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宿命の力者  作者: セイカ
第一部 一章 開花編
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二十五話 作戦実行

 今現在、龍助達は京が作り出した異空間の中で身を潜めている。叶夜以外。


「じゃあ叶夜。頼んだ」


 京が電話越しにお願いすると、それに快く承諾した叶夜。


 今彼女は先程龍助達が逃げ込んだ部屋の真ん中で一人佇んでいる。


 龍助はこの作戦に少し不満はあったが、今の状況を考えると仕方がないとも感じていた。

 しばらく静寂があったが、すぐに幾つかの足音によってかき消された。


 恐らく先程の仲間が龍助達を拘束するために追ってきたのだろう。


 ドアの窓から一人が中を覗き、警戒心をむき出しにしているようだが、ドアを開ける時は思い切りが良かった。


 勢いよくドアが開いたのと同時に何人か入ってきた。

 手には棍棒、ナイフさらには銃を持っており、全員で叶夜を囲った。


「おい、お前はここで何をしている?」

「私、迷ってしまいまして……」


 部屋の中に入ってきたのは五人だった。

 他にも仲間がいるのではないかと龍助は思ったが、それ以上の人がくる気配がなかった。

 おそらく手分けして探しているのだろう。


 リーダーだと思われる男が叶夜に語りかけてきて、それに対して叶夜は、分かりやすい嘘で返した。


「嘘をつくな!」


 当たり前だが、あっさりと嘘だとバレるが、叶夜に慌てた様子はなかった。


「お前達が侵入者なのは分かってるんだよ」


 ずっと様子を見ていた龍助はハラハラとしていたが、京からは心配している様子がない。

 それは颯斗も同じ。


「まあいい。ここで一人確保だ」


 男が手を挙げると、部下の一人が叶夜に襲って来た。龍助が焦って助けようとしたその時、


「ぎゃあああ!!」


 襲って来た敵の体が発火して燃えてしまう。

 しかし、燃えたのはほんの一瞬で、すぐに消火した。

 ダメージは火傷程度で済んだ。

 それでも大ダメージなので、敵の部下は叶夜の前で倒れてしまった。


「な、なんだ?!」


 リーダーが驚きをそのまま口にした。


「あなたはTBBの幹部?」

「ひっ……!」


 叶夜の問いかけに分かりやすく怯えてしまっているリーダーだが、すぐに首を横に振る。


「そうですか。では少し眠ってもらいます」

「はっ……?」

「あなた達は利用されているだけだけど、犯罪に手を出してるからね」


 敵達は、叶夜を化け物でも見るかのように後ずさりして逃げようとしていたが、彼らの真上に発動式が現れ、そこから溢れた光に照らされる。

 すると、叶夜を除く部屋にいた者たち全員が倒れてしまう。


 それを終始見ていた龍助は倒れた敵を心配するが、京から、眠っているだけだと教えられて心底ホッとした。


 しかし作戦はここからが本番となる。


 叶夜が敵たちを眠らせた後、足下に一つの大きく広い発動式を展開する。

 部屋の床全体を覆った発動式はやがて赤く光だし、そこを中心に燃えだした。


「よし、叶夜そのまま火を大きくしていって」

「これ、してること放火魔だよね……」

「細かいことは言わない」


 異空間から出てきた京の指示通りに火を広げていく叶夜。

 その後ろで同じ所から出てきた龍助が呟いたが、一言でかき消された。


 これは作戦というより、ほぼけに近い。


 作戦は叶夜の魔法で施設内に混乱を招かせるというものだ。

 そうすることでTBBの幹部を誘い出す、あるいは外に敵をまとめることができ、施設にいるほとんどの人を追い出すことができるという。


 火災を知らせるサイレンが施設中に鳴り響き、狙い通り、多数の人が急いで消火活動をしにきた。


 ちなみにさきほど眠らせた敵は京達が出てきた異空間の中へ閉じ込めた。


「おい! 急いで火を消すんだ!」


 一人の男が大声で指示していくが、なかなか火を消せない。

 それもそのはず、魔法には魔法で消さないといけないので、彼らが持ってきた消火器では意味がないのだ。


「ダメだ! 全員外へ避難しろ!!」


 これも狙い通り、消せないと察した人達から次々と逃げていく。

 火は止まることを知らず、どんどんその炎を大きくしていく。

 次第に施設全体を飲み込むほどに。


「よし、じゃあ、火を止めて例の部屋へ行くよ」


 そう言った京は叶夜に火を止めるように指示を出す。

 指示を受けた叶夜が今度は手のひらから発動式を出現させ、そこから出された光によって火は消えていく。


 施設を飲み込むほど燃え上がっていた火が一瞬で消えたことに龍助は驚きを隠せなかった。


 そして、京が施設から脱出した者たちが入って来ないように結界を張った。

 更には念には念をと魔眼を発動させると、自分含む龍助達の気配を消した。


 部屋を出る京の後に龍助達三人も続く。


 今の現在地は広間のすぐ近くだったので五分も掛からなかった。

 扉は閉めっぱなしのままで、まるで外の世界から遮断されているかのようだ。


「よし、じゃあ入るか」


 龍助の気持ちを聞かず、京は迷いなく扉を開く。

 もう少しこちらの心の準備を気にしてほしいと思ったが、そうは言っていられないようだ。


 扉はびていたのか、耳を塞ぎたくなるくらいの鈍い音を響かせて龍助達の耳に攻撃してきた。


「誰だ?」


 扉を開けた先にいたのは、大柄な男と隣には正反対なくらい華奢な女が立っていた。

 どちらも真っ黒な服をまとっている。


「いや〜。別に怪しいものじゃないよ」

「しらばっくれるな! お前らだな? 例の侵入者は」


 京があからさまに怪しい態度で接したが、男はそれが気に入らなかったのか少し苛立った声音で問いかける。


「うーーん。誤解しているようだけど、俺は迷い込んだんだ。侵入者ではないよ」

「そうなのか?」

「そんなわけないでしょ?! こいつらは侵入者よ!」


 男は京の言葉にあっさりと納得しかけるが、彼の隣から華奢な女がはっきりと断言した。

 男と女が並ぶとまるで巨人と小人のよう。


「やっぱり侵入者か!」


 男はそう言い切ったが、その場にいた全員が「こいつバカだ」と察した。

 それに比べれば女の方はかなり冷静な雰囲気をまとっている。


「何が目的なの?」


 女が軽く咳払いをして京に質問する。


「これ以上偽るのも見苦しいか。目的も何も、俺達はこの儀式を止めにきたんだよ」


 それに対して、問われた本人はこれ以上の小芝居は無意味と判断したのかあっさりと目的を話してしまった。


「この素晴らしい儀式をとりやめろって言うの?」

「そうだよ」


 女の追加の質問に短く返事をした京。

 その質問に対して明らかにおかしいこの儀式の何が素晴らしいのか龍助は理解に苦しんだ。


「この儀式をやめるわけにはいかないな!」


 男がニヤッと不気味に笑いながら手をかざすと、その掌から一つの光の玉が現れた。かと思えば、細く伸びていき、あるものを形取っている。


(あれは、ハンマー?)


 龍助がその形の正体が分かったのと同時に、細長い光が消え、大きなハンマーが姿を現した。

 男はハンマーを手馴れたかのように振り回している。


「今のは何だ?」

「あれは……」

「なるほど。君は武器と『体隠たいいん』の使い手だね?」


 また初めて見た光景に龍助は思わず叶夜達に聞いてしまう。

 叶夜が説明しようとしたが、タイミングよく京がその答えを口にした。

 まるで龍助の質問を分かっていたかのようだ。


「体隠って何?」

「主に魔具使いという、簡単に言えば魔具を使う力者が使っているの。文字通り体の中に隠す術なんだけど」


 改めて叶夜に聞くと彼女は丁寧に教えてくれた。

 体隠は魔具などの道具を使う力者が自身の体の中に小さな異空間を作って、そこに隠し持つというものらしい。


「まぐ? たいいん? 何を言っているんだお前達は」


 しかし、龍助だけでなく、男もそれを知らなかった様子だ。

 まさかの言葉に龍助と一緒にいる叶夜と颯斗、更には京もが驚きを隠せていなかった。

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