第三十三話 青年の力
TPBが敵であるTBBの支部を占領し、資料や実験で作られた薬などを回収していく。
トントン拍子で進められ、あっという間に作業が完了した。
しかし龍助はあることを思い出す。
「ところで、犠牲になった人達はどうしたんだろ?」
「……彼らは殺されたあとに遺体を消滅させられたの」
「は……?」
そう、龍助が気になったのは実験台のために犠牲になってしまった人々の遺体とその行方だった。
組織員の作業をずっと見ていたが、一度も遺体を運んでいる姿を見ていなかったのだ。
龍助の疑問に対して、舞日が教えてくれた。
だが、その内容はとても悲しく残酷なものだ。少なくとも龍助にとっては。
舞日が言うには、遺体となった人々は邪魔だという理由だけで魔法を使ってその存在ごと消されてしまったらしい。
「本当に無情な奴らだな……」
「今に始まったことじゃないでしょ?」
「まあな」
龍助の怒りを叶夜が宥めるように言葉をかける。
しかし龍助は何も出来なかったという事実に対して悔いが残ってしまう。
「おいお前達。いつまでここにいるつもりだ?」
龍助が悔しさに支配されていると、背後から先程の青年が話しかけてきた。
辺りを見てみると、もう他の組織員が引き上げていてもう残っているのは龍助達だけだった。
「あんまり邪魔すると、お前達も消すぞ」
「うわあ……」
唐突に脅されて、龍助達一同は思わず引いてしまう。
しかし青年の言うことも一理あるので、急いで彼らは空間から出口へと出ていった。
そして最後に青年が出てくるとすぐに異空間の出入口へと振り返る。
出入口は校長室の隣にある部屋の片隅の壁にあった。
「ところで、お前達がすることはないだろ? なんでまだいるんだ?」
「あなたの力を見てみたいなと」
「見世物じゃないんだが?」
「邪魔はしないんで」
龍助が正直に言ってみたが、予想通りの回答だった。
だが龍助達は諦めずに粘ると、青年の方が言っても無駄なのだろうと諦めて出入口に向き直る。
「絶対に俺の前には出るなよ?」
青年の忠告を快く承諾した龍助達。
そして青年が出入口に向かって手を伸ばすが、その直前で止まり、手に光を出現させる。
光が手から離れ、出入口を通って空間内に入った瞬間だった。
小さな光から一転して、大きくなった光が空間を包んだのと同時に端から徐々に消えていくのが見える。
(すげー。でも空間が消えているというより、分解されている?)
龍助が青年の力を見て感じたことだが、空間は消えていっているのではなく、分解されていっているということだった。
そんなことを考えているうちに、もうあっという間に空間は綺麗さっぱりなくなっていた。
そこにあるのは元通りになったただの壁だけだ。
「さあ終わりだ。さっさと行くぞ」
「待ってください! 今のは分解したんですか?」
「教える義理がないんだが?」
「それくらい教えてくれたって……」
龍助が必死にお願いすることに対して青年は何も答える気はないようだった。
「それくらい教えてやれ。達春」
「兄さん……」
突然聞き覚えのある声が聞こえてきた。
声のする方へ振り返ると、そこには休暇を取っているはずの春永が立っていた。
「お前はすぐに面倒くさがる。種明かしくらいしてやれ」
「……わかったよ」
春永に説得された青年こと達春は渋々了承した。
「俺は魔法ではなく、能力を使っているんだよ。『分解の力』をな」
「分解の力……。なるほど。じゃあさっきは空間を素粒子レベルに分解したということですね?」
「そうだ。空間に力を送って分解させたんだよ」
叶夜の考察に達春が頷いて簡潔に説明してくれた。
つまり達春は異空間と維持されていた力の全てを素粒子レベルに分解したということだ。
能力の内容を聞いてみて、龍助は目の前の青年が本当に恐ろしい人物なのだと思った。




