第三十八話 悩んだ末に
舞日との話を終えた後、龍助は施設に帰ってきてからずっと頭を抱えていた。
好きな人がいるのに別の女子にチャンスなど与えても良いのかと。
今の時間は夕食の時間だが、龍助は自身の部屋で考え込んでいた。
(でも確かに叶夜以外の女子と話さないと分からないよな……)
龍助は自分の今までを振り返ってみて、施設以外の女子とまともに話し、仲良くなったのは叶夜ぐらいしかいない。
だから恋かどうかが分かっていないのかもしれないのだ。
龍助が悩んでいると、ドアからノックが聞こえてきた。
「兄さん。入っても良いですか?」
「おー。いいぞ」
龍助が許可した後にドアがゆっくりと開き、入ってきたのは穂春であった。
おそらく彼女は龍助が部屋に引きこもっていることを心配してやって来たのだろう。
「兄さん。ずっと部屋に引きこもってどうされたのですか?」
「まあちょっと考え事だ」
「よろしければ、私に話してくれませんか?」
「……まあお前になら良いか」
穂春につめられて一瞬悩んだが、同じ女子の意見を聞きたいので、渋々話すことにした。
舞日に告白されたが、自分は叶夜のことが好きなこと。それでも諦めたくないことと、チャンスが欲しいと言われたこと。
どうすれば良いのか分からなくて悩んでいたことをさらけ出した。
全て出したおかげか、龍助の気分が少し軽くなっていた。
「なるほど。なかなかしぶとい人に好かれましたね」
「まあな……。どうすれば良いかな?」
「兄さんはどうしたいのですか?」
「俺は……」
穂春の質問に龍助は言葉を詰まらせてしまう。
なぜならそれが分からなくて悩んでいたわけなのだから。
「私は、分からないなら一度冒険してみるのも良いと思いますよ」
「冒険?」
「はい。色々と経験して決めるのも良いということです」
穂春曰く、経験していないことに対して考えても答えは見つからないという。
だから一度他のことにも目を向けて経験してから答えを出しても良いらしい。
その話は一理あるなと思う龍助だが、一つ引っかかることがある。
「でも、それで手遅れになることってないか? 例えば、俺が木闇さんではなく、叶夜を選んだ時にはもう他の人と結ばれてたりとか」
そう。龍助が心配しているのは自身の気持ちが変わっていないと答えを出した時、叶夜が別の人物と幸せになっていたらというものだった。
「それはもうはっきりと諦めるしかないと思います。縁がなかったと」
「結構雑じゃねえか?」
「こればっかりは他人の気持ちもありますから、仕方ないのです。一番良いのは兄さんがきちんと自分の気持ちを分かって、決断をすることですけどね」
穂春の言葉に龍助はぐうの音も出なかった。
確かに経験が無くて分からないにしても、自分の気持ちをしっかり理解して決断出来るようにしないと、何事も中途半端で終わってしまう。
龍助はしばらく考え込んでいたが、自分の気持ち、あるいは考えをまとめられたのか、何かを決心した。
「とりあえず、木闇さんという人を見てみるよ」
「そうですね。まずはその人を知ってみるのも良いと思いますよ」
龍助の考えに穂春も賛同した。
結局、まだ分からない人物のことを考えても仕方がないので、まずは木闇舞日という人間を知るところから始めることにしたのだ。
「まあ、叶夜さんに関してはそんなすぐに諦めることにはならないかもですよ?」
「どういうこと?」
「それは私が言うことではありません」
ここまで言ってはぶらかされた龍助は不服な気持ちになったが、大元の悩みに対して答えは出せたから良しとしようと思ったのだった。




