十七話 龍助の暴走
京の提案で模擬戦をすることになり、たった今叶夜と颯斗の訓練が終わった。
「流石だな。叶夜」
叶夜との模擬戦を終えた颯斗が完全にお手上げだというように諦めていた。
「颯斗も凄かったよ」
お互いが褒め合う姿に龍助は少し感動していた。
「そういえば、叶夜が姿を消したあれはなんだったんだ?」
「あれは光の力を使った光学迷彩よ」
光学迷彩。それはカメレオンなどの動物が使う視覚的(光学的)対象を透明化する技術のこと。
叶夜の説明を聞いて、よくSF作品なんかで見かけるものが現実で見ることが出来るとは思わず、龍助は目を輝かせて感動してしまった。
◇◆◇
「さて、次は龍助と俺だね」
いよいよ自分の番になり、龍助は少し緊張する。病院で一度実戦しているとはいえ、あの時は奇跡のようなものだったため、本当に自分の意思で能力を使うのはこれが初めてだ。
まだ使いこなせるわけではないため、そういう不安も龍助の中にはあった。
しかも相手はあの京だ。緊張が半端では無い。
不安そうにしているのに気づいたのか、叶夜が龍助の肩に手を置き、明るく微笑む。
「大丈夫よ。今はただの模擬戦なんだし、そんなに不安がることはないわ。自分の今のレベルを気軽に見てみたら良いと思う」
叶夜の明るい言葉に龍助は感謝した。コートに入ってすぐ自分の立ち位置につき、京も龍助の反対側の立ち位置についた。
龍助は早速先ほど千聖から渡された警棒を取り出した。
「二人とも準備は良いですか?」
審判である颯斗に問いかけられた龍助達二人は無言で頷いた。
了解の合図だ。それを見た颯斗は片腕を上げ、そのまま振り下ろし、「始め!」と彼らしからぬ大きな声で開始の合図を出した。
合図と共に京が指を龍助に向けて早速一つの魔弾を放った。
それに対し龍助は先ほど彼に教えてもらった簡単に能力を使う方法を早速試す。
意識を集中させ、体全体に行き渡るイメージで力を流し、全身の身体能力を上げて魔弾をかわした。
かわしてすぐに体勢を整えた龍助は思いっきり地面を蹴り、素早く京の目の前にまで近づきながら警棒を振った。
振られた警棒だが、対象に当たらず、まるで見えない壁に弾かれたように外れてしまう。
龍助の攻撃は加減をしていても、肉体の力で強化されていたためかなり重い。
そして弾かれた警棒は勢いよく空を切る。
警棒を振り切った龍助は身を引き、京から距離を取った。
真剣な龍助は相手を睨んでおり、もはや模擬戦であることを忘れていると思わせるくらい彼は戦闘に集中していた。
お互いがお互いの技を見て、次の行動を考えている。
次に動き出したのは龍助だった。先ほどと同じく能力を駆使して素早く近づくが、それを予想していたように京が魔弾を龍助に放つ。
「え?」
予想外の攻撃に龍助はなすすべもなく、魔弾に的中してしまった。
咄嗟に顔面を、強化した両腕で庇ったので、ダメージは少なかった。
魔弾のお返しに龍助が素早く京の目の前にまで近づいて警棒を先程と同じように振ったが、またもや地面へと標的が変わっしまう。
地面に警棒を叩きつけ、亀裂を入れた瞬間、龍助の身に異変が起こった。
腕に僅かな痛みが走り、思わずもう片方の手で押さえ込みながらうずくまってしまった。
しかし痛みは一瞬の出来事で、腕を押さえていたらすぐに引き、龍助は体勢を整えた。
「龍助、これ以上はやめた方がいい。力者の致命傷が出始めてるよ」
「大丈夫。まだやれる……」
痛がっていた龍助を見て、模擬戦をやめるように促してきた京だが、龍助はまだやれるという意思表示をするかのように首を横に振った。
このまま継続する気だ。それを見た京は少し乗り気ではないが、このまま継続することにした。
龍助が再び能力を発動しようとしたが、その時に更なる異変が起きた。
彼の体から、とてつもなく大きい力が湧き出ている。
足元の地面に亀裂が入り、そのヒビが広がっていっている。
(な、なんだよこれ?︎︎力が、制御出来ない!)
自分の意思とは関係なしに溢れ出る大きな力をまとった龍助はどうにか抑えようとするも、全く止めることが出来ない。
感覚もおかしくなり、目からも何か溢れている。
そしてさらに、異変は肉体だけに留まらなかった。
(痛いし苦しい……。でも、これなら、戦える!)
この力さえあれば、京に勝てる。
そんな思いが龍助の頭の中を徐々に侵食していく。
見えない何かに頭を支配された龍助は一瞬で姿を消し、京の背後に回る。
手にしている警棒を力一杯に振るが、先程と同じように、標的が男から地面へと逸れてしまう。
警棒が触れた地面は先程の比にならないくらいに辺り一面抉ってしまった。
(くそっ!︎︎どうすれば当たるんだよ!︎︎もっと力を高めれば……!)
ずっと龍助の頭を支配しているものがとうとう彼の意思にまで侵食してきた。
龍助が次の行動を移そうとすると、突然力が抜けていく感覚に襲われる。
徐々に抜けていく中、足の力も無くなり、膝から崩れ落ちて倒れてしまう。
「悪いけど、一時的に能力を無しにしたよ」
その言葉と目を光らせている京を見て、龍助は自分が無名の魔眼の力で力を失ったのだろうと予想する。
まだ支配されている龍助は僅かに動く目で京を睨んだ。その目は充血しており、赤い光を帯びている。
そして、遠のいていく意識の中、たくさんの感情を抱きながら彼はそのまま力尽きて気絶してしまった。




