二十七話 京の魔法
敵の男が暴走になってしまい、止めようとしたところで敵の幹部が姿を現してしまった。
「いやはや、そんな使えない道具を助けるとはお人好しだね」
「うるせえな! 黙れよ!」
幹部である史郎が愉快そうに笑っているが、吠えた龍助を一目見た瞬間に驚きの表情を見せた。
「おお! まさか君がここに来るとは!」
(何だ?)
男の笑みはさらに不気味になり、それを向けられた龍助は寒気がした。
しかし、男と龍助の間に京と叶夜、颯斗が立って遮ってくれたので、少しだけ安心感はあった。
「天地龍助くん。我々TBBの仲間になるんだ」
「……は?」
急に勧誘されたが、龍助の気持ちは決まっていた。
「嫌に決まってるだろ!」
吠えるように返した龍助に史郎は仕方がなさそうに手を挙げると、彼の背後と龍助達の背後の黒服達が銃を構えた。
「なれ。さもないとここで全員消す」
脅しではなく本気で言っていることは龍助にも分かったが、気持ちを変えるつもりは彼には毛頭ない。
しかし、このままだと京達を傷つけてしまうとも考えた。
「おいおい。俺たちのことを無視するなよな」
龍助が困っていると、京が頭を軽く撫で、龍助の目の前に立つ。
その背中はとても大きく逞しかった。
「貴様に用はない」
史郎はそう言うが、京は気にする素振りを見せない。
「まずは、やっぱり彼だね」
京は先程から暴走で苦しんでいる男を見つめると、目をいつものように光らせた。
光を見た男は膝から崩れ落ち、そのまま気絶してしまった。
「なるほど。力は強いようだな。ならば」
男を気絶させることに成功したが、それが史郎を動かす猶予となってしまう。
京が魔眼を解除した隙を狙い、史郎が手をかざすと、そこから赤い光を発光させた。
龍助達は京が前にいたのであまり届かなかったが、京本人はまともに光を受けてしまった。
「京さん!? 大丈夫?!」
「……」
「はは! これでこいつは我々の奴隷だ」
龍助が京に問いかけたが、答えが返ってこない。その様子を見た史郎が勝ち誇ったように大笑いした。
まさかあの京がこんなあっさりとやられてしまうとは思わなかった龍助が焦っている。
だが、叶夜達はそうでもなかった。
「龍助。大丈夫よ」
叶夜が龍助の耳元で囁いたが、何が大丈夫なのか全く理解できない。
「何が大丈夫なんだい? さあ、早速天地龍助を捕らえろ」
「嫌だね。なんで俺がお前みたいな半端者のために?」
「……は?」
ずっと爆笑していた史郎が京に命令を下したその時、京から拒否という答えが返ってきた。
あまりの予想外だったのか、史郎が硬直してしまっている。
一人だけが盛り上がっていただけにあまりにも哀れに思う龍助。
「お前の力弱すぎるわ。こんなのでよく幹部になれたな」
「貴様、なぜ奴隷化しない!」
奴隷化という耳を疑うような言葉を投げかけてきた史郎だが、京は鼻であしらっただけだ。
「どういことなの?」
「まあ、龍助に教えるだけ教えよう。あいつが使ったのは『信仰』。光を使った催眠術だ」
京が言うには、今の光には催眠術か、それに類するものが含まれたもの。
目から脳へと力を送り込み、相手を支配するというものらしい。
光を受けた後にその人物の言うことしか聞かなくなってしまうのでこの名が着いたらしい。
「貴様、何者だ……」
「スタークラスターズの一人の七坂と言えば分かるかい?」
「まさか! あの七坂家の七坂京だと?!」
史郎が京の正体を知った途端に顔が青ざめていった。
この状況を見て、京がどれだけ有名な力者なのかが窺える。
「じゃ、お前たちに用はない。叶夜、颯斗。そっちは任せた」
叶夜達に指示を出した京が、敵を見ながら人差し指を立てると、その指先に真っ白な光が一定量集める。
集まったのと同時に光の塊は一瞬で消えたが、その代わりというように広間の上部に神々《こうごう》しい光が現れる。
「なんだ?」
龍助が頭上を見てみると、そこには真っ白に光る大きな発動式が浮かんでおり、そこから無数の光の礫が降ってきた。
礫は史郎にはもちろん、背後にいた黒服の部下たち全員にも当たり、京の目の前にいた敵が全て倒れてしまった。
それだけでなく礫が降った場所は先程の姿から一転してボロボロに破壊されていた。
まるで、神が起こした裁きの雨のようだと龍助は考えた。
「今のはなんなの……?」
「今のは俺の魔法、『天誅』だよ」
龍助の質問に京が得意げに教えてくれた。
天誅はその名の通り、天からの裁きを意味している。
魔法の一部始終を見ていただけでも今の技が天からの裁きという言葉がピッタリ過ぎるのではないかと思ってしまう。
そして、それと同時にこの京という人物は、実は人間ではないのではと疑ってしまう龍助だった。




