十三話 病院の裏の顔
動き回る死体と伸びる霊安室への廊下の現象の首謀者と思われる吉田達也を倒した龍助は腕を何度か振りながら様子を見ていた。
先程まで湧き上がっていた力がどこへ消えたのやら、今は全然出てこないのだ。
(いや! 今はそれよりも)
力のことよりも優先的にしないといけないことを思い出し、龍助が叶夜達の元へ行こうとしたが、タイミングよく叶夜達の方から来てくれた。
「やっぱり倒してくれていたのね!」
「おー! 見事だよ」
叶夜達によると、死体の塊と対峙していたが、突然動かなくなり、バラバラになったという。
おそらく術者を倒したことで、かけられていた術か魔法が解除されたのだろうと直春は考えた。
倒した達也を拘束し、塊から散らばった死体たちを元の棺に入れていく龍助達。
ここではなく、病院内をさまよっている死体たちは後で戻すことにし、とりあえず、三人は棺に向かって合掌した。
◇◆◇
死体たちを止めることに成功し、片付けもし終わった龍助達は先程行けなかった京がいる四階へ行くことにした。
二つの現象を突き止め、解決することに成功したので、残る七不思議は四つだけとなる。
しかも、この人為的な七不思議はTBBが関係していることがきちんと判明したので、かなり良い収穫となった。
「そういえば、颯斗の方はどうだろ?」
「そうね! 丁度一階に行くから見に行きましょ!」
丁度地下から一階に出てきたので、その足で颯斗の元へ行くことにした。
目当ての人物に電話をかけてくれる叶夜だが、やはり電波が悪いのかなかなか繋がらない。
すると、
バーンッと耳の鼓膜を破りそうになるほどの爆発音が響いてきた。
「な、何?! 今の爆発音」
「方向からして病院の中庭だね」
中庭の方から音がするとのことだったので、急いでそちらへと向かって走り出した龍助達。
中庭にも七不思議の一つが存在しているので、もしかすると現象の正体と戦っている音なのだと龍助は予測する。
中庭に到着すると、そこには地面に穴が空いていたり、抉られたりと無惨な姿をしていた。
「颯斗は?」
「いた!」
砂埃が舞って、人物を特定するのが難しい中、龍助がいち早く颯斗を発見した。
そこには魔弾機を構えている颯斗の姿があり、彼が見ている視線の先には一人の男が立っている。
「あれが中庭の現象の正体か」
「かなり颯斗相手に苦戦してるわね」
颯斗とその男が睨み合っている中、相手が手をかざし、発動式を展開する。それと同時に地面がうごめき出し、波のように盛り上がると颯斗に向かってくる。
おそらく地面の波で颯斗を飲み込もうとしているのだろう。
しかし颯斗は動く気配はなく、ただ手を振ると、その軌道に沿うように赤い光がまるで斬撃のように現れ、波とぶつかり、蹴散らしてしまった。
「くそ!!」
「これで終わりだ」
そしてすかさず、魔弾機を敵に向けて一発撃った。その弾は目にもとまらぬ早さで標的とぶつかり、男を吹き飛ばし、魔弾をくらった男はそのまま気絶してしまう
「颯斗!」
「お前ら、なんでここに?」
「それはね……」
事情を話した叶夜の言葉を静かに聞いていた颯斗は納得していた。
TBBが関係しているということも今の敵から知ったようだった。
「それはそうと、ここの病院、かなり裏があるぞ」
「どういうこと?」
颯斗の言葉に龍助達は何か嫌な悪寒を感じた。
「この病院、密かに患者を使って実験をしていたようだ。TBBと一緒に」
「……は?」
颯斗が敵の方へ目をやりながら説明してくれる。
この福島病院は昔から表向きどこにでもある少し大きな病院だが、裏ではTBBを中心に力者の実験を患者を使って行っていたようだ。
それは少し前、一ヶ月前まで行われていたらしい。
今の院長になってからそれは無くなったが、その犠牲者は数知れず、少なくとも百人近く亡くなったとのこと。
「まさか、この七不思議は実験の産物ってこと?」
「例外もあるけど、そういことだね」
赤い部屋の件は穂春の力を盗むのが目的だったが、他の現象は実験の延長、あるいは産物だと言い切れる。
この事実に龍助は心底気分が悪くなった。
「まあ、ここで怒っても仕方がない。次へ急ごうか」
「そうですね」
敵の男を拘束しながら言ってきた直春とそれに賛同した叶夜。
龍助も一秒でも早く現象を解決したいので賛同した。
「じゃあ次は京さんの所ね」
「急ごう!」
中庭の現象が颯斗によって解決されたので、次はいよいよ京の元だ。
案の定死体たちは動かなくなってしまったので、壁となるものは無かった。
少しでも早く自分に出来ることがあればやっていきたいと思い、月光に照らされ、薄くなった暗闇に入っていく龍助だった。




