二十六話 龍助の魔法
穂春がTPBにやって来たが、そこで颯斗の意外な一面を目の当たりにした龍助はかなり複雑な思いをしていた。
「皆さん、ここにおられたのですね」
「お、ごめんごめん千聖。勝手に移動して」
京の話を聞いた千聖が微笑ましく穂春に笑いかけた。
千聖も来たので、そろそろ予定通り、穂春は叶夜と千聖に任せることになった。
「じゃあ穂春。頑張って」
「はい。兄さんも頑張ってください」
お互いに応援の言葉を送りあい、そのまま別れた。
龍助が気づかれないように颯斗の方を見てみると、彼は少し名残惜しそうな表情をしていた。
颯斗はこんなに分かりやすい人間だったかと疑問に思った龍助だが、京は別のところに視線を向けていた。
「京さん? 何見てんの?」
「そう言えばまだ彼女のこと伝えてなかったね」
「彼女?」
そう聞いた龍助に対して京が親指でそちらを見るように指し示す。
それを追って見てみると、そこには直春とあの片目女だった女性が一緒に何かの練習をしていた。
(そういえばあの人、TPBで保護されたんだっけ?)
一応女性はあの後きちんと千聖の治療を受けてすっかり回復したのは良いが、力を使うことがまだ出来ていないので、TPBで保護したことは龍助にも聞かされていた。
「しばらく直春さんは仕事を休んで彼女の指導員をしてくれてるんだよ」
聞けば、直春は少しの間軍人の仕事を休んで彼女の力の使い方の先生をしてくれているらしい。
「やあ、直春さん」
「お、京くん達も練習かい?」
「そうですよ」
直春と京が話している中、女性が龍助達のところに近づいてきた。
「あの、あの時は助けていただいてありがとうございます。私は四条真樹です」
「天地龍助です。無事に回復して良かったです」
丁寧な挨拶に驚きつつ龍助も挨拶をし返す。
お礼を言ってきたものの、彼女は霊体の時は力に飲まれてたせいであまり覚えていないらしい。
直春に抱えられて千聖の治療を受けたところからなら僅かに思い出せるとのこと。
千聖の治療で回復したのは良いが、彼女もまた力のことで悩んでいた。
彼女、真樹の目は歪形の魔眼と言って、人工的に作られた魔眼だ。
人工的に作られたものとはいえ、なかなか制御に悩むくらいの効果を持っているとのこと。
「まあ、真樹の力も使いこなせれば人の役に立つよ」
「直春さん! そ、そうですね! 頑張ります」
いつの間にか京との会話を終えた直春が真樹の隣に立っていた。
全く気づいていなかった真樹は驚きのあまり直春から距離を取ってしまった。
そんなに驚くことかと龍助は思ったが、それ以外に理由があることに彼は気づいた。それは、
(真樹さん、顔赤くないか?)
真樹の顔がりんごのように赤くなっていたのだ。
これと先程の反応から出る答えは一つだけだった。
(ここにも春が来た人がいるとは……)
あの福島病院の一件の後に恋に落ちた人物が二人もいた事に龍助は驚きを隠せないでいた。
◇◆◇
「兄さん、沢山学べました!」
「それは良かったな」
授業を終えた穂春達が訓練所へとやって来て、いよいよ実際に力を使う練習をすることになる。
「さて、穂春ちゃんは能力を使えるようにしようか」
「はい! 分かりました!」
「頑張りましょうね」
千聖に言われた穂春が笑顔で頷いた。
それを見た龍助も負けないように今自分が練習している魔法を成功させようと思った。
「龍助も能力、と言いたいところだけど、君はあの魔法を頑張ろうか」
「え、マジで?」
「出来そうなものを中途半端にするのは良くないよ」
その意見は最もだと思った龍助は潔く魔法の練習をすることにした。
穂春と離れた場所で練習をし始める龍助。
「じゃあ、龍助。やってみて」
「はあい」
京に言われた通りに魔法を発動させようと腕に力を集中させる。
すると龍助の腕が少し光出し、それが消えると龍助の腕がまるで違う生物の腕に変わっていた。
長く伸びた爪に太い腕、覆われた鱗、それはまるで竜の腕のようだった。
しかし、数分経つと同じ光を発して元の腕に戻ってしまった。
「やっぱりまだダメみたい」
「でも前よりは大分維持できてるよ」
龍助の腕を見ながら京が評価してくれた。
今龍助が練習している魔法は「メタモルフォーゼ」というもので、身体を別のものに変える魔法だ。
龍助は今までずっとこの魔法を練習して変えることは出来ているが、なかなか維持するのが難しいようで、苦戦していた。
「これが使えれば、武器がなくても戦えるんだけどなぁ」
これを使いこなせるようになれば、万が一警棒を無くしても戦うことが出来る。
龍助の場合、それがなくても肉体の力でなんとか戦えるが、それにも限界がある。
今はまだ維持が難しくても、そのうち使いこなせるようになれるのではないかと考える龍助だった。




