二十七話 穂春の魔法
TPBで力者としての訓練を行っていた龍助だが、ある驚きの場面を目の当たりにしていた。
まだ力に開花しただけでなく、先程力の使い方を学んだばかりの穂春が魔法を自由自在に使っていたのだ。
「ほ、穂春? なんでそんなに魔法が使えるんだ?」
「分かりません……。ただ、頭の中でイメージ通りにしたら出来ました」
穂春自身も信じ難いと言いたげな表情で手のひらを見つめている。
彼女が今訓練で使った魔法だけでも三つ程はあった。
京が見たところ、穂春が使用できた魔法の一つ目は「バジリスク」という生体に状態異常を起こすガスを出現させる魔法だ。
二つ目は触れると意識不明の重体へと至らせることが出来る霧を出す「ヘルヘイム」。
三つ目は福島病院でも使った死者の魂と接触などを可能にする「彼岸花」。
そのどれもがかなりの力を持っていないと使用できないものばかりらしく、叶夜のムスペルヘイムと同じくベテランの力者でも使うのが難しいとのこと。
「でも、なんでそんなに魔法が使える?」
「多分、能力のおかげかもだね」
京曰く、穂春がここまで難しい魔法をいくつも使用出来る理由としては一つだけだという。
それは、能力である花の力の効果で、ありとあらゆることに対して開花しているというものだ。
つまり、能力のおかげで魔法はもちろん、様々な技術への才能が備わっていくということだ。
「えぇ……これまたチートだな」
「いや龍助も人のこと言えないわよ?」
龍助の呟きに叶夜が突っ込んできたが、叶夜もある意味チートなのではないかと思ってしまう。
しかし、それは言わぬが花ということで何も言い返さなかった。
「何はともあれ、順調に魔法を習得しているようで良かった」
「俺も頑張らないとな」
「大丈夫だって。大分使えるようにはなってるよ」
穂春が魔法を使えるようになっているのはとても喜ばしいことではあるが、それと同時に焦りも出ていた龍助。
それを京がフォローするように前向きな言葉を送ってくれた。
魔法の話題で盛り上がっていると、いつの間にかいなくなっていた千聖がバッグを持って戻ってきた。
「お疲れ様です。少し休憩しましょう」
「おぉ、良いね。ありがとう」
千聖はバッグから人数分のペットボトルの水を出して龍助達に渡してくれる。
龍助がそれを飲むと、自分がどれだけ喉がかわいていたのか痛感するくらい、水が気持ちよく喉をつたって胃に入っていった。
ただの水なのに、どの飲み物よりも優しく感じる。
否、ただの水だからこそ体に優しいのだと感じるのだろう。
「見てよ。颯斗が穂春ちゃんに話しかけてる」
「え? あっホントだ」
水の良さを感じていた龍助に叶夜が隣に座って、穂春達の方に指さした。
その指の先を龍助も見てみると、本当に颯斗が穂春の隣に座って話しかけている。
龍助はもちろん、叶夜達もあんなに誰かに関わろうとしている颯斗は見たことがないらしい。
(うーーん。邪魔したくないけど、複雑だな)
龍助は兄としての気持ちは割って入ってやりたいと思うが、人の恋路を邪魔するほど悪趣味ではない。
ここは穂春の兄として、妹を見守ろうと決めた。
「ところで、龍助は好きな子とかいないの?」
「ッ!!」
叶夜の突然な質問に龍助は飲みかけた水を吹き出してしまった。
「あぁあ、何してんの?」
「お前が急に変な質問するからだろ!」
叶夜が吹いた水を千聖が持ってきてくれていた布巾で拭いとってくれる。
龍助の反応が面白かったのか、叶夜は大きく笑っていた。
「そういう叶夜はどうなんだよ」
「私? 私はね……龍助よ」
「えっ!!?」
そこまで言って間を置いてからの爆弾発言をした。
龍助は思わず大声を出してしまう。
「なんて! 冗談よ」
「なんだよ……。びっくりさせんなよ」
また龍助の反応に笑いを堪えようとしていたが、全然出来ていなかった叶夜。
恥ずかしく思う反面、彼女の笑う顔はいつ見ても元気をくれる光だなと思った龍助。
「まあ、私たちはともかく、颯斗のことは応援してあげよ」
「兄としては複雑だけど、まあせいぜい颯斗を見極めようか」
二人の意見は一致していたので、颯斗の恋を応援しようと決めた龍助と叶夜は残っていた水を飲み干した。
「さて、じゃああの二人の絆に負けないように俺たちも頑張るか!」
「仕返しね?」
「バレたか……」
お互いに冗談を言い合える仲にまでなった龍助達。
不思議と二人ともこの関係が心地よく感じていたのだった。




