第三十五話 舞日の告白
TPBで京のお見舞いをした龍助達は今施設へと向かっていた。
今回の出来事で龍助達は皆かなり疲労しているというのもあって、皆すぐに帰ることになったのだ。
「それじゃあ。俺はここでな」
「颯斗さんも色々ありがとうございました!」
「良いんだよ」
颯斗が一足先に帰ろうとしていた所を穂春が引き止めてお礼を言う。
颯斗はあっさりした回答をしたかと思えば、顔を見ると、嬉しそうに微笑んでいた。
(颯斗が笑ったところ……。初めて見たかも)
颯斗は普段ポーカーフェイスに近い表情をしているが、好きな人の前ではさすがに笑ってしまうのだろう。
「あの二人、付き合ってるの?」
「いや、強いて言えば両片思い?」
「なるほどね」
龍助が二人の関係のことを少し話すと、舞日は何かに納得した様子で二人を見守っていた。
しかしそれだけでなく、何やらモジモジともどかしいような動きを見せている。
「どうかしたか? 具合でも悪い?」
「いえ、その……」
龍助が体調を心配したが、特にそういうわけではないようだ。
「じゃあどうした?」
「天地くんは、好きな人とかいるの?」
「……え?」
突然の質問に龍助は一瞬固まってしまう。
唐突かつ、なぜ彼女が今そんなことを聞いてきたのか分からないからだ。
「なんで?」
「実は……。私……」
「ん?」
まだモジモジとしている舞日の言葉を待っていた龍助。
そんな彼をしっかり見据えて、何かを決心したように話し出す。
「私、あなたのことが好きになったの!」
「え?! 何で?」
「絶対絶命のピンチにも関わらず、諦めずに戦うところと、さっきあの青年に連れ出されそうな時も助けてくれたところを見て、好きになっちゃったの……」
予め用意されていたかのように舞日は理由を話していく。
なんとも単純な理由ではあるものの、しっかりとしているのが分かる。
何より舞日の様子を見ただけで彼女がどれだけ本気で真剣なのかも伝わった。
「そんな急に言われても……」
「分かってる。唐突にこんなことを言って困らせることは。だけど、あなたに好きな人がいたとしても、私諦めないから!」
「ええ……」
舞日の熱く真っ直ぐな気持ちを聞いて、素直に嬉しくなる。
だが、同時に困惑してしまう。なぜなら自分にはもう好きな人がいるからだ。
「悪いけど、俺には……」
「残念だけど、龍助は私と付き合っているのよね」
「え?!」
龍助が断ろうと話そうとした時、叶夜が割って入ってくる。
しかもとんでもない内容で、自分の理想を話し出したのでびっくりした。
「え、あ、そ、そうなんだよな! 俺は叶夜と付き合ってるんだよ!」
「そんな……」
龍助と叶夜の二人から自分たちが恋人同士だということを聞いた舞日は大分ショックを受けているようだ。
好きな人がいるだけならまだチャンスはあっただろうが、もう付き合っているとなると、手の出しようがない。
「そうだったのね。ごめんなさい。そうとは知らず……」
「いやまあ。言ってなかったしな! それに木闇さんにはもっと良い人が……」
「そんな人。いないわ……」
「……え?」
龍助の言葉を最後まで聞かずに、舞日は言い切ってしまう。
なぜそんなことを言ってしまったのかは分からないが、自分があまり言ってはいけないことを言ったということだけは分かった。
「それじゃ。私はこれで」
「え、あ、待っ……!」
舞日がその場から離れようとしたので、龍助が止めようとしたが、叶夜に止められてしまう。
「中途半端に優しくしたらあの子にも良くないわ」
叶夜にそう注意をされて、龍助は何も言えなくなってしまう。
ただ、今出来ることと言えば、遠ざかって行く舞日の背中を見つめることだけだった。




