第九話 空手部の習わし
日月競技対抗戦まで一時的にだが、空手部に入ることにした龍助。
今は制服から貸し出された道着に身を包んでいた。
「龍助似合うね」
「そうか?」
「本当に似合ってるよ!」
「ありがとう」
叶夜と舞日に道着姿を褒められて、少しむず痒い感覚を感じる龍助。
「お! 龍助が照れてる!」
「照れてねえよ」
智彦にからかいをも軽く受け流した龍助が顧問の元へと近づく。
叶夜達は応援のためにいてくれるらしい。これに関しては顧問である寺本先生に許可済みだった。
「良いんですか? アイツらもいて」
「応援は多い方が良いさ」
練習の邪魔にさえならなければ居てもいいという寛大な心遣いに驚いた龍助。
こういうところは関係者以外は追い出すイメージが強かったからだ。
(こういう考えが偏見って言うのかもな)
一人で決めつけていたことを反省した龍助は気を取り直して空手部の練習に加わることにした。
空手の練習の前に準備運動をして、すぐに他の部員達と合流する。
寺本先生が部員全員を集めて、龍助を自身の隣に立たせ、部員に注目させた。
「もう知っていると思うが、今日から日月競技対抗戦に向けて一緒に練習することになった天地龍助だ。一時だが、皆協力していこう」
それだけ言って寺本先生が龍助に自己紹介をするように促してきた。
空手部の部員も少なくないため、かなり緊張したが、密かに深呼吸して部員達をまっすぐに見つめる。
「短い間ですが、しっかり頑張って練習したいと思います。よろしくお願いします」
龍助が一言簡単に自己紹介を終えたのと同時に部員達から拍手が送られてきた。
一応歓迎はされているようなので、とりあえず自己紹介は成功と見ていいだろう。
「じゃあとりあえず、天地には早速だが、今の実力を見せてもらう」
「……え?」
寺本先生の突然の話に龍助は一瞬思考が停止してしまった。
部員達は楽しそうに笑顔で盛り上がっている。
「な、なんで突然……」
「この部ではまずその人物の実力を見て練習内容を考えたりするんだよ」
龍助の質問に寺本先生は当たり前だというようにズバッとはっきり言った。
どうやらまず入ったら今の実力を見せたりするのがここの空手部の習わしらしい。
なのでこれ以上言っても仕方がないし、逃れられないと察した龍助は観念してそれに従うことにする。
「何をするんですか?」
「簡単だ。この部の主将と組手をしてもらう」
「空手部の主将とですか?」
「そうだ。組手を通じて天地の得意なことや不得意なことを見極めるんだよ」
部員全員が組手を見て、新人の伸ばすべきところと改善すべきところ顧問に報告して、その人に合った練習メニューなどを作成するらしい。
(つまりは、試験みたいなものか?)
龍助がそんな憶測を立てつつ空手部の習わしに乗ることにした。
「決心はしたみたいだな。じゃあ奥田。相手しろ」
「押忍!」
寺本先生の呼び掛けに返事して前に出てきたのは龍助より数センチ身長が高く、ガタイのいい部員だった。
鍛え上げられた肉体が道着越しでも十分に分かる。
「実力を図るといっても手加減はしないぞ」
「望むところです」
奥田という部員はもう手加減するつもりはなく、本気で組手をする気だ。それが十分龍助に伝わった。
相手が本気なら、自身も本気で臨むのが礼儀だと思った龍助は誠心誠意で組手しようと決心する。
龍助の本気も相手に伝わったのか、奥田がフッと笑みを浮かべた。
「良い勢いだな。これは良い勝負になるぞ」
いつの間にか寺本先生も楽しそうにニヤニヤ笑っている。
部員達もこれから良い試合を見れるという期待の眼差しで龍助達を見ていた。
龍助自身も密かにこの手合わせが楽しくなりそうだと心の底から期待していたのだった。




