第三十話 密室の突破方法
男との激戦の末、叶夜達の活躍もあり、何とか無事に勝利することが出来た。
しかし京に関しては男との戦闘で身体中が傷だらけになるなど重症を負ってしまったため、急いでTPBの本部に戻ることになった。
後始末などに関しては、今春永の代わりにTPBを取り仕切っている弟がすることになる。
そのため、今龍助達がいる学校の地下へとやってくるそうだ。
「どんな人だろうな。春永さんの弟さんって」
「さあね。噂じゃ直春さんと同じく軍隊に入ってるとか」
「へぇ。そうなんだ」
叶夜も会ったことは無いが、噂では聞いているらしく、力者としての実力はかなり優れており、軍隊でも重宝されているとのこと。
また軍隊の人間に会えるんだと思うと、少しワクワクしてくる龍助。
湧いてくるワクワク感を抑えつつ、龍助はあることを叶夜に聞くことにした。
「そういえば叶夜達はどうやってここに戻れたんだ?」
「それはね、実は三人ともさっきの薬が保管された異空間に飛ばされてたの」
「え?! そうだったのか?!」
「そうなんです。そして同時に、その空間に閉じ込められてました」
叶夜と穂春、そして舞日の三人は男によって隣の異空間に飛ばされた上に出入口が塞がれて閉じ込められてしまったらしい。
「その後三人で空間の扉を開く方法を探していたわ」
次に舞日が説明してくれる。
閉じ込められた三人はしばらくその場をうろついて、出入口を再び出現させる方法を模索していた。
結果、出入口を出現させるには空間のどこかにある場所に力を注ぐ必要があったのだ。
「それに気づいたらもうあとは簡単だったよ。三箇所をすぐに見つけてそこに力を注いだの」
「なんで力が必要だったんだ?」
「あの空間は力を不足させることで歪ませていたのよ」
叶夜達によれば、空間を維持している力の一部を不足させることで未完全にしていたらしい。
そうすることで、空間は歪みやすくなるという。
「なるほど。じゃあ不足している場所を補って空間を復活させたんだな」
「そういうことです!」
龍助の考察に穂春が笑顔で頷く。
だが、彼の考察は叶夜と舞日から教えてもらったことをそのまま言ったようなもの。
だから叶夜と舞日は子供を見守っているお姉さんのような目で龍助を見つめていた。
「それはそうと、そろそろTPBの人が来る頃じゃないか?」
「そうね。もう学校には着いてると思うわ」
叶夜達の視線が辛くて話題を変えた。
男を見張っている颯斗の様子も見てみると、もう何重にも男を縛っているのが見える。
縛りすぎて逆に可哀想に思えてくるくらい。
「お、来たみたいだな」
颯斗が出入口の方を見てみると、何人もの人達が入ってくる。
それを率いているのは身長が高くいかにもモデルスタイルで黒髪を持った青年だった。
「よく捕まえたな。それじゃ全員薬や資料を回収し、そこの男を連れて行け」
青年はそれだけ言って、すぐに部下たちに指示を出す。
指示を受けた部下たちはすぐさま行動を開始し、パソコンやデータに資料、隣にある薬などを回収していく。
あとは任せたら良いだろうと思い、龍助達はその場を離れようとした時だった。
「待て。そこのお前にも来てもらうぞ」
青年に呼び止められてしまう。
彼をよく見ると、龍助の背後にいる舞日を見つめていた。
「どうするつもりですか?」
「もちろん。逮捕することになるだろうな」
龍助の質問に青年は表情一つ変えずにそう言い放った。
「ま、待ってください! 彼女は利用されていたんですよ?!」
「利用されていようが、犯罪を手伝ったことに変わりはない」
龍助の反論に対して、青年は氷柱のような言葉を放って来る。
事実だということもあり、余計に辛い。
「でも……!」
「お前のその甘さで、また被害が出るかもしれないんだぞ?」
「ッ……!」
初対面の相手とは思えないほど辛辣な言葉を発してくる青年。
この青年の言うこともわかるが、納得出来ないこともある。
この場をどう突破すべきなのか、龍助には分からなかった。




