二十三話 直春の目的
福島病院で七不思議を解決した龍助だが、彼は自分自身のことが分からなくなっていた。
京から教えられた自分たちの力は大変強く危険なもので、それは代弁者という者から生まれたものらしい。
そんな強い力を持った自分がどんな存在なのかという疑問を浮かべ、本当に使いこなせるのかという心配をしていた。
皆の前では強がって頑張ると言ってしまったが、内心は不安で支配されていた。
「龍助くん? 大丈夫ですか?」
「あ、すみません……。ボーッとしてました」
「力のことで悩み事ですか?」
声をかけられ、我に返った龍助が見てみると、千聖とベッドで眠った穂春以外はいなくなっていた。
千聖に問いかけられた龍助は咄嗟に笑顔で答えたが、まだ口にしていないのに悩みを当てられてしまう。
龍助は笑って誤魔化したいと思っていたが、何故か彼には嘘をつきたくないと思ってしまう龍助は正直に話すことにした。
「俺たちの力が強力なのはわかりましたけど、自分たちの正体がなんなのか、使いこなせるのか心配で……」
「なるほど。なら、自分の正体については、皆を助ける英雄と考えていれば良いと思いますよ」
突然の提案に龍助は戸惑いを隠せなかった。
英雄といえば様々な難題をクリアして人々を救う存在だ。
そんな大それたことも成し遂げられていない自分を英雄だと思うのはいくらなんでも無理があるように感じてしまう。
「何も難しく考えなくても、小さなことでも、他者を助けたという事実だけでもそれは立派な英雄です」
千聖の言葉は難しいようで理解出来るので、龍助でもその意味に気づくことは出来ていた。
千聖曰く、他者のために必死になって頑張る姿はどんなに小さくてもそれがきっかけで救われている事実があるのだと言う。
「俺が、英雄ね。面白いですね」
「そう、そのように楽しく捉えるのも良いと思いますよ」
自分が何者なのかはどんなに考えても知ることはないので、自分自身のことは一旦置いておくことにした龍助。
力に関しては今まで通りに訓練していけば使えるようになるから心配は不要だと千聖は言った。
なぜだか分からないが、千聖と話した龍助の心が軽くなり、不安の支配が無くなっていた。
◇◆◇
千聖と話を終えた龍助も病室から出て、京達がいる中庭へと向かっていたが、途中で窓から景色を眺めている直春を発見した。
「直春さん。何してるんですか?」
「ああ、いや、少し懐かしいことを思い出してね」
龍助が聞いてみると、穂春との会話を見て昔のことを思い出していたらしい。
自分たちの会話のどこで懐かしく感じたのか分からないが、少し気になったので、続きを聞いてみる。
「直春さんにも妹がいるんですか?」
「いや、妹ではなくて弟。実は僕らの家は訳あって兄弟が多いんだよ」
龍助達兄妹を見て、直春は自分たちの兄弟のことを思っていたらしい。
聞けば、兄弟が多すぎるせいなのか、仲はあまり良くないとのこと。
「ただ、その中で一番下の弟は兄弟全員と仲が良かったんだよ」
「そんな弟さんがいたんですね」
「そうだけどね、ある日突然いなくなったんだよ」
突然の言葉に龍助は驚きを隠せなかった。
弟さんに一体何があったのかは兄弟全員知らないらしい。
「それは、悲しいですね……」
「そう。だから、兄弟で協力して探してるんだよ。仲は良くないけど……」
最後の一言で龍助は笑いそうになったが、なんとか堪えた。
この直春という男とその兄弟たちは同じ目的だから協力しているのだなということは十分に伝わった。
それに、自分も小さい頃良くしてくれた少年を探しているからか、どことなく親近感を感じている。
「千聖くんがその消えた弟に似てるんだよ」
「千聖さんが、ですか?」
また自分と似たようなことを思っていることに驚く龍助。
もしかすると自分と直春達が探している人物は同じかもしれないが、まだ確信できるものがないので、黙って置くことにした。
「そろそろ行こうか」
「そうですね」
話を終えたので、京達がいる中庭へと向かっていく龍助達だった。




