に質問を促そうとすると玄兎と雅人の後ろの扉が開き、眼鏡をかけた女性が出てきた。
「あ! メラニーちゃん、あの時はありがとう」
雅人はその女性を知っているようで、メラニーという女性に感謝を述べた。
「うん、長岡くんとそのお友達? こんにちは。元気そうでなによりだよ」
メラニーが二人に挨拶を終えると、エリスは感心した顔でメラニーに喋りかけた。
「お~、よくここだと分かったね~」
「あなたが有名人だからよ。そこら辺の人に聞いたらすぐ分かったわ。さ、もう行くわよ」
「は~い」
エリスは機嫌よく間延びした返事をした。
「じゃあね! 雅人くん、松雪くん!」
玄兎と雅人の横を通り過ぎるときには、エリスは満面の笑みを二人に見せて帰っていった。
「ん? 今、なんか……」
「どうした?」
大規模出現が終わって以降、一切魔法を使える感覚が無かったが、突如として玄兎は魔法を使える感覚が戻った。だが何かを試そうとする前にその感覚は消え去ってしまった。
「一瞬魔法が使えるかなぁ、と思ったんだけど」
「あぁ、使えるタイミングがよく分かんないんだっけ?」
今いるマジクランタに向かう道中、玄兎は雅人に自身の魔法のことを話していた。
「ま、考えても仕方ねーし、ゲーセン行こうぜ」
「それもそうだね」
「それにしてもエリスちゃんとメラニーちゃんが仲良いとは……」
二人はマジクランタ屋内へと戻った。雅人になぜメラニーを知っているか聞くと、魔物の大規模出現の際に気を失っていたとき、担当してくれた保健委員がメラニーだったとのことだった。
ゲームセンターへと向かう途中、玄兎のデバイスに電話がかかってきた。
「あ、いのりさんからだ」
「おうおう、なんだあ? デートのことかあ?」
「祭りのことでしょ」
「あんなのほぼデートみたいなもんじゃん」
その後も変なことをほざいている雅人を放っておいて玄兎は電話に出た。
「もしもし?」
『あ、玄兎くん? あの、報道委員長が玄兎くんと話したいみたいなんだけど、今時間大丈夫?』
「うん、大丈夫だよ」
『あの、どうぞ』
『すまないね、ありがとう』
いのりからジョナサンに電話が代わった。雅人は電話の内容が気になるようで途中からデバイスの近くに耳を近付けていた。
『やあ、突然すまないね』
「いえいえ、どうしたんですか」
『これから、一時間程度時間はあるかい?』
玄兎が雅人に確認しようとすると雅人はすぐに親指を立てた。
「えぇ、大丈夫です」
『ありがとう。では管理棟の正面入口に来てくれるかい? 待ってるよ。……霧山くん、電話感謝する。この借りは必ず返すよ』
ジョナサンがいのりにデバイスを返したようで、すぐにいのりに電話が代わった。
『ねぇ、玄兎くん、大丈夫? 気を付けてね』
いのりはジョナサンのことが苦手なのか、玄兎がジョナサンにインタビューを受けていたときと同様にここでも心配そうであった。
「うん、心配ありがと。じゃあまた部活でね」
『うん、ばいばい』
電話を切ると、雅人が悲しそうな顔になっていた。
「はぁ……。俺はここで遊んでるからさ、行ってきなよ。俺も部活入ろうかなぁ……」
「本当ごめん。じゃ、また後でね」
玄兎はマジクランタを出て、学園内を走るバスに乗り、管理棟へと向かった。管理棟は学園の中央に位置しており、玄兎が授業を受けた総合棟や食堂と繋がっている。
管理棟の正面入口に着くと、見覚えのある女性が立っていた。
「こんにちは。委員長が待っています、着いてきてください」
そう言うと、すぐにその女性は踵を返し歩き出した。玄兎は早々と歩く彼女に着いていくのにやっとだった。階段を上り、二階に着き少し歩くと報道委員会室と書かれた部屋に着いた。女性が扉を開けると、部屋の中にはジョナサンがおり、お菓子や飲み物を準備していた。
「赤熊くん、案内ありがとう。松雪くんは中に入ってきてくれ」
赤熊は玄兎に部屋に入るように促した。
「失礼します」
玄兎が部屋の中に入ると赤熊は部屋に入らず扉を閉じた。
「あれ? 赤熊さんは良いんですか?」
「あぁ。寧ろ二人だけの方が良い。君に見て欲しいものがあるんだ」
そう言いながらジョナサンは机に埋め込まれた画面を操作し、部屋にある大きなモニターに何やら映し出した。
「これから流すのは昨日行われた緊急学園会議の様子だ。所々編集していて見にくいところもあるだろうが即席なんだ。許してくれ。飲み物とお菓子はご自由に」
玄兎はなぜ自分にそんなものを見せるのかが分からなかった。だが、ジョナサンが動画を再生し始めたため、まずは観ることにした。
次回の更新は12/5(木)の予定です。
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