六話 千聖への感謝
助っ人として連れてこられた直春は簡単に自己紹介をしてくれる。
「僕は力者であり、軍人でもあるんだ。つまり力者専門の軍人だよ」
「力者だけの軍とかあるんですか?」
「あるよ。むしろ無いと大変だからね」
直春の説明の中にもあった、力者を中心とした部隊もあることに龍助は驚いていた。
しかし力者は一般ではなかなか聞かない言葉だが、大昔から存在はしているので、そういう団体があっても不思議でもなんでもない。
「力者の存在は化学などで否定されるようになってからは隠れながら生きているからな」
「なんで隠れる必要があるんですか? 普通の人である力者もいただろうに」
「人間ってのは、自分と違う者は否定したくなる生き物なんだよ」
力者には確かにTBBのように危険で迷惑をかけてくる存在もいるが、逆にそれを止めようと必死に頑張っている力者だっている。
それなのに、自分と違うからという理由だけで全てを否定し差別をしている。それには龍助にも覚えがあったので、心底悲しくなった。
穂春の時だって、京が一度薬の使用を止めて聞いてきたのはそういうことになる可能性もあるからなのだと今初めて龍助は気づいた。
「まあ、それでも俺たちは人間であることに変わりはないよ」
「そうよね。もっと知ろうとして欲しいものね」
京の言葉に叶夜が同調した。
龍助も京と叶夜の言葉は本当に色んな人に聞いて欲しいと心の中で思っていた。
「ま、話を戻すけど、直春さんは強いから期待していいよ!」
「ハードルを上げないでくれるかい?」
京が話を戻しながら盛り上げ、直春もそれに合わせて冗談っぽく言った。
場が和んだところで、今後の予定を立てることにした。
まずは千聖が今院長に話をしに行っているので、その間に京が組織に連絡して手配してもらう。その間に龍助達は病院内を見回っておくという感じだ。
「ちなみに龍助も今回から一人で行動してもらうよ」
「え!? 早くない?」
「大丈夫だって。今の君なら」
何を根拠に言っているのかさっぱり分からないが、任せられたのなら責任を持ってやろうと意気込んだ。
ちなみに病院の造りとしては五階建てで、診察する棟と、入院する棟と分かれている。
それぞれの棟二人と三人で別れて見回る形になる。
「ちなみに穂春ちゃんは千聖が見てくれるから大丈夫だよ」
「それなら安心です」
穂春の看病兼護衛は千聖に任せることになり、それについては彼も了承してくれているらしい。
千聖の魔法などは不明だが、護衛出来るだけの力は持ち合わせていると京が言っていたので大分心強く感じた龍助。
彼らが話していると、病室に千聖が戻ってきていた。
「あまり期待はしないでくださいね。仕掛けは出来る限り作りましたが」
「やあ千聖、戻ってきたんだね」
「仕掛けってなんですか?」
龍助達が話しているのが聞こえていたのか、千聖が苦笑しながら入ってきた。
千聖の口から仕掛けという言葉が出てきたので、それに対して龍助が聞くと、千聖自身が答えてくれる。
「僕は訳あって力を使わないんです。その代わり、様々な仕掛けや道具を用いて戦闘することがあります」
「どんな訳ですか?」
「龍助。あまり詮索はするな」
どんな訳があるのか龍助は気になったが、京に止められたので、仕方なく引き下がった。
力は使わないが、その分千聖が作る道具や仕掛けは絶大な効果を発揮し、大いに役立つらしい。
実際龍助と颯斗が持っている警棒と魔弾機も持ち主を助けているので、納得出来る。
(この人もなんでもありだな)
京といい千聖といい、とんでもないスキルを持っている力者が多すぎないかと龍助は考える。
もう既に仕掛けは作っているといっても、千聖が何かしらの行動をしない限りは作動しないようになっているらしいので、龍助達が引っかかることはないとのこと。
「それで、院長は行動してくれそうか?」
「はい、訳を話したら院長はすぐに病院中の人達に通達してくれるとおっしゃってくれました」
千聖が七不思議に詳しい専門家を呼んで、調査してもらうようにお願いしたと院長に伝え、それにあたって病院の人達に迷惑がかかるから移動してほしいとお願いしたそうだ。
全ての訳を話したおかげか、院長は少し時間を有するが大丈夫だと言い、すぐに行動してくれている。
千聖が上手いこと言いくるめたのか、それとも彼の人柄なのか分からないが、間違いなく計画はスムーズに進んでいた。
「千聖さん、色々ありがとうございます」
「いいえ、大丈夫ですよ」
龍助のお礼に千聖は嬉しそうに笑って返してくれた。
治療をしてもらっただけでなく、様々な面に関して助けてくれていることにありがたいものの、少し申し訳ない気持ちにもなった龍助。
「なんだか、色々任せてしまって申し訳ないです……」
「何を言っているのですか。人は助け合うことで成長していくのですよ」
千聖を助けた場面は今のところ全く無いが、今後出てきたら絶対に助けようと決心する龍助だった。




