第二話 ハーレム停止
学校で叶夜と舞日のアプローチを受けたことによって学校中で噂になってしまった龍助。
その噂を知った日から数日後、龍助の学校生活がガラッと変わってしまう。
この日もいつも通りに登校してきたつもりだが、学校に入った瞬間に周りの生徒から視線を向けられていた。
興味や妬みという名の視線は平穏を望む龍助からしたら精神を傷つける刃同然だった。
(ほとぼり冷めるまでの我慢だ……!)
傷つく精神に目を瞑り、自分に言い聞かせながら視線をスルーしていく。
視線の雨を浴びながらやっとの思いで教室にたどり着いた龍助。
しかし教室でも一部の生徒からジロジロ見られてしまう始末に、思わずため息を吐いてしまう。
「おはよう龍助」
「おはよう!」
「ああ……。おはよう」
自身の席に着いて、少しだけ休憩していると、響也と智彦が挨拶してきてくれた。
龍助も挨拶をするも、いつもの元気さはなく、力のない声でしか返せないでいる。
「だ、大丈夫か?」
「大丈夫……とは言えないな……」
「まあ、あの噂のせいだよな」
智彦が龍助の心配をし、響也が心中を察していた。
「うん……。どうしたものかな」
「二人に一回話すしかなくないか?」
龍助のボヤキに響也が真面目に答えてくれた。
彼曰く、叶夜と舞日に話をして、アプローチを控えてもらおうという話だ。
「なるほど。やっぱり一回話してみるのもいいな」
「俺達もお前のこと聞かれたらちゃんと答えとくよ。何もないって」
「おう。ありがとう」
響也の心強い言葉に龍助は感謝しか出来なかった。
こうしてとりあえず、タイミングを見計らって二人に話をしようと決心したのだ。
◇◆◇
朝から数時間が経って、昼休憩に龍助は叶夜と舞日を連れて誰もいない空き教室へとやってきていた。
「どうしたの? 急に話なんて」
「もう分かってるだろ?」
冗談っぽく言ってきた舞日に呆れつつ、龍助が指摘をする。
叶夜に関しては勘づいているようで、龍助の顔を見ようとしない。
「単刀直入に言うけど、アプローチを辞めてくれないか?」
「やっぱりそうよね……。少しやり過ぎたかなと思ってたの」
「私はまだ抑えてるつもりだけど?」
龍助の言葉に叶夜は反省の色を見せているが、舞日はその反対で、まだアプローチし足りないというのだ。
昨日の時点で昼食時間外でも必要以上にひっついてきたのにだ。
(あれで抑えてるのかよ……)
舞日の発言に驚きのあまり、思わず黙ってしまう龍助。
叶夜はというと、舞日のアプローチを見て、謎に対抗心が芽生えて負けじと自身も行動に移してしまったらしい。
叶夜も叶夜で結構腕に抱きついたりもしていたことを思い出す龍助。
「まあでも、龍助君が苦労するのは私も嫌だから、これからは気をつけるわ」
「あ、ありがとう……」
龍助が昨日のことを思い出していると舞日が突然予想外の発言をする。
先程の言葉から一転したその発言に、龍助自身も一瞬動揺してしまうが、何とか言葉をひねり出して返答した。
舞日は舞日で話の分かる人物だということにホッと胸を撫で下ろす。
「噂に惑わされている人達を能力で目を覚まさせる?」
「そんなこと出来んの?」
「一応ね。ただ相手の心に干渉しないとだけど……」
「よしやめとこうか!」
舞日の提案に一時賛成しそうになった龍助だが、やり方があまり良くないと察したので、即却下した。
叶夜もそれに関してはあまり良くないと反対をしている様子だ。
「私たちも聞かれたら適当に誤魔化しておくわ」
「そうね。その方が良いね」
「ああ。頼んだ」
叶夜の提案が一番無難だと思った龍助は二人にそうするようにお願いした。
これで噂に関しては特に心配することは無くなった。
まだ時間はかかるだろうが、その内消えてくれることを心から祈る。
「じゃあ戻るか」
「そうしましょ。昼食食べる時間がなくなるわ」
「アプローチはしないけど、一緒に食べてもいい?」
「それは良いよ」
龍助の言葉に舞日が嬉しそうに笑っていた。それは叶夜も同じのようで、先程よりにこやかな表情をしている。
これはこれでのんびりした場面だなと和やかになるが、この後、その和やかな時間が消え去ることになるとはこの時の龍助はまだ知る由もなかった。




