【1572】決戦
そこは草が一面に敷かれてあるような原野であった。風が吹くと、草が一斉に揺れ始め、草独特の匂いがした。
こんなに落ち着いた場所は現代にはないだろう。この場所で今から合戦が起きるとは誰も予想できまい。ただ、いつもとは違う雰囲気が流れていた。これが合戦の空気というのだろうか。
俺と智樹は20人ほどとついさっき加久籐城を出て島津軍と合流した。そして、俺たちの将来の主君、今は主君の弟の島津義弘と再会した。
「おぉ、よく来たな。お前らは初陣で人を斬ったことがなくて、最初は怖いだろう。だがな、次第に慣れてくるから大丈夫だ!」
義弘は親指をぐっ、と立てた。俺は苦しながらもはい、と言った。兄はというと、
「今から、ほんとに、人、ころす…の…か?」
かなり動揺していた。ただ、兄貴のことを知っている俺はずりずりと引きずりながら持ち場へと戻ろうとした。
すると義弘は、俺の名前を呼んだ
「一樹、お前があの20人の部将となれ、兄貴じゃ頼りn…」
「いえ、智樹が部将でございます。これは義弘様に何を言われようともかわりませぬ。お願いいたします。」
義弘は少し考え込んだ後、
「わかった。一樹がそこまで言うのならそうしよう。ただ、お前らは先陣だ。何があっても家臣といえども知らんぞ。」
「はっ。ありがたき幸せ。この草間一樹、島津家の家臣になれただけでも幸せ。ましてや義弘様のもとで死ねるなど嬉しい極みでございます。」
「うむ、武運を祈る」
俺は忠堅に預けていた智樹を拾って、戻った。
「兄貴、もうすぐだぞ。この20人の将なんだからしっかりしないと」
「いや、この状況で落ち着いてる一樹がすごいと思うぜ?」
まぁ、それはそうかもしれない。だが、俺らに従軍している20人は
「こんな大将で大丈夫か?」
「これ、寝返るか?」
と言う声も聞こえてきた。仕方あるまい。最終手段を出そう。
「おい、皆の衆、ひとつ指示をする。伊藤軍の間に入れ」
「何を無茶な…」
「私は最小限の被害で抑えたい。だからこういう一か八かのかけに出ておる」
「お言葉ですが、我らは会って数時間の者の指示に従う気はありませぬ。」
「俺らが島津義弘に剣の勝負で勝ったと言ってもか?」
「は?あの、義弘様に?…わかりました。やりましょう」
さすが、島津軍。覚えがいい。あぁ、忘れてた。一番肝心な兄貴を
「兄貴、実はなあいつらはリア充だ。わかったな?」
「あいつら、リア充?」
「そうだ、あいつらはリア充。兄貴の憎いリア充だ」
「リア充、りあじゅう、リアジュウユルサナイ」
兄貴はとにかくカップルが嫌いだ。昔、ベンチに座っていたバカップルの頭をもぐ勢いで蹴りを回していたことがあったほどである。
あの時はやばかったな… まぁ、リア充撲滅委員会というものがあったら間違いなく幹部に選ばれているだろう。
「お前らぁー!いいか、あいつらを、リア充を死んでも殺せぇ!」
『お、おぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!』
士気が上がったからよしとしよう。兵たちは「リア充」が何者なのかわかっていないだろうが。
「草間隊出陣じゃぁ!」
俺はそれっぽく腕を振る。一回やってみたかったんだよなぁ。と思いながら走る。
やっぱり、俺の足は早かった。だが、それ以上に憎悪に満ちた兄貴はその先を行っていた。というか既に10人ほど蹴散らしていた。
俺もようやく相手の陣まできた。とりあえず前から潰していく。しっかり相手の急所を突いていく。
「おい!祐次様の方に向かっていくやつがいるぞ!止めろ!」
「無理だ、あいつは人じゃないぞ、あれは…何かに取り憑かれた獣じゃあ!」
「待て、向こうにも巨大な壁のような…しかも強い、前を守れ!」
敵は混乱し、前後に完全に分かれた。よし、今だ。
「今じゃ!入れぇー!」
その伊東兵の間に20名の島津兵が入った。さらに伊東軍は混乱する。兄貴の方はするすると気持ちがいいほど人が倒れていく。
「敵の大将、討ち取ったりー!」
兄貴の声である。敵はその罵声を聞いた途端、敵は一斉に泣き崩れた。
始まって約20分である。22人で敵の兵の3分の2を倒した挙句、敵将の首まで取った。
「兄貴!」
「おう!お前のおかげで第一功あげれたぜ!さすが俺の弟!」
すると義弘が駆け寄ってきた。
「お前ら、よくやったな!まさかこれほど強いとは…これからもよろしく頼んだぞ」
「はっ!」
俺はすごい嬉しかった。だが、兄貴は少し悲しそうな顔をしていた。
「どうした、智樹。何か悪いことでもあったか?」
「はぁ、戦いに勝利したのは良いことですが、私の軍は半数もの人数を失ってしまいました。」
確かに、かなり無理な作戦だったため、死者は必至だ。
「私は味方が誰も死なないような戦をします。これからも精進してまいります。」
「うむ、じゃが、今回も見事じゃったぞ30倍もの兵力の敵を倒すとは見事な限りじゃ。無理だけはせんようにな。」
「はっ!」
やはり、兄貴は兄貴であった。人想いの優しい人間であった。と思いきや、
「てか、お前もよく考えればリア充じゃねえか!っざけんじゃねえ!」
弟に向かって殴りかかってきた。まぁ、世話の焼ける兄貴だ。
俺と兄貴がじゃれあっていると、
「あぁ、一樹ぃ」
聞き馴染みのある声が聞こえてきた。まるで、背が凍るような、だがどこかで会いたいような声だった。
後ろを振り返ると、そこには髪の毛ボサボサで少し病気のような痩せ方をしていた。顔は前髪で見えなかった。だが、面影はあった。
「さっ…ちゃん?」
「一樹ぃ、一樹〜!」
俺と彼女は抱き合った。お互い、泣きながら。
ーーー
智樹「いちゃつくなぁ〜!こんな原っぱでぇ!」
このペースで書けば年越すまでには書けそうです。
かけなかったらごめんなさい