二十話 回復と任務への準備
短めに書いているので少し遅く感じるかもですが、きちんと進んでいますのでよろしくお願いいたします!
色々あって医務室で療養していた龍助が次に目を覚ましたのは朝の九時だった。
昨日の千聖との会話のおかげか、ぐっすり眠れたようだ。
体を軽く伸ばすと、とても気持ちが良かった。
そんなことをしていると、ドアからノックの音が聞こえてきた。
「失礼しますね。天地くん、よく眠れましたか?」
「はい、お陰様で」
入ってきたのは千聖で、手には朝食を乗せられたお盆が持たれていた。
今日のメニューはベーコンエッグをパンに乗せたものだ。
千聖に調子を聞かれた龍助が肩を回しながらそう答えた。
それを見た千聖は安心したように微笑みながら食事を乗せたお盆を龍助の前にある折りたたみ式のテーブルの上に置いた。
「僕が作ったものですが、良ければどうぞ」
「ありがとうございます」
龍助はお礼だけ言い、ベーコンエッグパンを頬張ると、卵の黄身がとろけるように口の中に広がり、コショウのちょうど良い辛さも絶妙だった。
あまりの美味しさにあっという間に食べ終わってしまい、水を飲む。
「ごちそうさまでした。……あの、このあと薬を飲むんですか?」
「いいえ、実はこのパンの中に薬を入れていたんですよ」
食事を飲み込んだ龍助がこのあとの薬のことを考え、少し表情をひきつらせながら質問した。
余程苦かったようで、その様子を見た千聖は笑いながら首を横に振り、皿を指差しながら答えた。
その返答に龍助は驚きを隠せず、空いた口が塞がらなかった。
もし同じ薬ならとてつもない苦さがあったはずだからだ。
「どんな薬でも、効くなら飲み方を変えても良いのですよ」
千聖の工夫によって龍助は薬を、苦い味で味わわずに飲むことが出来た。
朝食を食べた後、龍助は千聖の診断を受けることになっている。
診察に必要な道具を一式持ってきた千聖は龍助に指示を出しながら診察を進めていく。
最後に口の中を見ると、千聖は安心した様子だった。
「うん、大丈夫ですね。肉体も力も安定しています。良かったです」
「ありがとうございました」
肉体はともかく、力の暴走の兆しも薄くなり、順調に回復していた。
安定してきていることに龍助は心底安堵する。
もう医務室から出てもいいとの事なので、千聖に一言お礼を言いながら医務室から出ていった。
京に昨日授業で使った空き部屋に来るようにと前もって千聖伝いに言われていた。
正直龍助は少し気まずい気持ちが強かったが道のりを聞いていたのですぐに空き部屋の前に到着してしまった。
ドアをノックすると中から京の声で入るように促される。
一呼吸置くと、ドアをゆっくりと開けた。
中では京と叶夜と颯斗が立ちながら待っていた。
龍助はゆっくりと中に入り彼らの側に近づく。
「やあ、一応は大丈夫だって?」
「はい、お陰様で。ご迷惑をおかけしました」
「気にしないの! 無事なら何よりよ」
京に問われた龍助は笑顔で答えたが、すぐに一言謝罪をした。それを見た叶夜は心底安心したように胸を撫で下ろしつつ元気づけてくれた。
しかしその横に立つ颯斗は険しい表情で見てくる。
(怒ってんのかな?)
龍助が不安そうに颯斗を見ると、叶夜がため息を吐いて颯斗の代弁をする。
「これ、一安心しているのよ。本当にわかりにくいわね」
代弁した叶夜に呆れた表情を向けられた颯斗だが、特に気にする素振りもなかった。
兎にも角にも怒っていないことに安堵した龍助は思わず頬が緩んだ。
「んじゃ、これから任務について説明するよ。と言っても本当に簡単なものだけどね」
龍助達を温かい目で見ていた京がそう言った。
簡単だと言ってもやはり任務なので緊張感を持ちながらやらなければと龍助は思う。
京が近くの椅子に腰掛けると説明を始めた。
「今回はある廃村でTBBの団体が出入りしていると情報が入ったんだ。何を行っているのかを調べるといったものだよ」
「本当に簡単なのね」
「でも油断は禁物だよ」
京の言う通り、簡単なもので、叶夜が思ったことをそのまま口にする。
それに対しては龍助も同感だが、京の一言でまた緊張が走った。
場合によっては戦闘を避けられないからだ。
「ま、油断さえしなければ簡単な任務なのは確かだから頑張ろうか」
そう言いながら椅子から立ち上がり、龍助の肩を軽く叩いた京が空き部屋を出ていく。
取り残された三人はお互いの顔を見合わせた。
「ま、まあとにかく頑張りましょ!」
少しでも気まずい空気を変えたかったのか叶夜が明るく振る舞いながらそう声をかけた。
その言葉に龍助は思わず笑みがこぼれてしまう。
「足は引っ張るなよ」
叶夜とは違い、容赦のない颯斗の棘のある言葉に龍助は何も言い返すことはできなかったが、代わりに叶夜が諌めるように彼の頭にチョップを食らわす。
「言い方があるでしょ?」
「……悪かったよ……」
叶夜の指摘に颯斗は素直に謝罪した。それを見て、龍助は思わず笑いそうなのを我慢した。
これから向かう任務はもちろん、この二人とはこれからも一緒に行動することになりそうだと薄々感じる龍助だった。




