二十一話 いざ目的地へ
任務の話を聞き終えた龍助達は準備のためにそれぞれの部屋に戻ることになった。
十一時にはもう出発するので、その前に集合するようにと言われている。
まだ九時なので、すこし施設の中を探索したい龍助は叶夜達と別れた。
初めは叶夜が案内してくれると提案したが、それぞれの準備があるので、自分一人で探索することにした。
(まだ道わからないけど、少しなら大丈夫だよな)
そんな考えを持ちながら龍助はTPBの施設内を回っていく。
昨日紹介された食堂、緊急避難経路、あとは小さな広場など様々な場所を巡った。
色々見れて楽しいと感じていたが、それもつかの間となる。
道に迷ってしまったのだ。
一番最後に来た広場からいくら歩いても自分の部屋らしきものが見当たらない。
それどころか、人の気配すらなくなってしまう。
(ど、どうしよ……)
途方に暮れていた龍助がその場で佇んでいると、どこからか鈴の音が聞こえてくる。それも徐々に近づいてくる。
「な、なんだ?」
不安が募っていく龍助はとにかく音のする方へと足を向かわせた。
そこへ行くと待っていたのは行き止まりだ。
「……おいおい、音すら聞こえなくなったぞ。まさか、幽霊とかいるのか?」
行き止まりについた時点で鈴の音はなくなっていたので龍助はさらに困惑してしまい、お化けのことを考えだしてしまう。
思わず警棒を取り出そうとしたその時、自分の真後ろから鈴の音が聞こえてきた。
龍助は怯えつつ、後ろへと振り返る。
するとそこにいたのは病院で見たあのトラ猫だった。
「あれ? お前ここの飼い猫だったのか?」
龍助の質問に返事をするように「にゃあ」とだけ鳴き、その場から離れていく。
しかし、ある程度の距離まで歩くと龍助の方へと振り返る。
「もしかして、道案内してくれるのか?」
龍助が近づくと猫はまた離れていくが、度々龍助の方に振り向いてくれる。
その行動の意味が龍助には分からないが、とにかく猫の後を追った。
しばらく猫の後を追い続けたら、とある広場に出た。
TPBにやってきた時に入った出入口付近の広場だ。
「お、ここからなら道順が分かるぞ!」
見覚えのある場所にたどり着き、なんとか迷子から解放されたことに心底安堵した龍助は、道案内をしてくれた猫にお礼だけ言おうと探してみるが、すでに猫の姿はなくなっていた。
いくら探してもその姿は見当たらない。
「誰の飼い猫だろうな」
結局見つけることが出来なかったので、諦めて自分の部屋へと続く道のりを辿っていった。
◇◆◇
部屋で出かけるための準備をしていた龍助。と言ってもただ服を着替えてスマホと警棒を用意するだけだった。
部屋から集合場所である出入口の広場へ向かう途中、叶夜と颯斗と遭遇し、一緒に向かうことになった。
「龍助、大丈夫?」
「大丈夫。なんとか頑張るよ」
叶夜に心配されたが、龍助は不安よりもワクワク感が勝っていた。
たとえ、任務であろうと初めて体験することだからだ。
広場に着いた龍助達の前には椅子に座ってスマホをいじっている京がいた。
「お、来たね。それじゃ、行こうか」
龍助達の存在に気づいた京がスマホをポケットにしまいながら出口を指しながら先頭を歩き、三人もその後に続いてそのまま組織の外に出た。
やってきた道のりと逆方向に向かって歩いていく。
人通りがない細い裏道はなぜだか不気味さがあった。
「そういえば、力者って瞬間移動とかしないの? 京さんみたいに」
無理にでも気を紛らわせようと龍助が気になったことを口にした。
漫画やアニメで不思議な力を持った者たちは、一瞬で目的地に着く技術を持っていたと彼は記憶している。
その上、何度か京が一瞬で移動している場面を見ているので尚更だ。
「使えるけど、あまりすると、もしもの時が大変だからね」
「もしもの時?」
「まあそのうち分かるよ。それよりあと数分でバスが来るから急ごう」
龍助の疑問に一言で理由を語った京。
それは一体どのような時なのか龍助にはよく分からない。少なくとも今は。
雑談をして歩いていると、道を抜けてすぐ近くにあったバス停に到着し、少しの間待つことになった。
ここは町中だが、つい最近までは田舎だったようなのでバスの通りが少なく、一時間に二本ほどしかないらしい。
(不便だな……)
時間を調整しなくてはいけないということに龍助は不満を感じていた。
到着してから数分後にバスは停留所に止まり、それに乗り込んで目的地へと向かうことになった。
「ここから数時間かかるし、乗り換えもあるからそれだけ判っといてね。運賃は俺が出すから」
「数時間?!」
驚きのあまり目を見開いた龍助を見て叶夜は苦笑した。
「任務先が遠い場合それぐらいかかるのよ」
もう何回か経験している叶夜の目はもう諦めの域に達していた。
この時、時間の苦労は何事にも付き物なんだと龍助が観念した瞬間だった。




