第二十七話 窮地再び
今回の事件のボスだと思われる男を倒すべく龍助達は作戦を立てて動いていた。
一時危ない場面に出くわしたが、今は全員揃って男と対峙している。
男は穂春のペルセポネで石化しているが、徐々に端からそれが解けていく。
おそらく男が文字通り全力でペルセポネを解いているのだろう。
「全く。厄介な力者が四人もいるのは分が悪いな」
そう言いながら男は手を挙げ、その周りを囲うように光が出現する。
それを龍助達に向けた途端、叶夜と舞日、そして穂春の三人が光球に包まれてしまう。
「叶夜! 穂春! 木闇さん!」
「まずい!」
龍助と京、そして颯斗が助け出そうとしたが、一歩遅かった。
叶夜達を閉じ込めた光球は浮かんだのと同時に縮こみながら消えてしまった。
「なっ……! 何をした?!」
「見てたら分かるだろ? 消したんだよ」
「このっ……!」
男に挑発された龍助は頭に血が登り、今にも飛び出しそうになった。
「よせ! 簡単に挑発に乗るな」
「そうだ。今こそ冷静になれ」
「でも! 三人が消されたんですよ?!」
京と颯斗に止められるも、龍助は納得出来なかった。
そのことを訴えると、京は首を横に振る。
「消したのではなく、別の空間に飛ばされただけだ。だから三人は無事だよ」
「えっ!? そうなの?」
思わず聞き返した龍助に対して京が頷く。
彼によると男が使ったのは相手とその周りの空間ごと別の空間に飛ばす魔法だという。
だから叶夜達は無事らしい。場所にもよるがだが。
「じゃあ急いで探さないと!」
「残念だが、この場所自体も別の空間に飛ばしているから逃げられんぞ」
急ごうとした龍助だが、今いる場所も男によって別の異空間に飛ばされたらしい。
その証拠に近くのドアを開けば目の前の全ての光景が歪んでいた。
「これを解除するにはこいつを倒さないとダメか……」
「俺たちだけだが、やるしかない」
龍助と颯斗、そして京が戦闘態勢に入る。
男も三人を始末するつもりでいるようで、構え直す。
◇◆◇
「二人は攻めに入れ。俺は援護する」
「分かった」
「分かりました」
男と戦闘を始める前に京から指示を受けると二人とも了承した。
龍助達の間にただならぬ緊張感が漂っている。それを打ち破ったのは男の方だ。
男は手を握りしめたかと思えばすぐに開く。
するとそこには禍々しい力の塊があり、それをそのまま龍助達に向けて発射する。
力は光線となり、勢いよく標的に向かって伸びてくる。
「避けろ!」
京の叫びを聞いて龍助と颯斗はすぐにその場から離れる。
光線が直撃した場所は大きな穴が開き、周りにあるパソコンなどの機器が散らばっていた。
大画面のモニターも今の衝撃で停止してしまう。
「あれを食らったら一撃で死ぬぞ!」
京の警告を頭に叩き込んで龍助達も動き出す。
まず龍助が警棒を取り出して、すぐに能力で男に近づく。
そして警棒を男に目掛けて振り下ろそうとしたが、その瞬間、龍助と男の立ち位置が逆になってしまった。
(やばい……!)
龍助と位置を入れ替えたであろう男が拳を彼にお見舞しようとしたが、背後から現れた鎖によって止められる。
颯斗が魔縛で動きを止めてくれているようだが、すぐに男の体から強い力が溢れ、鎖を吹き飛ばしてしまう。
「お前邪魔だな」
男が標的を切り替えて、颯斗に手を向けた瞬間、彼の周りが光出し、爆発する。
一瞬颯斗を心配する龍助だったが、彼の周りに防御用の結界が張られていた。
「一人一人相手にするのは面倒だな……」
男が龍助達を交互に見てそう言った。
そして足下に大きな発動式が現れ、床全体を覆う。
すると突然空間全体が地震のように大きく揺れ始めた。
「な、今度はなんだよ?!」
「まじかよ……。お前、あの魔法を使う気か?」
「邪魔者を排除するためだ」
驚く龍助達とは裏腹に、京は何かに気づいたようだ。
しかしその理由を聞く暇はなく、更に揺れが激しくなっていく。
揺れが激しくなるにつれて床と瓦礫が盛り上がってくる。まるで津波のように。
この津波を唯一止められるであろう京も回復したとはいえまだ弱っている。
龍助と颯斗もこの大掛かりな魔法を止める方法を知らない。
窮地を乗り切る方法がない彼らはこの空間自体、床と瓦礫の津波に飲み込まれるてしまうのだと察したのだった。




