二十八話 弔いの言葉と祈り
西暦二千五十年四月二十五日、龍助と叶夜はある場所へとやって来ていた。
それは福島病院の屋上だった。
なぜ今二人が福島病院にいる理由はとても単純。龍助が行きたいと言い出したからだ。
理由としては七不思議の最後の現象だった屋上の幼い霊であった少年に改めて最後の挨拶をしたかったからだ。
「それにしても、今回の事件もなかなか悲しかったね」
「ああ、とても悲しかった」
七不思議と言っても、元はTBBの身勝手な実験によって引き起こされたものだ。
片目女だった真樹も苦痛を味わったが、まだギリギリ一命は取り留めて保護された。
しかし、最後の現象の少年は誰にも救われないまま殺されてしまった。
まだ未来ある子供が死んで化身へと変えられて苦しんでいた。これほど辛いものはそうそうない。
「でも、穂春ちゃんのおかげでなんとか成仏出来たわね」
叶夜の言葉に龍助も同感だった。
あの時穂春が目覚めていなかったら、龍助達はずっと少年を救えないでいただろう。
「そういえば、あそこの彼岸花、まだ残ってるんだな」
あの時、両親に会う事が出来た少年が最後に残した彼岸花が未だに枯れずに、その場所で咲き続けている。
「魔法で出した彼岸花が奇跡的に残ってるなんて、すごい現象ね」
花が残って咲き続けている状況は叶夜にも分からないようだ。
ただ、龍助が感じるのは、この病院で起きた悲劇を繰り返さないようにと、いさめるためのものではないかということ。
少なくとも、悲しい物語を表していることは確かだった。
「ほら龍助。挨拶するんでしょ?」
分からないことを考えても仕方がないと言い切った叶夜に促され、龍助は改めて挨拶をすることにした。
彼岸花を少年と見立てて、その前にしゃがみ込むと、手を合わせる。
そして心の中で念じるように言葉を連ねていく。
(こんにちは。安らかに眠ってるかな? あの時のことは忘れて安らかに眠ってね)
そこまで思うと、龍助は最後にどうしても言いたかったことを言う。
(ずっと君の中に希望があり続けますように)
龍助がずっと気がかりだったのは、少年が死んだ事実をどう受け止めていたのかということだ。
最後は穂春の力で両親と会い、成仏はしたが、本当に全てが良い感情だったとは龍助には思えなかった。
内心では、死後どうなるのかという恐怖と不安もあったと思ってしまう。
だから、無駄だと分かっていても、どうしてもこの言葉をかけたかったのだ。
「龍助大丈夫? 今にも泣きそうな顔してる」
「……大丈夫。そろそろ行こうか」
叶夜に心配されながらも必死に取り繕って立ち上がった龍助は、そのまま屋上から病院内へ戻ろうとした時だった。
『ありがとう。お兄ちゃん』
聞いたことのある声に龍助は周りを見回したが、その声の主は見えなかった。
いたのは心配そうに龍助を見つめている叶夜と、今でも憎らしいほど綺麗に咲き誇っている彼岸花だけだ。
「どうしたの?」
「いや、なんでもない」
気のせいかと思ったが、その声は間違いなくあの少年のものだったと龍助は確信していた。
もし、そうなら、自分の言葉を聞いていてくれているのかと期待してしまう。
何はともあれ、きちんと最後に言いたかったことを言えた龍助はたとえ自己満足だとしても、気持ちが軽くなっていた。




