二十六話 TBBの幹部
儀式を阻止するため、広間へやってきた龍助達は予想外の出来事に直面していた。
なんと自分の魔法や力のことが分かっていない力者が目の前に現れたのだ。
「君の魔法と力のことを話してるんだけど、分からない?」
「本当に何を言っているんだ?」
予想外の展開だったが、京は何やら納得していた。
その表情の意味に龍助は気づけないが、なぜ男が力のことを分かっていないのかは予想できる。
力者になりたてなのか、それとも初めから力者としての知識がないのか、などだ。
実際龍助も力者になりたてだから、まだまだ力のことは分からない。
「細かいことはどうでもいいわ! 私たちには分からないんだから! それよりさっさと捕まえて!」
女が吠えるように男に命令をした。
命令された男は戸惑いながらもハンマーを構える。
それを見た京は何か考え込んでいるだけで戦闘態勢を取ろうとはしない。
「余裕そうだな。ならこちらからいかせてもらう!」
京が動くのを待たず、早速今いる場所から大ジャンプした男。
京の真上からハンマーを思いっきり振り下ろしたが、直前で攻撃が逸れてしまう。
地面に叩きつけられたハンマーは壊れることはなかったが、その衝撃で床を破壊した。
かなり力強く地面に叩きつけたのに、男は全く何もなかったかのようにピンピンしている。
普通なら地面にぶつかった反動が起こるはずだ。それだけ威力のある攻撃を繰り出したのだ。
「な、何が起きたんだ?!」
「君たちの攻撃は俺には当たらないよ」
男はピンピンとしていたが、攻撃が当たらないという事実に驚きを隠せていない。
それについて京が端的に教えるが、男は信じられないのか、振り下ろしていたハンマーを同じ標的に振り上げる。
今度は当たるだろうと確信していたが、ハンマーはまた直前で違う方向にからぶってしまい、宙を切った。
「ちょっと! 何をしているの?!」
「分かんねえんだよ! 俺の武器が勝手にこいつを避けるんだ!」
女も男も何が起こっているのか全く分からず、混乱していた。
その光景をずっと見ていた龍助は彼らに同情する。
「だから、当たらないんだって。君たちの攻撃は」
京が呆れ混じりにそう言ったが、女も男も納得していないようだ。
男に関しては悔しそうに京を睨んでいる。
「くそ、くそがああ! せっかく強くなったんだ! 負けられない」
男が大声を出したのと同時にその周りから強い力が溢れ出て来た。
それはとても大きく、おぞましいものを含んでいる。
力が溢れ出た影響で近くにいた女を後方へ吹き飛ばし、彼女を気絶させてしまった。
このおぞましい力の感覚に龍助は身に覚えがあった。
(暴走だ……。俺と同じ)
男の力は徐々に強くなっていく。
「こいつ、長い間こんな力を無理やり持たされてたのか」
京の言葉に先程の予想を思い出した龍助は一つの答えに辿り着いた。
それは、とても残酷な事実だ。
「京さん。もしかしてあの人は……」
「ああ、元一般人だね」
龍助の質問にはっきりと断言した京。
京の言葉通り、今目の前にいる男は元々は一般人だ。
何かしらの方法で連れてこられ、儀式を行った後に強い力を持った力者になったのだ。
これが少なくとも二ヶ月以上続いたというのだ。
京の見解では、修行もせずに慣れもしない強い力を長い間持ち続け、負けたくないという強い気持ちによって暴走へと至ってしまったらしい。
「今一時的に無しにするしかない」
京がそう言って、瞳に男を映そうとした時だった。
「そこまでだよ。侵入者達」
その言葉と共に龍助達と真反対の出入口から現れたのは黒いコートを着た男だった。
今の季節には合わない服装だ。
その背後には多数の銃を持った黒服の集団を引き連れている。
そして更には龍助達の後ろからも同じ黒服達が入って来た。
「囲まれた!」
かなりの大ピンチに陥ってしまった龍助達。
「お前が幹部だな?」
「そうだとも。私は前川史郎。ここの幹部ですよ」
悠長に自己紹介をした史郎を見て、龍助はいかにも胡散臭そうな人間だなと思った。
緑色の髪が片目を隠しており、ずっとニヤニヤと笑っている。
「邪魔をしないでくれるか? 今非常事態なんだよ」
「そちらこそ、我々の計画を邪魔しないでくれ」
京が珍しく敵意剥き出しで史郎に言葉を投げかけたが、相手は嘲笑うだけだった。
その間、暴走している男は、苦痛に顔を歪めて唸っている。
「うるさいねぇ。少し黙っといてくれ」
そう言って史郎は指先から光る光線を男に放った。
男をめがけていたので、誰しも当たると思われたが、直前で角度を変えながら近くの瓦礫へと飛んで行った。
恐らく京が的の力で標的を変えさせたのだろう。
光線を受けた瓦礫に関しては泥のように溶けていた。
(あれを男に食らわせる気だったのか?)
龍助は史郎のしようとしたことが分かって、怒りで拳を握りしめてしまう。
今にも殴りかかりそうなくらい。
しかし、龍助の気持ちを感じ取ったのか、史郎は不気味に笑っていた。




