【1772】鬼島津
俺と智樹と忠堅は剣道場へと向かった。まぁ、他のこともできないことはなかったが、忠堅が是非というので剣術を見せることにした。剣道場へ向かう間、俺はリラックスしていたが、なぜか智樹は表情が苦しそうだった。
「どうした兄貴?いつもの兄貴じゃないぞ」
すると智樹は小さな声で
「お前、後ろからの気配感じないのか?」
「え?」
そういわれてみれば、確かに背後に違和感を感じる。それも何か大きなものを。
そんなことを考えているうちに、
「着きましたよ。ここが剣道場です」
「おぉ〜」
そこは広く、とても粛々としていた。強豪校である俺の学校の剣道場の何倍もありそうだ。
「凄いな…」
「そりゃあもちろんあの方が練習しなさるのですから。それ相応の大きさにしておかないと私共が何人いても足りないですよ〜」
といって忠堅が俺たちの後ろを指差した。俺はすぐに振り返ったが、智樹は今にも吐きそうな顔をしていた。
そして、俺は思った。
兄貴の反応は間違っていなかった、と。
俺たちの背後に大男がいた。しかもかなり圧が強めの。大男は、
「おぉ、大丈夫か?」
と言って智樹を心配している。俺は胃がしぼみそうなのを我慢して聞いた。
「あなたの、お名前は、なんでしょうか?」
すると大男は、ふっと笑った。
「刀の使いでも、さすがにわからんかったか。わしは島津義弘じゃ。」
「え、えーーーーーー?」
驚いた。まさかこんなにも早く鬼島津に出会えるなんて…
「義弘様、やはり風格を隠すのがお上手なようで」
「まぁな。これで次の戦いもなんとかなりそうじゃ」
いや、絶対無理でしょ。兄貴が吐くぐらい圧かけてたのに。忠堅と義弘どんだけ鈍感なんだよ。
「とりあえず、練習、始めましょうか」
まぁ、いっちょやるか。
***
ボコボコだった。ほんとにやってしまった。こりゃ戦いに行ったら生きていけない。
「まぁ、こんなもんでしょ」
「負けました…まぁ、本番は伊藤軍ですから。戦い抜きましょう」
「はい!」
まぁ、まさか俺たち兄弟が島津家の当主になる男と家臣を倒したなど言えたことではないだろう。