【第十三話】 魔法使い排他主義
「これは恐らく魔法の使い過ぎね。玄兎くん、あなたもよ」
雅人は完全に気を失っていた。そして玄兎もすぐには動けない程、体の痛みが酷く、疲れ切っていた。
「バスティアン、彼を保健委員に。そのまま今回の被害の確認を頼む」
「おーけー」
バスティアンは雅人をおぶり、去っていった。
「皆、今回はよくやった。詳しいことはまだ分からないが被害は最小限に抑えたと言って良いだろう。自分を誇れよ」
翔真はそれを言い残すと特殊作戦隊と共に去っていった。
「いいんちょ、うちらも早く戻ろ。色々とまとめなきゃ」
「っ! そ、そうですね」
大規模出現が終わった安心からかぼーっとしていた小田切が我に返った。
「クレールさん! 一緒に来られますか?」
「はい、私も気になることが多く、考えをまとめたいです」
「それじゃいこっか。みんな~、おつかれ~♪ ばあい♪」
風紀委員の三人も去っていった。そして三人と入れ替わるようにミアとパピヨンが飛んできた。
「クレールは!?」
「今さっきどこか行ったよ」
玄兎は寝転がりながら答えた。既に体の痛みは引き始めていた。玄兎は我ながら回復が速いなと感心していた。
「はぁ、良かった……皆無事なのね……。良かった、本当に……」
ミアは泣きそうな顔になりながら安心しきった顔をしていた。パピヨンは落ち込むいのりと馬木を見てなのか、複雑そうな顔をしていた。
「パピヨン、疲れてるところわりぃがあの少年のところへ俺様を連れて行っちゃくれねーか?」
「私も……」
この言葉でミアとパピヨンは二人がなぜ落ち込んでいたのかを察したようであった。パピヨンとミアはなんと言っていいか分からないような顔をし、黙ってしまったが、ミアが言葉を絞り出した。
「そっか、何も知らないのにあたし、いのりに体を動かせなんて、あんなこと……ごめん」
「良いの……私が……全部……」
いのりはそのまま黙ってうつむいてしまった。泣きたくても涙が出てこないようだった。馬木もまた、一言も発することなく黙っていた。玄兎は体の疲れも取れたため、起き上がった。
「僕も行く。あれは僕のせいだ。僕のせいで二人とも苦しんでるんだ。二人ともごめん」
いのりと馬木は小さく首を横に振るだけであった。
「何があったかは道中聞こう」
玄兎はミアとパピヨンに少年の親のことなども含めて、状況を説明しながら少年の元へと向かった。いのりと馬木は道中終始無言であった。
五人が着いた場所はマジクランタ近くの魔法闘技場の地下にある避難所であった。避難所は半透明な金属のような不思議な質感の材料で囲われていた。避難所にはもうほとんど人はおらず、目的の少年はその避難所の隅で座り込んでいた。
「本当にすまなかった……!」
馬木は開口一番謝罪の言葉を口にし、土下座をした。
「お前の親を……助けることが出来なかった」
少年はゆっくりと立ち上がりじわじわと馬木の元へと歩いてきた。
「なんで……ふざけるな! 顔を上げろよ!」
馬木は言われるがまま顔を上げた。そして少年は左手で馬木の襟を掴むと右手で馬木の頬を殴った。馬木は抵抗をしなかった。
「待って! 私が悪いの!」
「うるさい! こいつが! ぼくの意志を預かるって言ったんじゃないか!」
「……すまねぇ」
馬木は謝るだけであった。
「……だから、魔法使いは……」
少年は馬木の襟を掴んだまま泣き崩れてしまった。玄兎はその様子を見ていることしか出来なかった。そこへ少年の妹を抱えた忍者の男がやってきた。
「おにい……ちゃん……」
「レア!」
少年は少女の元へと走っていき抱きしめた。少女はしばらくの間わんわんと泣いていた。少年は先程まで泣いていたにも関わらず、涙を見せず妹をあやしていた。全員しばらくの間黙って見ていることしか出来なかった。
しばらくすると、突如として二人の体がほんのりと光った。二人の色はそれぞれ紫色と水色に光っており、その美しさに玄兎の目は奪われていた。
「兄妹同時に魔法に覚醒か。これは珍しいところに遭遇したね、赤熊くん?」
「……えぇ、そうですね」
いつの間にか避難所には報道委員長のジョナサンとその付き添いと思われる女性が来ていた。そして同時に忍者の男が消えていた。
「魔法……? ぼ、ぼくが……?」
「おにいちゃん、どうしよう、わたしも魔法使いに……」
「おい、二人とも――」
馬木は二人に声を掛けたがそれ以上何を言っていいのか分からなくなったのか、そのまま黙ってしまった。
「赤熊くん、二人を病院へ連れて行ってくれ」
「……分かりました」
赤熊と呼ばれる女性は後ろをチラッと見た後、混乱する二人に話しかけた。少年は嫌そうな顔をしたものの、赤熊が少女だけでも連れて行こうとしたのを見て結局着いてきた。赤熊と子供たちが去ったのを見届けると、ジョナサンはデバイスを取り出し、おもむろに電話をかけた。
「風魔くん、君にしては迂闊だったね。赤熊くんにばれていたよ?」
ジョナサンは風魔という人物に電話をかけているようであった。
「マギフォビアンの団体の動向を監視してくれ。特にエグゼキューターズには注意してくれ」
それだけ言うと、ジョナサンは電話を切った。
「あのマギなんとかって?」
「魔法使い排他主義者のことだ」
玄兎はジョナサンが何を言っているのか分からず、隣にいたパピヨンに聞いた。そこから何かを思ったのかパピヨンは顎に手を当てた。そしてすぐにジョナサンへと向き直った。
「報道委員長。ちょっと良いですか」
「なんだい?」
「これから何が起こるんです?」
玄兎はパピヨンが何を聞いているのか分からなかったが、パピヨンのジョナサンを見る目を見て何かとんでもないことが起こる可能性があることを察知した。そしてその目に応えるようにジョナサンは返答をした。
「これは俺の予想に過ぎないが……学園でテロが起こるかもしれない」
あまりのことで玄兎は何の反応も出来なかった。代わりに反応したのはここまで黙っていたミアであった。
「どういうことよ? なんでそう言い切れるわけ?」
「言い切ってはいない。ただ、直近の動向を見る限り怪しいというだけさ。例えば今日の朝、ストナリアのエコーヴィルという街でレゾナンス・ターミナルがマギフォビアンと思われる者達によって襲われている。目的もなくこんな過激な行動に出ると思うか?」
レゾナンス・ターミナルとは共鳴石の保管施設のことである。パピヨンはデバイスを取り出し、事件のことを調べ始め、この質問にはミアが答えた。
「あの連中なら魔法使いが嫌いというだけで行動しそうなもんだけどね」
「それならそれでまずくない?」
二人の発言を聞いた玄兎はジョナサンの発言に少しだけ現実味があるような気がした。そして心配になった玄兎はジョナサンに質問をした。
「あの、テロが起こったらどうしたら?」
「まさにそこだ。というわけで俺は今からいくつかの委員会に話をつけてくる。では」
そう言うとジョナサンは立ち去ろうとしたが、いのりと馬木の姿が目に入ったのか立ち止まった。
「……ああ、今回の大規模出現、お疲れ様。元気を出すことだ」
ジョナサンはそう言い残すと今度こそ去っていった。避難所に残っているのはいつの間にか玄兎たち五人になっていた。
「……あの人、何しに来たわけ?」
これにて本当に第一章終わりです。
次回の更新は12/2(月)の予定です。
感想やアドバイス、疑問点をくれると凄く嬉しいです。
考察とかも大歓迎です。
頭を空っぽにして読むのも大歓迎です。




