三十二話 清の正体
千聖の助けもあり無事、窮地を乗り切った龍助達。
今彼らは糸でぐるぐる巻きにされた清に事情聴取的なことをしていたが、当の本人は全く喋らない。
「いい加減話したら? どうせ逃げられないんだし」
「……」
龍助が声をかけるも、清はそっぽ向くだけだ。
しかし、逃げられないのもまた事実だ。
なぜなら今清を縛っている糸は千聖お手製のもので、見えないくらい細いのに、とんでもなく丈夫に出来ている。
どのくらいかというと、なんでも斬ることが出来る刀ですら切断が出来ず、逆に刀を折ってしまうくらいらしい。
(そんなものを何重にも縛られて、ある意味哀れだな)
細く硬い糸を何重にもきつく縛られていたら肉体にくい込んで痛いのではないかと考えてしまう龍助。
そういう意味では解いてあげたいが、糸を緩めたらすぐに逃げられてしまうので、そこは気にしない方針でいこうと切り替えた。
「ふん、俺を捕まえただけで解決にはならないよ」
捕まってなお余裕そうに御託を並べる清。
どうやって情報を聞き出したものかと悩んでいると、千聖が龍助の隣に立つ。
「そういえばあなた、TBBのトップではないけど、近しい立ち位置ですね」
「え? そうなんですか?」
龍助の質問に千聖は笑顔で頷く。
「彼はいわゆる本当のトップの方の影武者なんですよ」
彼は本当のボスの身代わり的な存在らしい。
最近の調査で判明したと千聖は言う。
「ただ、彼が孝介くんに指示を出したのは事実です」
「貴様……。なぜそんなことまで」
「情報収集は得意なんです」
驚く清に千聖が得意気に言った。
千聖の口ぶりなどから最早得意という領域ではないのでは思ってしまう龍助。
「結局この人から聞く必要がありませんでしたね」
「そうですが、連れていかないとですからね」
穂春の言葉に共感した千聖が清をTBBに連れていこうと彼に近づこうとしたその瞬間、千聖の足下に数本のナイフが飛んできた。
「千聖さん! 大丈夫ですか?!」
「来てはダメです!」
心配した龍助が近づこうとしたが、千聖に止められてしまう。
龍助が止まったのと同時に、ナイフから煙のようなものが噴射される。
(見えない!)
「兄さん! 離れてください!」
辺り一面煙が漂い、龍助達の体を飲み込んでいく。
吸ってはいけないと直感した龍助は煙の対処を急いで考えていた。
しかし、穂春が一声かけた後に煙の濃度が薄くなってくる。
というよりは煙がナイフに吸い込まれるように流れていく。
まるで逆再生をしているかのようだ。
(穂春の魔法か?)
力の感じ的に、今の現象は穂春の手によって起こされたことだと分かった。
龍助は妹の方へ目をやると、予想通り、彼女が魔法で煙を凝縮していた。
「煙を縮めたのは良いけど、この後どうすれば……」
「任せてください」
龍助の声に穂春が答えると、一つの塊になっていた煙が徐々に消えていく。
次から次へと様々な現象が起きるので、龍助の頭の中では情報の渋滞となっていた。
「煙を無害な酸素に変えたのですね」
「え、そんな魔法があるんですか?」
「ありますよ。『改変』という魔法ですね」
いつの間にやら、ずっと龍助の隣に立っていた千聖曰く、穂春が使ったのは、なんでも自分の好きな状態へと変換する「改変」という魔法らしい。
(そんなすごい魔法まであるのか……)
龍助は魔法のことはもちろん、それを使いこなしている穂春の能力はすごいものだなと実感したのだった。




