二十話 弟の危機
敵がいると思われたビルはもぬけの殻だったが、その代わりというように一人の男が龍助達の前に現れていた。
「お前はもしかして、TBBの下っ端か?」
「ああ、そうだ」
京が聞くと、男はつり目をきつく細め、睨みつけながら答える。
男が睨んできた時に孝介が怯えた様子で足下を見ていたのは誰もが気づいた。
「おい、孝介。お前任務はどうしたんだよ」
「そ、それは……」
男がきつい言い方で孝介に聞いてくる。
京が孝介を隠すように前へと出ると、男が構えた。
「その任務によって、俺たちは連れてこられたんだよ」
「ふんっ、お前が来てる時点で違うことが分かるわ」
京の嘘をあっさりと見破ってしまった男。
見かけによらず、結構鋭いところがあるんだなと思う龍助。
孝介は変わらず体を震わせて怯えたきり話すこともできないのか、何も言わない。
「お前の弟の居場所、もう分かってんだよ」
「ま、待ってください智洋さん! 弟には手を出さないでください!」
弟を出された孝介は慌てた様子で必死に懇願している。
その姿を愉快そうに見ている智洋という男は紛れもない外道だと龍助は思う。
「待て待て、俺たちを忘れないでくれないかな?」
「用があるのはそこのガキ達だ。てめえは引っ込んでろ」
「いやあ、そういうわけにも行かないんだよね」
京が智洋の言葉に構わずに、話をしてくる。
その態度が気に入らないのか、智洋は舌打ちをした。
「お前に何ができるってんだ? 」
「嫌だなあ。俺は結構強い方だよ?」
「知っているが、そいつの弟の居場所が分からないお前に助けることは出来ない」
「居場所が分かれば良いんだな?」
「は?」
京の言葉に智洋は訳が分からないと言いたげな表情をしている。
そして、京はそれだけ言って龍助に目をやり、何かを訴えかけていた。
龍助がその意図に気づくのに時間はかからず、すぐに行動へと起こした。
智洋をしっかりと瞳の中に映し出すと龍助の頭の中で、ある映像が流れてきた。
それは複数の男達が一つのドアを何度も叩いたり蹴ったりしている。
(くそ! 一体どこなんだ!?)
その映像を見て、龍助はもっと力を込めると、また違う映像が流れてくる。
今度は比較的小さなアパートのような建物とその前には電車が通る線路。
そして、その背後には見た事のある白い建造物が建っている。
(あれは…… 三井本館!)
背後に映っていた建造物の正体が三井本館だということが分かった龍助。
「場所が分かった!」
「オッケー! じゃあすぐに行くんだ!」
龍助の言葉に京が思いっきり親指を立てながら、すぐに向かうように指示を出した。
「行かせるか!」
「無駄だから」
龍助達が向かうのを防ごうと智洋が龍助達の頭上に発動式を展開して、瓦礫を落としてきた。
しかし、それを京が光る防壁の結界で防いでくれる。
瓦礫の妨害も阻止してもらった龍助達は急いでビルを出て、急いで三井本館の方向へと向かう。
「弟は無事なの?!」
「今はまだ大丈夫だから急げ!」
孝介に聞かれた龍助が一言で片付けて急がせた。
しばらく走った龍助達だが、あることに気がつく。
「ここ、さっきも通ったぞ!」
「まさか、私たちがたどり着けないように術を!?」
先程から急いではいるが、先程から景色が変わらないでいる。
まるで迷路に迷い込んでしまっているように。
(ど、どうしよ……。このままたどり着かなければ……)
必死に走っても同じところをループをする。
術の突破口が分からない龍助達は最悪の想像をすることしか出来なかった。




