第三十六話 困る龍助
七月十九日。舞日の告白から三日が経った。
彼女からの告白を断ってしまった龍助は今日から始まる学校へ行くのが憂鬱になっていた。
(どんな顔して会えば良いんだ?)
一人悶々《もんもん》と考えながら学校の正門へと進んでいく。
誰かに相談しようにも、周りに恋愛経験のある人はいない。
経験豊富な人ならもっと丁寧に断って、相手を暗くさせることはないだろう。
しかし龍助自身は恋愛とは無縁の人生だったので、全く分からない。
「龍助! おはよう!」
「おはよう」
「響也、智彦。おはよう」
龍助が下駄箱の近くまで来た瞬間に背後から聞きなれた声が挨拶してくる。
龍助も挨拶を返すが、二人して心配そうな顔をして彼を見つめてきた。
「どうしたんだよ。めちゃくちゃ具合悪そうに見えるぞ」
「あのー。実は……」
もう一人で考えるのがしんどくなったので、思わず昨日のことを話してしまう。
転校生の木闇舞日に告白されたが、咄嗟についた嘘で彼女を傷つけてしまったこと。
どうやって彼女と話せば良いのかということを全て。
「あー……。それはあんまり良くないな」
「うん。自分の気持ちをはっきり伝えられていない」
話を聞いた二人は容赦なく正論という棘を龍助の心に投げつけてくる。
ぐうの音も出ず、思わず黙ってしまう龍助を見て、響也がため息を吐きながら肩に手を置く。
「俺達も直接見たわけではないが、告白されたら誠意を持って答えた方が良いよ」
「だよな……。俺が不誠実だった」
「でも、光金さんはなんでそんな嘘を言わせたんだろうな?」
響也の励ましの言葉を聞いて、反省をしている龍助に智彦が疑問を投げかけてくる。
(確かに。人思いな叶夜がわざわざそんな嘘を言うのは不思議だな)
智彦の疑問に龍助も考えてはみるが、答えが見つからない。
人の気持ちを何より考える叶夜がそんな嘘を言い、龍助にも言わせたことが謎すぎる。
「多分龍助が困ったのと、はっきり諦めさせるためかもな」
響也の推測を聞いて、納得している自分とそうでない自分が龍助の中にいる。
叶夜の考えていることが最近分からなくなってきてしまう。
「まあそれより木闇さんだよな。ちゃんと正直に話した方が良いよ」
「そうだな。そうするよ」
智彦の提案を素直に聞き入れ、タイミングを見計らって舞日と話そうと龍助は決めた。




