第八話 月桜高校空手部
日月競技対抗戦に向けて、沢山の部活から勧誘を受けた龍助は、最終的には空手部として大会に参加することを決めた。
空手部以外の部活を断るにあたって、叶夜と舞日、そして響也と智彦にも手伝ってもらうことになった。
手分けして断ったことで、予定よりも大分早く終わった。
今は空手部が練習している道場へと向かっている最中だ。
「皆ありがとな。おかげで助かった」
「良いのよ。どうせ暇だったし」
「でも断った部活、皆共通して悔しそうにしてたな」
「まあ龍助を取られたから仕方ないだろ」
叶夜達曰く、断った部活は皆悔しそうにしていたらしい。
「叶夜達のおかげで、大変な目に遭ったよ」
「ごめんごめん! あの時はああ言うのが一番だと思って……」
元はと言えばあのフェイク動画が原因だったが、偽物で終わらせられるはずが、叶夜達の発言でまた勧誘の火がついたのだ。
そう考えたら手伝ってくれるのも道理のように龍助は思い始めてきた。
おそらくだが、二人ともあの発言に責任を感じて手伝いを申し出てくれたのかもしれない。
「そろそろ空手部がある道場に着くわね」
「にしてもうちの高校は空手部とか剣道部専用の道場があるってすごいよな」
智彦の言う通り、今の時代の高校の大半は敷地面積が広いだけでなく、それぞれの部活専用の練習場所を設けている。
昔は学校内で練習場所を取り合う部活もあったそうだ。
「あ、ここだな。空手部って書いてある」
「そこそこの大きさだな」
道場の大きさは一つの体育館の半分ほどだった。
中に入ろうと入口に近づいたが、ドアがもう全開にされていて中の様子がよく見える。
中を覗いてみると、道着を着た生徒達が十数人いるのが見える。帯の色は皆それぞれでバラバラだった。
そんな彼らは今、組手の練習をしているようだ。
組手は簡単に言えば、実戦を想定して相手と技を出し合ってポイントを競うものだ。
今も実際に相手へ拳や蹴りを繰り出し合ったり、それをガードしたりと見ていてハラハラするほどの光景だった。
「もっとしっかり突けよ」
「押忍!」
「蹴りが甘い! 勢いよく蹴れ!」
「押忍!」
空手部の顧問だと思われる男性二人が空手部の生徒達を指導している。
指導されている生徒達は武道特有の返事で応えていく。
「すみません」
龍助が呼びかけるも、空手部の声の方が圧倒的に大きいので声をかき消されてしまう。
「すみません!」
龍助がもう一度大きな声で呼びかけると、近くにいた空手部の一人である男子が駆け寄ってきてくれた。
「どうしました?」
「あの。天地ですけど、日月競技対抗戦のことで話しに来ました」
「ああ! 天地さんですか! 少々お待ちください」
龍助が名乗ると、男子は驚きながらもすぐに顧問の方へ走って行ってくれた。
男子が顧問に声をかけて報告してくれたようで、顧問の男性教師が龍助たちの方へ振り向く。
そしてもう一人の男性に声をかけてこちらへ走って来る。
「やあ、天地! よく来てくれたな」
「昨日の見学はありがとうございました」
「いやいや。こちらこそだ。で、どうするんだ?」
「今回こっちの空手部で参加しようかと」
龍助の話を聞いて、顧問は僅かに笑ったが、すぐに表情を引き締め直す。
「入ってくれるのは有難い。だが、スカウトされたからといって必ず試合に出れる訳じゃないぞ?」
「分かっています。存分に審査してください」
いくら龍助が空手部の人間にスカウトされたとは言え、必ず大会に出られるわけではない。
まだ実力がきちんと分かっていないのに、出すのはある意味危ないからだ。
それに、何より龍助より長く必死に頑張っている現部員達が納得できないだろう。それは龍助にもよく分かっていた。
「よし! 分かった! それなら君を歓迎しよう」
龍助の覚悟を聞いて、顧問は満足そうに頷いていた。
これから一時的にだが、空手部の一員として頑張らないといけないという実感をこの時の龍助は痛いほど感じていた。




