【現代】野菜ジュース
「あぁ、死にそ」
「どうした急に?」
「もう、だめだわ。全国で優勝という蜜を吸えない限り、俺は死ぬ」
「どんだけ過去の栄光に浸ってんだよ」
「あぁ?なめんじゃねえぞこんにゃろう。今日もタコ殴りにしてやるわ」
「やれるもんならやってみろや」
今喧嘩を売ってきた方は俺の兄、草間智樹だ。高2だ。兄は剣道、弓道、ボクシングをやっていてインターハイで
3冠・2連覇している。プロからもオファーが来ていてマスコミからも注目されている。ちなみに俺はその弟の一樹。
俺は格闘技などまっぴらごめんだったので、陸上部に入っている。まぁ、兄のおかげでそこそこ強くなり、楽しさは人並み以上にはできるつもりだ。
「今日も俺の勝ち〜。」
「そりゃそうだろ。全国の人が素人中学3年生に負けてちゃ終わりだろ。」
「まぁな。でも、かなり強くなってると思うぞ。陸上部やめてこっちの世界こいよ。」
「やだよ。俺、全国トップ8はいれるぐらいなんだから。」
「なんだよ、スポーツもできて、勉強もできるのに。もっと貪欲にいけよ。正直お前、どっちもできるだろ。昔の時代じゃお前死んどんぞ」
嘘である。俺はスポーツも勉強もどっちつかずで、中途半端な人間である。それに対して兄は、スポーツ一本に絞ってやっている。それに、俺はどこか憧れを抱いていた。
「俺どっちもできないし。てか昔っていつだよ」
「うーん、戦国時代とか?」
「ははは、でもそんなのタイムリープでもしなきゃ無理じゃん」
「だよな。でも、一回行ってみたくないか?そこで戦いに勝ちまくってパリピでHOOO!って」
「そんな甘くない!歴史という物にはロマンがあって、もっと駆け引きとか情報操作とか…」
「さすが一樹w」
俺には誰にも負けないと思っていることが一つある。それが歴史だ。物心ついた時から好きで、月に一回、古戦場とかも結構行く。かなり知っていて、歴史検定一級も持っている。
「てか、お前時間大丈夫?さっちゃん待たせてない?」
さっちゃんとは、俺の彼女である。名前が幸だからさっちゃん。俺の学年の中でもトップレベルに可愛い。
ちなみにスリーサイズもトッ…それはさておき今日さっちゃんと約束、約束、約…あ、忘れてた〜!12時から約束してんだった〜〜!今の時間は…11時50分。よし、詰んだな。
「お前時間詰んでんのによくそんないける!みたいな顔できるよな」
「詰んでるからこそだよ。あと、にいちゃんもだろ。」
「俺はいいんだよ。どーせ高木だし、2時間遅刻してくるわ」
兄も今日は高木先輩と遊びに行くそうだ。
俺はそういう問題じゃないだろと思いながらメッセージアプリでさっちゃんに『すまん、遅れる』と連絡した。するとすぐ返信が返ってきた。『え?もちろん彼女待たせたりしないよねぇ?もし待た…』
これ以上読むとまずいと思ったので、すぐに着替えて、出ようとした。同じく予定が入っていた兄も文句を言いながら、準備はしていた。
すると、突然母が、部屋に入ってきて、
「あんたたち、気合い入れにこれ飲んで来なさい。」
自信満々に持って来たのは、母の手作りであろう野菜ジュースだった。
せっかく母が作ってくれたので仕方なく飲んだ。
「苦っ!何が…うっ!」
「兄ちゃん?どうし…たっの…」
突然激しい目まいと腹痛、吐き気に襲われた。状況を見ていると兄も同様だった。
「救急車…救急車を…」
「にいちゃん…」
俺らは二人して10畳の部屋に倒れ込んだ。
「ふふ、死んでも歴史を変えてくるのよ…」
日曜の朝、ドタバタから始まった一日。まさか、ここから全てが変わることになった。
ほとんど史実通りですが、時々変更している時があります。尚、諸説あり。