二話 翔平との対談
現在夕方の十八時。龍助達は叶夜と颯斗をお客として施設へ招き入れ、食事を終えた所だった。
「ご馳走様でした。美味しかったね!」
「そうだな」
施設の先生たちが作った夕飯、今晩のメニューはブリの照り焼きだった。
叶夜達もとても満足そうにしていたので、それだけで龍助も嬉しい気持ちになる。
「それじゃあ、私たちはこれで」
「もう行くの?」
「明日は穂春ちゃんの入学式でしょ? ゆっくりしないと」
どうやら明日が晴れ舞台の穂春に気を使って帰ろうとしてくれているのだ。
穂春は少し寂しそうにしていたが、せっかく気をつかってもらっているのに無理に止めては失礼に当たると考えたのだろう。特に何も言わなかった。
「二人とも気をつけてな」
「ありがとう! 二人もね」
「それでは、また」
「うん、またね」
龍助、叶夜、穂春、颯斗の順番で挨拶をして、二人は施設から出ていった。
龍助達は暗闇で彼らの姿が見えなくなるまで、ずっと見送っていた。
◇◆◇
叶夜達を見送ったあと、龍助は自分の部屋でくつろいでいた。
明日は入学式なので、ほぼ全ての生徒が休みである。
入学式後の片付けをする運動部の生徒以外は。
もう施設では自由時間だが、小さい子供たちはもう寝ている時間だ。
ここの施設は就寝時間には厳しいので、夜更かししている子はほとんどいない。
起きているとすれば、怖くて眠れない子供が先生や龍助達の所へ来ることくらいだ。
「俺たちもよく兄ちゃんの所へ行ったな」
昔のことを思い出しながら龍助はしばらくベッドで横になる。
一人ゴロゴロとしていた時、部屋のドアからノックの音が聞こえてきた。
龍助が入るように促すと、ドアが開き、そこに立っていた人物に龍助は驚愕する。
そこに立っていたのは翔平で、その手にはクッキーを乗せた皿があった。
「何の用ですか?」
「少し君と話したくて」
ぶっきらぼうな態度を取る龍助を相手に、翔平は苦笑いしながら部屋へと入ってきた。
「これ、君が好きだって千世さんが教えてくれたんだ」
「……確かに好きですが、それだけで俺を説得するのは無理がありますよ」
クッキーが好きなのは事実だが、それが近づきの印になるはずもない。
「分かってるよ。でも、何も無いよりかはいいだろ?」
翔平の言葉も一理あるなとも思った龍助は無言で頷いた。
翔平に自分の机の椅子に座ってもらい、差し出されたクッキーを一口頬張る。
「それで、何を話すんですか?」
「君はどうして力者になったか聞きたいな」
クッキーを飲み込んだ龍助に翔平が聞いてくる。
どうしても何もと言いたいところだが、彼にも一応理由はあったので、話すことにした。
「俺は強くなって、どんなことからも大切なものを守れるようになりたいんです」
「すごい立派だね。でも、それって辛くない?」
翔平の言葉の意味に気づけない龍助だが、自分の中ではっきりと実感している。
「辛くても、守れるものがあるのは幸せなことです」
「……」
龍助の回答に、翔平は驚いているようだった。
「僕は君を少し甘く見てたようだね」
「それってどういう……」
「さて、君のことが知れて嬉しかったよ。また話そう」
龍助が聞く前に翔平は椅子から立ち上がって部屋のドアへと向かう。
「龍助くんなら、絶対に守れるかもね」
最後にそう言い残して、翔平は部屋を出ていった。
言葉の意味が全く理解出来ていない龍助だが、不思議と不快な感じはしなかった。




