第十九話 仲直りの勇気と謝罪
七月十六日。本日は学校が休校なので、龍助は家である施設の自分の部屋でスマホとにらめっこしている。
先程朝食前に穂春に叶夜と仲直りするという宣言をしたものの、なかなかその一歩を踏み出す勇気を出せないでいた。
(俺からあんな態度取って、今更なに言われるのか怖いな……)
スマホの画面ではもう叶夜へ連絡する準備を終えている。あとは発信するだけだが、龍助はまだ少し怯えていた。
自分勝手な理由で好きな人を傷つけるような態度をとってしまったのに、また自分の都合で仲良くしたいというのはあまりにも虫がよすぎるのではないかと。
「いや。そんなのただの言い訳だよな」
自分に喝を入れるように自分の両頬を叩き、スマホと向き直って発信ボタンを押す。
スマホからは呼び出し音が流れてくると、今から自分が叶夜と向き合うのだと実感が湧いてくる。
しばらく呼び出し音を耳に入れていると、ようやくお目当ての人物の声が聞こえてくる。
『もしもし?』
「よお。叶夜」
『龍助? どうしたの?』
答えている叶夜の声は少し控えめでいつもの元気さはあまりないようだ。
「昨日のことで話がしたいんだけど」
『……私もその話をしたかったの』
「今から話せるか?」
『分かった。電話じゃ聞きづらいこともあるから今からいつもの公園で集合しましょ』
「了解。気をつけて来いよ」
龍助が忠告をすると、叶夜は優しい声で返事をした。
最後の方では彼女の声がいつもの元気さを取り戻していたように感じて、少しだけホッと胸を撫で下ろす龍助。
「さて、すぐに公園へ行かないと」
約束を取り付けた龍助はすぐに服を着替えて部屋を出て、施設から出ていく。
念の為、穂春に近くの公園へ出てくることを連絡しておくと、すぐに了承の返事が返ってきた。
すぐに仲直りをして、少しでも頼ってもらえるようにしようと思いながら公園へ向かう龍助だった。
◇◆◇
施設から公園への距離は短いので、すぐに着いた龍助は叶夜の到着を待っていた。
暇つぶしにスマホを弄っていると、いつもの聞きなれた少女の声が聞こえてくる。
「龍助。おまたせ!」
「おー。早かったな」
「少しでも早く話したかったから」
龍助が叶夜を見た時、急いだからか、彼女の額から汗が流れているのが見える。
見るからに疲れているので、龍助は近くにある自販機で水を買って叶夜に渡す。
「ありがとう!」
「少し休憩してから話そうか」
龍助の言葉に甘えて、叶夜は水を飲みながら少し休憩する。
そして、一息ついた所を見計らって龍助が話を切り出す。
「まず、昨日は悪かった! 叶夜の事情を聞かずに悪い態度をとって」
「いいえ。私が何も言わなかったのが悪いし、龍助達にも余計な不安を持たせたわ」
「そんなことない! でも、事情を聞かせてもらってもいいか?」
「そうね。まずはそこからよね」
龍助の質問に叶夜が深呼吸して、何かを決心して龍助へと向き直る。
「実は私……」
言いかけてまた躊躇してしまう叶夜だが、後戻り出来ないと分かっているので、もう一度話し出そうとした。
しかし……。
「あら? こんなところで偶然ね」
叶夜が告発をする前に、それを阻害する者が現れた。
その声を聞いて、すぐに龍助達は警戒態勢に入る。
「そんな警戒するなんて……。まあ今は敵同士だから仕方ないね」
その言葉の後に、龍助達の前から白い霧が出現する。
霧が大きく広がっていくと、その場のものが徐々に凍っていく。
そして、霧の中から一つの人影が現れた。
「いつも肝心なところで邪魔してくるわね」
「人聞き悪いわね。あなた達のタイミングが悪いのよ」
叶夜の言葉に反論しながら、霧の中から出てきたのはあの舞日だ。
彼女が現れただけだというのに、公園一帯が冬のように寒くなっていく。
舞日の登場は予想外だったので、あからさまに慌ててしまう龍助だった。




