五話 助っ人
今現在、夜中の二時になったが、龍助は眠れないでいた。
いつ穂春が襲われてしまうのかと心配で仕方なかったのだ。
自分も通り魔に遭って間もない時に再び襲われたのだから警戒するのも無理はない。
ふとベッドから起きると、穂春は相変わらず眠っている。
妹のベッドへと近づき、頭を撫でて顔色を伺ってみるが、やはり何も反応は無い。
「穂春、頼む。戻ってきてくれ」
心から祈っている龍助は千聖の姿がないことに気がついた。
一瞬御手洗かなと予想したが、そんなところに病室のドアが開いた。
「天地くん、まだ眠れていなかったのですか?」
「すみません……。穂春が心配で」
「まあ、そうですよね」
開けたのは千聖で龍助がまだ起きていたことに驚いていたが、理由を聞いてあっさりと納得した。
そして千聖は龍助の隣に座り、共に穂春の様子を伺っていた。
「穂春にも強い力があったんですね」
「そうですね。兄妹二人共強い力を持っているのは驚きです」
「そういえば、俺の力って他にもあるんですか?」
千聖と会話を交わしていた龍助がふと思い出したように千聖に聞いてみた。
千聖の反応は特に変わらずだが、少し唸るように考えた後に彼が出した答えは一つだ。
「天地くん達に話すのはまだ早いと思います。成長していくに連れ、少しずつ分かって来ますよ」
「……そうですか」
はっきりとしない答えで不満はある龍助だが、何故かこの千聖という人の言葉は信憑性があるようにも感じた。
そんなこんなで話をしていたら、徐々に睡魔が襲ってきた龍助。
先程まで全くなかった眠気が急遽現れたので、それに抗うことはせず、即自身のベッドへと移った。
「そろそろ寝ましょうか。お休みなさい天地くん」
「はい……。おやすみ……なさい」
千聖の笑顔を最後に、龍助の視界は真っ暗へと変わっていったのだった。
◇◆◇
「おっはよう!」
「……京さん、もう少し静かにしてくれない?」
「ま、良いじゃん!」
朝になり、元気よく入ってきた京に注意をした龍助だが、それを軽く受け流されてしまった。
背後には叶夜と颯斗が立っていた。
三人ともよく眠れたらしいが、龍助はそうでもなかった。
あの後眠れたと言ってもそれまでは眠れなかったので、寝不足に近い状態だった。
「まあ、龍助ならすぐに回復するでしょ!」
「あのですね……」
龍助の場合は肉体の力である程度の傷などは回復出来るが、本人は雑に扱われている気がして不満に思っていた。
「ごめんごめん! 冗談だから!」
龍助の気持ちを読み取ったのか、京が珍しく謝ってきた。
逆に怖く感じたが、とりあえず、謝罪を素直に受け取ることにした。
「さて、これからのことについてだけど、引き続き俺たちはこの病院を調べることにした」
仕切り直して京が説明したのは、これからの調査についてだった。
この病院にはしばらくの間、居着くことにはなった。
ただ、もしものことを考えて、今この病院にいる患者たちと看護師や医師を一時的に移動させることになってしまったのだ。
「どこへ移動させるの?」
「TPBが用意した広い施設さ」
もうなんでもありなTPBに呆然としていたが、それを難なく出来るあたり、この組織は相当重要な役割を担っているのだと確信した。
(まあ、世界征服を目論んでいる組織を追ってるもんな)
内心で納得していた龍助は京の話の続きを聞くことにした。
患者含む病院の人達を移動させた後に、昼の病院を見て回り、不審なものは無いかをチェックするとのこと。
その後にやってくる夜になったら、同じように見て回って、昼と変わったところは無いかを点検していくらしい。
かなり手間がかかると龍助は思うが、京曰く、少しでも違いが分かれば対処出来ることもあるという。
「ちなみに七不思議の見回りはここにいる人達だけ?」
「いいや、助っ人を呼んでおいた」
叶夜の質問に京が首を横に振った。
さすがに七不思議を調査するにしても人数が少なすぎる。
龍助達プラス千聖を入れても、一人一つの現象しか調べられない。
そこで京はある助っ人を呼んだらしい。
「入ってきてもらって良いですか?」
「僕ならここだよ」
「うお!」
京が呼ぶと、彼に呼ばれたであろう人物が一言だけ言って、龍助の背後に立っていた。
驚きのあまり飛び上がった龍助を笑いこらえながら見ていた京が突然現れた人物の紹介をする。
「こちらは、四季狭間直春さんだよ」
「よろしくね」
京が紹介してきた直春は黒髪に青い瞳が特徴的で、この人物もなかなかの高身長だった。
そして何より、龍助が抱いた印象はとても笑顔が素敵な好青年だということだ。
「そういえば、四季狭間って……」
「そうだよ。四季狭間春永の弟だよ」
龍助の予想は的中しており、直春は春永の弟らしいが、今回の手伝いは春永ではなく千聖に頼まれたからだそうだ。
つまり、本当に助っ人を連れてきたのは京ではなく千聖なのだとわかる。
(あの人顔広くないか?)
様々な人々にお願いすると引き受けてもらえる千聖という男は一体何者なのか、疑問に思う龍助だった。




