三十話 術の突破
孝介が引き起こした事件の後に、龍助と穂春はTBBのトップと名乗る男、一ノ宮清に連れ去られてしまう。
窮地に陥っていた中、千聖が姿を現し、龍助達を助けにきてくれた。
「千聖さん!? 何で」
「調査をしていたら偶然です」
龍助の問いに千聖は端的に答える。
偶然にしてはタイミングが良すぎるのではないかと思う龍助だが、今は目の前の敵に集中することにした。
「君に用はないよ。どいてもらおうか」
「あらら。そんなに急がなくてもいいではないですか」
「うっとうしい奴だな。ならお前から消す」
先程までの余裕ぶった態度から一変し、口調を荒くした清が力を溢れさせて構える。
「まあまあ、仕掛けはもう分かってますので」
「はあ? 俺の力に仕掛けなど……」
清が言い切る前に千聖が指を鳴らした。
すると、爆発音が発生し、それと同時に何かが割れる音もした。
その音と共に突然龍助達の視界の端から端まで一面に亀裂が入った。
「な、なに?!」
驚く龍助の視界に入った亀裂が次々と崩れていき、ある景色が彼らの目に飛び込んできた。
「えっ? 外だ……」
「外ですね……」
そう、龍助達の目に飛び込んで来たのは外の景色だった。
唖然とする龍助達とは違い、先程まで愉快そうにしていた清は慌てふためいている。
「な、何が起きたんですか?」
「幻術です」
龍助が千聖の様子を伺いながら尋ねると、笑顔を絶やさずに千聖は手短に教えてくれた。
幻術のことは龍助でも知っている。
それは文字通り、幻覚を見せる術だ。
しかし、その回答に龍助はある疑問を抱いた。
「俺魔眼で見てましたけど、特に幻覚には見えませんでしたよ?」
「それは、強力な結界によって魔眼の機能を惑わせたのでしょう」
千聖の見解では、清が龍助達に幻術をかけたのと同時にそれを悟られないように結界を張っていたとのこと。
「おそらく龍助くんが初めて行った任務であった結界と同じですね」
結界の種類としては、龍助が初めての任務先で遭遇した結界と同じものだと千聖は言う。
「貴様、どうやって……」
「それはシークレットです」
清の問いかけをにこやかにかわした千聖。
その態度が腹立たしかったのか、清の表情が恐ろしく変わり、周りの地面に亀裂が入るほどの力を溢れさせていた。
その力が先程の比ではないことは龍助でもわかった。
「そんなに力を出しては大変ですよ?」
「そうかい? ならお前も道連れにしてやる」
顔は笑顔だが、明らかに殺意を剥き出しにしている清に対して思わず怯む龍助。
「大丈夫です。僕も戦えますから」
怯えている兄妹を守るように立った千聖をとにかく信じることしか今の龍助達には出来なかった。




