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7 女形(おやま)人形

「――さて」


 春平が居なくなったのを見計らって、冬樹が悪い笑みを浮かべて振りかえった。


「紙袋の中身、拝見しよか」

「え?」


 驚く秋恵とは対照的に、皐月(さつき)がニコニコしながら、


「そこの、机のトコに座って見ましょうか?」と言った。

「ええねぇ、皐月(さつき)ちゃん。その案、採用や」

「あ、あの」


 秋恵が引きとめた。


「勝手にそんなことするんは……」

「かまへん、かまへん」と冬樹。「あいつはそんなことで怒るようなヤツちゃうし、元々、神社で見せてもらう予定やったやん?」


「そうそう」と、うなずく皐月(さつき)。「秋恵ちゃんかて気になるやろ?」

「それは、その……」


 と言ってから、はにかみ笑いを浮かべ、


「気になります……」と答えた。

「決まりやね」


 三人は席に座り、机の上に置いた紙袋からガラスケースを取りだした。中には『女形(おやま)人形』が入っている。

 髪を()っているタイプでは無く、後ろ髪を垂らした、珍しいタイプの人形だった。


 服装は振袖(ふりそで)姿で、紅白を基調とした色(づか)い、右手には開いた黄金(こがね)色の扇がある。ただ、全体的に色あせていた。


「へぇ~」と、皐月(さつき)が感心する。「思った以上に綺麗(きれい)な人形やね。もっとくすんでるんかと思ってたけど」


末広(すえひろ)っちゅうヤツかなぁ? どうなんやろ」


 少しして、秋恵が独りでにうなずいた。何かに納得してるような顔をしていたから、冬樹が「どないしたん?」と尋ねた。


「あの神社、人形供養の神社やったんですね?」

「せやで。正確には人形と針の供養やけどね」

「あそこにあるたくさんの人形、全部、持ち込みなんですか?」


「そうらしいわ。

 まあ、今の時代に人形買うなんてこと無いやろうけど、ちょっと昔まではお祝いの贈り物とかに買ったりしてたらしいし、今でも田舎(いなか)では、そういうやり取りあるって話、聞いたことあるわ」


「へぇ~……」

「一回、栄谷(さかえだに)君に昔の淡島神社の写真みせてもろたんやけど…… まぁ、すごい数の人形が並んどったわ」

「やっぱり、昔の方がたくさん人形あったんですね」


「せやから『いわく付き』のモンも多かったんやろなぁ」

「えっ?」

「あの神社の地下にはな、秋恵ちゃん…… 『いわく付き』のモンがようさん納められてるんやで……?」


 青ざめた秋恵が固唾(かたず)をのんでいた。


「大丈夫、大丈夫」


 皐月(さつき)が苦笑いながら手招きしつつ言った。


「部長って夏場になったら、なんでも怖い話に結びつけようとするから。前なんか豆腐の悪魔とかワケ分からんこと言うてたし」


「つれやんなぁ、皐月(さつき)ちゃんは……」

「怖いの苦手な子に、そんな話振ったらアカンでしょう?」


 冬樹が頭をかきながら謝った。そして、(のぞ)き込むように皐月(さつき)の腕時計へ目をやり、


「そろそろ晩ご飯の時間やね」と言った。

「あ、ほんまですね」


 皐月(さつき)が自分の腕時計に目をやりながら言った。


「すまんけど皐月(さつき)ちゃん、紙袋もっといてくれへん?」と言い、冬樹が人形の入ったガラスケースを持ちあげた。


「了解です」


 と、それを受けとるような形で、皐月(さつき)が紙袋を広げる。

 徐々に紙袋の中へ沈んでいく人形を、秋恵は不安気な顔で見つめていた。

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