エピローグ
七月二十日。本格的な夏になり始め、誰しもがその暑さを鬱陶しく感じてきている日。
龍助はいつものように叶夜と登校をしていた。
「今日も暑いね……」
「ほんとだな。まあでも、俺は今悩みから解放されてるから」
「悩みって……もしかして舞日さんのこと?」
「そうだ」
龍助は昨日の出来事を叶夜に全て話した。
自分たちが付き合っていた事は嘘だったことを話したが、舞日にチャンスが欲しいと頼まれ、考えた末に彼女を知ってみようと考えたこと。
叶夜は黙って聞いていたが、龍助が全て話し終えると、彼女は暗い表情をしていた。
「叶夜? どうした?」
「そうだよね。嘘は良くなかったよね」
「? 付き合ってるって話か?」
「そうだね。だから私も正直に話すわ」
「何を……?」
龍助が聞き、叶夜が意を決して、彼に向き合いながら話出そうとした時だった。
「龍助くん、叶夜さん! おはよう!」
「あ、ああ木闇さん。おはよう」
「……おはよう」
いつの間にか二人の近くに舞日の姿があり、彼らに挨拶をしてきた。
龍助も叶夜も今まで苗字で呼ばれていたため、下の名前で話しかけられたことに驚いている。
「龍助くん。昨日の話考えてくれた?」
「ああ。そのことなんだけど……」
「その前に舞日さん」
舞日の質問に答えようとした龍助の言葉を遮るように叶夜が話し出す。
「どうしたの?」
「悪いけど、龍助を易々と渡す訳にはいかないわ」
「あら? 二人が付き合ってたのは嘘でしょ?」
「そうよ。でもね、私も龍助のことが好きなことが本当だとしたら?」
「……」
叶夜の突然の告白に舞日は黙り込んでしまう。
しかしこの告白に一番驚いているのは龍助本人だった。
(……え? 叶夜が? 俺の事を……?)
まだ現実にいる感覚が戻らず、混乱している龍助を置いて、黙っていた舞日が口を開く。
「そうだろうと思ってたわ。でも、私は諦めないわ」
「そう。じゃあ、これからはライバルね」
「そのようね。負けないわよ」
自分たちの世界に入り込んでいる二人を前に、龍助は突っ立っていることしか出来なかった。
「龍助。これから私たちはあなたを取り合うライバルだから、よろしくね」
「絶対に振り向かせてみせるからね」
「……」
「「返事は?!」」
「はい!」
息の合った二人の圧に押されて龍助から素っ頓狂な返事が出てくる。
その返事に叶夜と舞日は満足そうに頷いて、歩き出していく。
(いや……。俺の話は聞かねえの……?)
勢いよく歩いていく二人を背後から見つめる龍助。
自分が話そうとしていたことをすっかり忘れてしまっていることに対して思うところはあるが、二人が活き活きしているのを見てると、そんなことはどうでも良くなってきた。
(まあでも。良い機会だし、二人のことをもっと知ろうかな)
叶夜達を見つめながら、龍助はそんな志しを持って後を追うのだった。




