第三十一話 舞日への対処
前回男を倒し、TPBが後始末などをしていると、今春永の代わりに組織を取り仕切っている青年が舞日を差し出すように言ってきた。
龍助が抗議しようものなら青年の的確な言葉に怯んでしまい、青年の容赦の無さに言葉を失ってしまっている。
「さあ。分かったらその娘をこちらに渡せ」
「……嫌です」
「何?」
「どんな理由でも、すぐに結論づけるのは違うと思います!」
龍助の必死な訴えに、青年は少し黙り込んでしまう。
さすがに効いたかと思ったが、男の表情は一切変わっていない。
その表情は氷のように冷たく感じる。
「仕方ない。連れてけ」
「はい」
青年が別の組織員に声をかけて舞日を無理矢理連れていこうとする。
組織員はあまり気は進まないようだったが、上からの命令であるため、それに従う。
「ちょっ! 止めて下さい!」
「すまんな。天地くん。でも仕方ないんだよ」
組織員は申し訳なさそうにしていたが、その手を止める気はなかった。
龍助が無理矢理舞日と組織員の間に割って入って止めようとする。
「いい加減にしろ。あまり手間取らせないでくれ」
青年がため息混じりにそう呟くが、今の龍助は必死で聞いていなかった。
「あまりこういうことはしたくないが……」
龍助の行動に対して言葉では止められないと悟ったのだろう。
青年が手を龍助にかざし、そこに力を集めていく。
文字通り、力ずくで舞日を連れ去ろうとしているのだ。
(まずい……!)
龍助は内心焦ってしまう。
今までどうすべきか分からず、ずっと龍助達の様子を見ていた叶夜達がさすがに危ないと止めようとする。
その時だった。
パンパンッ!
どこからか手を叩く音が二回聞こえてくる。
その音を聞いて、龍助達だけではなく、青年も動きを止めた。
「そこまでです。高校生相手に何をしていらっしゃるのですか?」
「千聖……」
「千聖さん!」
聞き覚えのある声が聞こえ、その方向に振り向くとそこにはやはり千聖が立っていた。
彼はいつもの優しい笑顔をしておらず、かなり真剣な表情をしている。
「何か用かな?」
「その子は京さん達に任せましょう。春永さんにも了承済みです」
「なんだって?」
千聖の言葉が信じられなかったのか、青年が思わず聞き返してしまう。
それに構う気もなく、千聖は舞日に歩み寄る。
「貴方には京さん達と共にTBB壊滅のために働いて貰います。良いですね?」
「は、はい! それで許されるのなら!」
舞日も一瞬何を言われたのか分からなかったが、すぐに察して返事をする。
「何を勝手に……」
「これ以上強引に進めるなら、もうあなたの協力はしませんよ?」
「……分かった」
青年は何か意義を申そうとしたが、千聖の言葉を聞いて一瞬で了承する。渋々だが。
あの男の意見を一瞬で変えさせるほどの千聖は本当に一体何者なのだろうと思う龍助達だった。




