第三十七話 舞日との話
友人二人にアドバイスを受け取った龍助は舞日と話すタイミングを伺っていた。
しかし彼女のクラスへ行ってみても、タイミング悪く居なかったり、見かけてもすぐに姿を消して見失ってしまう。
(どうしたものかな……。なかなか捕まえられない)
何とか話すチャンスを見計らっていてもなかなかタイミングが合わず、龍助は中庭の渡り廊下で途方に暮れていた。
またクラスへ赴くか、いっその事呼び出すか、策を練ってみる。
しかし呼び出しも断られる可能性もあるので、確実とは言えない。
「龍助? こんなところで何してるの?」
「叶夜……」
頭を抱えている龍助に偶然通りがかった叶夜が話しかけてきた。
おそらく今から昼休憩なので、昼食へ向かう途中だろう。
渡り廊下を渡り切ろうとした時に、ずっと悩んでいそうな龍助が心配になって話しかけてくれたようだ。
「さっきから何唸ってるの?」
「え、俺唸ってた?」
「ええ。結構分かりやすく」
「マジか……」
叶夜の指摘に龍助は恥ずかしくなってくる。
なぜなら渡り廊下を使う生徒や教師は沢山いるから、叶夜が来るまでずっと他の生徒達に見られていたと予想出来るからだ。
「まあ別に、唸ってるだけで変人扱いされることは無いだろうけど」
「だと良いけど……」
ただ唸っている人がいるだけで訝しげに見る人間はあまりいないと信じたいが、そうもいかないのが現実だ。
それはさておき、龍助は叶夜を見てすぐに聞きたいことを思い出した。
「そういえば叶夜。あの時木闇さんの告白の時、なんであんな嘘を?」
「何でってどういうこと?」
「いや、叶夜にしてはあまりにも突発的だし、ましてやお前の性格上あまり嘘は言わねえだろ?」
龍助が疑問に至った根拠を伝えると、叶夜は一瞬黙ってしまう。
「あの時は私もびっくりして、咄嗟に出たのよ」
「びっくりするなんて珍しいな。叶夜にしては」
「そうでもないわよ。それじゃあね」
龍助の指摘を苦し紛れに誤魔化す叶夜。
しばらく二人の間に沈黙が流れるが、すぐに叶夜がその場から離れて行ってしまう。
引き留めようとした龍助だが、ふと視界に入った腕時計を見ると、もう休憩時間が残り十五分しかなかった。
「やべっ! 俺も昼飯食わないと!」
舞日を探すことに必死で昼食のことをすっかり忘れてしまっていた。
慌てた龍助は午後の授業に間に合うことを祈りつつ、急いで教室へ戻って行く。
◇◆◇
舞日を探し回っていたが、なかなか見つけられなかった。
午後の授業も全て終わり、下校時間になったので、龍助は鞄を取ってそのまま教室を出ていく。
(結局見つけられなかったな……)
肩を落とす龍助は正門へと向かって行く。
次は明日に回すしかないと切り替えようとしたその時、向いた先に銀色の長髪を持ち、青いリボンをつけた少女が視界に映った。
(あれはっ……!)
すぐさま気づいた龍助は急いで少女の元へ駆け寄って呼び止める。
「木闇さん!」
「え……? 天地くん?」
その少女はやはり舞日だったが、振り返った彼女は眼鏡をかけていて一瞬人違いだと思った。
「ちょっとだけ、話出来ないかな?」
「それは……」
「今日じゃなくてもいいから!」
「……良いよ。じゃあ今からそこの喫茶店に行きましょうか」
一時断られそうになったが、龍助の押しに押されて渋々了承してくれた。
その事に少し安堵した龍助はすぐに舞日を連れて近くの喫茶店へと向かっていった。
喫茶店に到着した龍助達はソフトドリンクだけ頼んで話を始めることにした。
「ごめんな。突然引き止めて」
「良いわよ。昨日のことを話したいんでしょ?」
「気づいてたか……」
「昨日の今日だからね」
話の内容に勘づいていても逃げずに付き合ってくれたことに感謝する龍助。
「まず謝らせて欲しい。叶夜と付き合っているのは嘘なんだ。本当にごめん」
「そうだったんだ。まあ急に好きでもない子に告られたら嘘もつきたいよね」
「えっと……。それは……」
的確に言われた上に図星だったため、何も言えなくなってしまう。
「でも、好きな人がいるのは本当なんだ」
「光金さんでしょ?」
「……」
まさかまた好きな人を言い当てられた龍助は再び言葉を失った。
そんなに自分は分かりやすいのかと少し自分自身に呆れてしまう。
「そうだよ。俺は叶夜が好きなんだよ」
「そう。でも、まだ光金さんとしか女子と仲良くなったことがないからそう感じたんじゃない?」
「なるほど……?」
「だから、少しでもいいの。私にもチャンスが欲しいの」
「チャンス?」
舞日の言葉に龍助は思わず聞き返してしまう。
「ええ。実は私、こう見えてすぐに暗くなったりしてよく嫌われるの」
「そんな理由で……?」
「人って、面倒になったりしただけですぐに嫌うこともあるからね」
「でも、俺だってそうなるかもだけど?」
「龍助くんは、そんな理由で見捨てたりはしないって分かるわ」
「何で?」
「今までの経験と、女の勘よ」
龍助の質問に舞日はなんの迷いもなく答えた。
思わない回答に、龍助は呆気に取られていたが、舞日の目は真剣そのものだった。
「確かに私は面倒だと思うけど、少しでも希望は持ちたいの……」
つらつらと並べられる言葉に、龍助は頭を悩ませてしまった。
この場合、どうするのか正解なのかと。




