【第一話】 祭りの約束
大規模出現から三日後、玄兎は授業を受けていた。授業が多く行なわれる総合棟には被害がなかった為、大規模出現から二日後には授業が再開されていた。玄兎が受けている授業は、入学初日に受けていた授業と同じであり、いのりとミアとクレールもあの時と同様に授業を受けていた。あの時と大きく違うことは授業を受けている人間が一人増えたことだ。
「それでは今日の授業を終わります。長岡くん、今までの授業の分はデバイスに資料を送ってありますので確認してください。それから、次は遅刻しないように」
「すみませ~ん」
玄兎の隣にいた雅人はへらへらしながら謝った。そしてすぐに玄兎に話しかけてきた。
「はは! ちゃんと教室で再会できたな! 思ってた教室と違うけど」
「僕は一足先に気絶した雅人と再会したけどね」
「え? お前保健室来てたの?」
玄兎が説明しようとすると、前の教卓に見覚えのある立ち方でいのりが立っていた。
「ふっふっふ~。それは何でもお助け助っ人部部長のこの私、霧山いのりが説明しよう」
三日ぶりにいのりを見た玄兎であったが、この三日間で落ち着いたのか、思ったよりも元気そうないのりを見て一安心した。
「おい、いのり。それは松雪にだって説明できるだろう。お前は勉強だ」
「そうよ。大体あんたは喋り始めると長くなるんだから。さ、早く勉強するわよ」
そう言うとクレールとミアは荷物を持ちながら、二人でいのりを引きずりだした。
「お助けを~!」
三人のやり取りを見て、まだそれ程時が経っていないにも関わらず、玄兎は懐かしい気持ちになっていた。雅人はその顔を見て、玄兎が三人と仲が良いと思ったのか懇願するように言った。
「あの子たちお前の知り合い!? 紹介して!」
それに応えるように、玄兎の代わりにデバイスが鳴った。それと同時に雅人や教室を出ようとしていた三人のデバイスも鳴った。デバイスを確認すると、『星影灯篭祭り決行のお知らせ』とのメッセージが流れてきた。この祭りは学園の山の麓にて日和国が主催する祭りである。例年、学園祭の翌週末に開催されており、学園生が屋台を出したり、祭りの手伝いをするのが恒例になっていた。しかし、今年は魔物の大規模出現があったこともあり、開催が危ぶまれていた。
「お、この祭り確か学園生も結構行くんだよな? ということは……」
雅人は教室の前で何やら話し合っている三人の方をチラッと見た。
「玄兎! この祭り行こう!」
「……あんまり変なこと考えないでよ?」
前で話していたいのりは、話し終わるや否や立ち上がり玄兎の元へと走ってきた。そしてミアとクレールは後ろからゆっくり歩いてきた。
「玄兎くん! 祭り行く?」
「うん、こいつと行くつもりだよ」
玄兎は雅人を指差しながら答えた。それを聞いたいのりは申し訳なさそうな顔で雅人に向かって話した。
「ごめん! その日ちょっとだけ玄兎くんを貸してくれない?」
「おまっ――」
雅人は大きな声を出したかと思うと、玄兎の耳元で囁いた。
「……こんな可愛い子とどういう関係なんだよ」
玄兎がいのりの方を見るといのりは不思議そうな顔をしていた。玄兎は雅人を無視して話を続けた。
「祭りで何かするの?」
「うん、部活! しよ! 何でもお助け助っ人部の出番だよ!」
「なるほどなぁ、それはしょうがないか。その間俺は一人寂しく遊んでるよ……うっうっ……」
雅人がわざとらしく悲しむと、クレールとミアが後ろからやってきて、クレールが雅人に話しかけた。
「その間お前は私たちといるか? 私たちもいのりを待っている間暇だからな」
「え! 良いの!?」
「あぁ、松雪の旧友なのだろう? 色々話を聞かせてくれ」
「もちろん、もちろん!」
分かりやすくテンションが上がった雅人であったが、二人をまじまじと交互に見ると更にテンションが上がりだした。
「……近くで見るとますます可愛いね!」
「は? きも」
「……同意だ」
ミアは軽蔑するような目で、クレールは呆れるような目で雅人を見た。しかし雅人は全く懲りていなかった。
「これはこれで……良い!」
ミアとクレールは完全に引いており、しばしの沈黙が流れた。
「……ねぇ、本当にこんなのと行動するの?」
「こんなの……!? ゾクゾクする……!」
「風紀委員として尚更こいつを一人に出来ないだろう」
「風紀委員……! 本当に存在したなんて……!」
雅人の発言は完全に無視されていた。二人の考えにやや納得できないのかいのりが呟いた。
「う~ん、私は可愛いって言われたら嬉しいけどなぁ」
「初対面でこれはきもいでしょ。あんたナンパに気を付けなさい」
完全に上機嫌な雅人は自分の荷物をまとめ始めた。
「玄兎! 買いに行くぞ! 浴衣!」
雅人は玄兎に玄兎の荷物を押し渡し、玄兎の手を引いて教室を出ていこうとした。そのとき雅人は立ち止まり、振り返った。
「そうだ、自己紹介! 俺の名前は長岡雅人! 皆は?」
雅人の自己紹介に対して一番に名乗りを挙げたのはいのりであった。
「私は何でもお助け助っ人部部長の霧山いのりだよ! よろしくね」
「……私はクレール・ルモンドだ」
二人が自己紹介を終えると、ミアがぶっきらぼうに自己紹介をした。
「ミア・スターリーよ。松雪、あんたからもそいつに言い聞かせときなさい」
「ミアちゃん、ごめんって~」
雅人の舐めた態度に腹を立てたのかミアは凄い剣幕になった。クレールも追従するように真剣な面持ちになった。
「あんた本当に縛り上げるわよ?」
「早速風紀委員の世話になるか?」
さすがに何かを察したのか雅人は玄兎の方を向いて確認を求めた。
「……玄兎、これ、やりすぎた?」
玄兎が頷くと雅人はゆっくりと後退りをしながら教室の扉へと近付いた。
「あ、あの~……すみませんでしたぁぁぁ! ――いてっ!」
「じゃあね、皆!」
雅人は振り向きざま、閉まっている扉にぶつかったが、急いで扉を開けて出ていった。玄兎も後を追うために走って教室を出ていった。
階段を降りて総合棟を出ると、雅人は歩き出した。
「しっかし……俺って役得? 可愛い子二人と祭りで過ごせるなんて! ありがとな、玄兎!」
「お前反省してないだろ」
「何度も言ったろ。反省するくらいなら最初からやらないのが俺のポリシーだ」
「僕は反省した方が良いと思うけどね」
玄兎はたかだか数週間ぶりとは言え、雅人の変わらない姿を見て少し安心していた。二人はゆっくりと歩きながら玄兎が覚醒してからの話、雅人の覚醒のときの話など和気藹々と語り合った。
「で、今どこに向かってるの?」
「え? 浴衣買いに行ってんじゃねーの?」
「それならこっちじゃなくない?」
「あ、そういう感じ?」
玄兎と雅人はお互い相手に合わせて歩いていた結果あらぬ方向に進んでいた。
「じゃ、案内頼むわ」
「はいよ」
二人は所々戦いの後が残る学園の中を見ながら、マジクランタへと向かって歩き出した。
次回の更新は12/3(火)の予定です。
感想やアドバイス、疑問点をくれると凄く嬉しいです。
考察とかも大歓迎です。
頭を空っぽにして読むのも大歓迎です。




