二十二話 弟の救助
迷路化していた道を見事突破できた龍助達はやっとの思いで孝介の弟、洋介がいると思われる建物に到着した。
着いたのと同時に、建物の上の階で怒鳴り声と恐怖の声が響きが龍助達の耳に届いた。
「この上か!」
「いきましょ!」
龍助達は急いで上の階へと上っていき、三階に到着すると、先程の声の主達がそこにはいた。
全身黒服を着た男達に囲まれ、怯えている様子の男の子の姿がある。
その子は目から涙を溢れさせ、しゃがみこんでいるが、僅かに見えた顔が孝介と非常に似ているので、彼が弟だと確信した。
「お前はここで死ぬんだよ!」
「だ、誰か……」
男の一人が怒鳴りながら手に持っていた金属バットを振り上げ、洋介に殴りかかろうとした。
(まずい!)
龍助はもういてもたってもいられず、すぐに能力を使って、素早く洋介と男の間に割り込んだ。
「な、なんだお前は!」
「だ、誰ですか?」
「君のお兄さんの知り合いだよ」
男の質問に対してというより、洋介の質問に対して答えた龍助。
「てめぇに用はねえんだよ!」
龍助の態度が気に入らなかったのか、男が再び金属バットを振るが、その程度の攻撃は龍助でも簡単に防げる。
持っていた警棒で振り下ろされたバットを受け止めながら、それを地面へ流すように位置をずらした。
「おわっ!?」
勢いをつけていた男が流されたことで、体のバランスを崩す。
その隙を狙って、龍助は彼の鳩尾に拳一発お見舞した。
「か、は……!」
苦痛の声を上げながら男はそのまま倒れて気を失ってしまった。
「な、なんだよこいつ!」
「そこまでよ。あなたたちも痛い目遭いたくなければ大人しくしなさい」
男達の背後から叶夜がそう言って彼らを脅してきた。
颯斗は魔弾機を向け、穂春もいつでも魔法を使用できるように構えている。
「お、おい! こいつらやべえよ!」
「逃げるぞ!」
龍助達に怯えた男達は慌てて逃げようとしていたが、それが叶わずに終わってしまう。
なぜなら彼らの足下にいつの間にか発動式が展開されており、そこから緑色の霧が浮かび上がっていた。
その霧は男達の足にまとわりつくと、その足の一部を石化させていた。
「な、なんだよこれ!」
「あ、足が石に……!」
何が起きているのか分からず、怯えている男達は結局逃げることが出来なかった。
今の霧の正体は叶夜と颯斗はもちろん、龍助にも分かっていた。
「流石穂春。力の制御も完璧だな」
「それほどでもありません」
兄に褒められた穂春は照れつつも喜んでいた。
そう、先程の霧は穂春が使用した魔法「ペルセポネ」だ。
対象のものを一気に石化して、生と死の狭間へと誘う恐ろしい魔法だ。
「私のムスペルヘイムと同等の魔法を扱えるなんて、侮れないわ」
「叶夜さん、人のこと言えませんよ?」
ペルセポネは叶夜のムスペルヘイムと同等の難易度で、威力も持っている魔法だが、力の制御が出来れば、最小限の石化で済むらしい。
そして、穂春のおかげで、洋介を襲った男達を捕らえることに成功したのだった。




