二十話 再会
最後の七不思議、「屋上の幼い霊」をどうにか解決しようと動いていた龍助達。
しかし、かなり手こずり、更に窮地に陥っていた龍助の元に眠っていたはずの穂春が屋上の出入口に立っていた。
「穂春、なんでここに?!」
「兄さん! それよりも今はそちらに集中してください!」
龍助が問いかけたが、それよりも今の現状の解決策を考えるように言われた。
確かに今は龍助の体にまとわりついている霧をなんとかしなければ、彼の精神が汚染されてしまう。
(集中って言ってもどうすれば……)
霧はずっと龍助の周りにまとわりついてくるので、振り払ってもずっと龍助を包んでくる。
彼にはどうしようもない状況になっている。
「俺が消す!」
そう言った京は魔眼を発動させ、龍助の周りに漂っていた霧を消してくれた。
霧が消え去ったのと同時に龍助の体と気持ちが嘘のようにに軽くなった。
「今だ!」
軽くなった体を全力で動かし、少年の中にある恨みの弱点を警棒で力一杯に突いた。
突かれたのと同時に、少年から発せられていた呪いの力が止まる。これを見たところ、恨みの弱点を突くのに成功したようだ。しかし、
(この後、どうすれば……)
弱点を突くことに成功はしたが、その後の対策を全く考えていなかった。
一時的に恨みを抑えたは良いが、少年を成仏させる方法がなければ、解決出来ない。
「兄さん、ここは私に任せてください!」
「え? 穂春?」
いつの間にか龍助の背後まで近づいてきていた穂春。
穂春は龍助の横を通り過ぎ、少年の目の前にまで近づく。
「ダメだ穂春! 戻るんだ!」
「龍助! 彼女に任せよう」
龍助が穂春を戻そうとしたがそれを京に止められる。
どうやら彼は穂春が解決する方法があると確信しているようだ。
だが、おそらく目覚めて間もない穂春を突然危険なことに巻き込みたくない龍助としては今すぐに引き止めたい気持ちだ。
「大丈夫です。妹を信じてください」
「……無理はしないでくれ」
いつの日か龍助が妹に言ったセリフを今度は逆に言われてしまった龍助は止めることを辞め、穂春に任せることにした。
任されたことが嬉しかったのか、穂春は満面の笑みを向けてくれた。
そして、少年の方へと振り向き、じっと見つめる。
「……誰?」
「怖がらないで。私はあなたを助けたいの」
「パパとママは?」
先程恨みの弱点を龍助が突いたお陰で、今の少年には話が通じているようだ。
霧で見えずらくなっていた顔が良く見え、楽そうな表情をしている。
穂春の言葉にどこか安心している様子だが、すぐに自分の両親がどこにいるのか聞いてきた。
「これから会わせてあげる。だから、お姉ちゃんの手に触って」
「こう?」
「そう。そのままパパとママを思い浮かべて」
穂春の言われるがままに少年は彼女の手に触れながら目を瞑った。
穂春の言う通りにしている少年はまさに純粋そのもので、本当に生きていたら、もっと違う人生を歩めていたのかもしれない。
(いや、今は考えないでおこう……)
少し考えただけでも胸が痛くなってくるので、それ以上考えないでいた。
「じゃあ、今から魔法を使うね」
穂春が少年の両親の顔が分かったのか、手を離し、胸に両手を重ねる。
何かを念じるかのように目を瞑り、僅かに口が動いたその時だった。
穂春の足下に一つの発動式が展開され、そこから大量の何かが一斉に現れ広がっていく。
(これは……彼岸花?)
暗闇でも分かるくらい綺麗な彼岸花が龍助を通り越して、後ろにいる叶夜達のところにまで咲き誇った。
おそらく、屋上を全体を覆った彼岸花の根元が薄く光り出す。その光はなぜかとても暖かく感じる。
「もうすぐで、パパとママが来るよ」
「ほんとに!」
どうやって少年の両親を連れてくるのか龍助には全く分からなかったが、そんなことを考え出した時に、また彼岸花が光出した。
一定時間光り続けた後に少年の背後に二人の人影が現れる。
(敵か?!)
そこに現れたのは二人の中年の男女だ。敵と思った龍助が動き出そうとしたが、その必要はなかった。
「パパ! ママ!」
「……え? 友也? 友也か!?」
「嘘……。本当に友也?」
「そうだよ!」
なんと現れたのは少年の両親だったのだ。
どうやって呼び出したのか気になる龍助だが、今はそれどころではないので、大人しくしていた。
「ああ! 友也! 帰ってきてくれたのね!」
「本当に……良かった! ずっと会いたかった!」
両親はこれでもかというくらい少年の名を呼びながら抱きしめる。
この場面だけでも少年が亡くなってから大分月日が流れていたことがうかがえる。
「パパ……。ママ……。ごめんね。僕、お別れを言いに来たの」
「……え? 嘘だよな……?」
「そ、そうよ! そんなこと言わないで!」
少年の言葉を受け入れられないのか、両親は少年にしがみついている。
その場面だけで胸が締め付けられる。
「僕……。パパとママより先にいなくなって、苦しい思いをさせてごめんなさいが言いたかったの」
「あなたが謝ることじゃないわ!」
「そうだよ! お前は何も悪くない!」
少年も涙を流しながらやっとの思いで自分の胸の内を明かした。
彼は何も悪くない。なのに何で謝る必要があるのか龍助には分からない。
「僕はもう大丈夫だから、もうパパとママも苦しまないで!」
少年の悲痛の叫びが屋上に響いた。
両親は驚いていたが、何かに納得したように何度も頷く。
「分かった……! パパもママも大丈夫だ!」
「そうね……。そうよね! あなたはもう大丈夫ね!」
そう言った両親の体が赤く光出した。
それを見て、龍助はもうお別れの時間なんだと察する。
「あ……あ……友也。また会える時まで元気でね!」
「また、また会いに来てくれ……!」
「うん……! バイバイ! パパ、ママ!」
最後のお別れの言葉を言い合った三人のうち、両親の二人が光、そして彼岸花の花びらと共に消えてしまったのだった。




