二十四話 度重なる不幸
龍助達は現在、施設の入り口がある南側に回っていた。
京を先頭に儀式が行われている場所へと向かうのだ。
勿論、無名の魔眼で四人の気配と姿を消しながら。
入り口に入った後、一階の廊下を進んでいく。
時々、見回りの者たちに遭遇しそうになったが、存在を消しているため出会ったとしても何事もなく進めた。
進んでいくと徐々に近づいたのか、先ほどの心鏡で聞いた不気味な声がはっきりと聞こえてきた。
「何回聞いても不気味だな……」
龍助が声に対してそんな印象を持った。
「この感じからしてかなりすすんでいるね」
京は、感覚だけで儀式を行なっている者達の状態がわかっているようだ。
声のする方へ進んでいくと、先ほどの祝詞の言葉が聞こえ、もう例の扉が視界に入ってきたその時。
京が立ち止まり、龍助達にも止まるように合図する。
「京さん? どうしたの?」
「力者が来た…… 。しかもよりにもよって探すことに特化しているやつだな」
叶夜の質問に小声で京が答える。その答えに龍助は疑問に思ってしまう。
今自分たちの存在は消えている訳だから見つからないのではと。
そのことを伝える前に龍助の考えを読み取った京が答える。
「今近くにいる力者は例え力で隠していても見つけることが出来るやつなんだよ」
聞けば、今近づいてきている力者は、京が見た限り、力で隠している存在をも見つけ出してしまう厄介な存在らしい。
「え、京さんの魔眼なら消せるんじゃ……」
「今消せば、消された本人に気づかれてしまう。その後にもっと厄介なのを連れてこられるかもしれない」
京の魔眼はありとあらゆるものを無かったことに出来るが、消したことは対象にも実感を与えてしまうらしい。
そうすれば、その感覚に気づいた力者が仲間に報告し、また厄介な敵を呼び出されてしまうという。
「失敗した……。もっと警戒が必要だったな。まさか力を無視できるやつがいるなんて」
魔眼で消しているのはあくまで気配と姿のみ。
その存在自体が消えたわけではないので、下手をすれば数秒で見つかってしまう。
「どうするの?」
「かくなる上は、あいつの意識を消すしかない」
叶夜の質問に平然と答えた京。
その回答に恐ろしさを感じる龍助だが、ただ、気絶してもらうだけだというので、少し安心した。
なにより、今の状況を乗り越えるためにはそうするしかない。
「じゃあ早速お願いします」
京の作戦に颯斗は当たり前だというように賛成した。龍助と叶夜も渋々賛成する。
意見が一致したことを確認した京が今自分含む龍助たちにかけていた力を解除した。
一度に魔眼の対象を増やすのは神経に負荷がかかってしまうからだ。
解除の後に次の対象を見つめる。
そして、京が魔眼を発動しようとしたその時、突然龍助の鼻の中に何かが侵入してきた。
「ハッ、クションっ!!」
「誰だ!?」
なんと予想外に盛大なくしゃみをしてしまった龍助。
くしゃみによって龍助達の存在に気付いた近くの見回りの警備が複数人近づいて来た。
「叶夜!」
京に呼ばれた叶夜がすかさず自身の体全体を眩い光で覆った。その光によって警備達が目を隠して動けない状態になる。
龍助達の方には光が届いていなかったので、目を隠す必要がなかった。
おそらく、叶夜が相手を選んで発光させているようだ。
「今だ!」
京がまだ警備が来ていない経路から逃げるように指示をし、奥側へと避難させた。
奥には複数の部屋があったため、その中の一つに四人とも入った。
その直後、施設中に非常ベルのような音が鳴り響いた。
先ほどの見回り達が警報を流したのだろう。
「ごめん……。俺のせいで見つかってしまって……」
龍助は壁にもたれかかれながら三人に謝罪をした。
先ほど意気込んだばかりとは思えないほどあからさまに落ち込んでしまった。
「いや、埃とかが凄かったから仕方がないよ。それにこれは俺の注意不足だし」
落ち込んでいる龍助の肩に手を置きながら軽い口調で龍助を慰めた京。
どうやら先程の場所は埃が大量に舞っていたので、それが龍助の鼻に災いを起こしたようだ。
その言葉は嬉しかったが、余計に申し訳なく感じてしまう。
「もう、ここからよ!」
落ち込んでいる龍助の背中を叩きながら叶夜が喝を入れた。
喝を入れてもらった龍助は切り替えるのはまだ難しいが、とりあえず、今後の行動を考えることにした。
(本当に光のような子だな)
叶夜を見つめながら龍助はそんなことを考えた。
こういうところでも彼女には光の力があるなと。
「ところでこれからどうします?」
叶夜達の様子を見ていた颯斗が今後の予定を京に聞いた。
京は顎に手を当てながら、少し考え込んでいる。
「少なくとも奴らがここに来るまで約十分弱の猶予はある。この間にちょっと確かめたいことがあるんだ」
なぜ猶予の時間までわかるのか龍助は気になったが、特に異論はなかった。
それは叶夜たちも同じだった。
「じゃあ、早速」
そう言いながら京がその場にしゃがみ込み、地面に片手を置く。
そして瞳を青く光らせると、ずっと耳障りな程うるさかった警報の音が鳴り止む。
「ああ。やっぱりか」
何かに納得している京。三人はその意味が分からなかった。
「一部の人間は俺の力から免れたようだね」
「一部?」
一部の範囲がどれくらいで、そもそも京は何をしたのか全く分かっていない龍助。
その様子を見た京が少し鼻根を揉みながら説明をする。
「俺の魔眼で見つかった事実を無しにしようとしたんだけど、ここの結界に邪魔されたんだ」
サラッととんでもないことをしようとした京だが、それをこの施設を囲んでいる結界に邪魔をされ、一部の力者には届かなかったのだという。
「え? そんなことができるの?」
「出来るからしてみたんだよ。でもどの道失敗だけど」
龍助の純粋な疑問に京は肩を落としながら受けごたえした。
「話してるところ悪いんだけど、ここの結界って隠すだけじゃないの?」
「この結界自体が目の力を弱らせる効果があるんだよ」
二人の会話に申し訳なさそうに割って入ってきた叶夜は京の魔眼の効果を弱らせるほどの結界の力に驚いていた。
目の力とはまさに今現在進行形で使っている何か見る力のことだ。
魔眼も決して例外ではなく、その力を激減させてしまうと京は分析していた。
この施設に入る前に姿が見えなかった本当の理由がその力だということだ。
「じゃ、じゃあこれからどうするの?」
龍助の質問にすぐに答えず、考え込んでいる京。
時間がもうないということに焦りが出てきてしまう、そんな龍助の気持ちとは裏腹に京が何か思いついたように手を打った。
「それじゃ、君たちにも手伝ってもらうよ」
こんな形で龍助達に手伝わせるのは予定外だったようだが、自分たちがこれから重要な役割を担うことになるのは間違いないと龍助はその場で確信した。




